パナマ帽 《掌編小説》
東京駅からやってきた東海道線に乗り込む。人があふれんばかりの通勤時間のホームを、横目に下りの電車に乗る快感。たまらない。
窓の外がのどかになるにつれ席が空き続け、ついに私も腰を下ろした。
私って、実はまだ、初々しきピンク色の蕾なんだろうか。
あるいは、花も咲かぬまま枯れゆく運命なのか。
おそらく、そのどちらでもあるのかもしれない。
恋愛、就職、結婚、出世、出産、育児、みんなの嬉しいニュースが羨ましいようで 、それらはすべて、嘘で塗り固めた空虚なドンチャン騒ぎのようで。
真顔でいいね、いいねと押して、Facebookを閉じ、見知らぬ駅のプラットホームに降り立った。
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緑が鋭く、潔い。
夏の知らせに体じゅうの細胞が開いている。
強めに吹き抜ける風が心地よい。
おろしたての萌黄色に染めた麻のワイドパンツに、黒地に金色のバックルが光るフラットサンダル、真っ白く長すぎるくらいのロングシャツに、シェルをたくさん連ねたロングネックレス、エスニック調に編まれたポシェット。
パナマ帽も外せない。それから深緑色のサングラス。
こんな格好見せられない。どうにも、私の好き放題、やりすぎだから。
私は誰の印象にも残らない服を着て、人の目から逃れた気になっているような人間だ。人間は社会的動物だというが、その社会性を排して生きたい。
そんなことを思う時私は精神異常者なんだろうか。しかしそれでも仕事にも何にも支障はないのだから、問題はないのだろうか。
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今日は海に会いにきた。
駅からまっすぐ急な坂を下りきり、テトラポッドの群れに合流、そのままあぐらで座り込んで一息。ポシェットとパナマ帽をあったかいテトラポッドに置く。
私、やっとここまで来れた。
ずっとずっと来たかったのに、ずっと私に背を向けて、忙しいふりばかりしていた。自分の用事はいつも一番最後になって、いつ間にか海の藻屑。
藻屑になった私のかけら。拾えるだろうか。
パナマ帽をかぶり直し、おぼつかない足取りで波に近づく。
風が強く、波が荒々しい。しぶきが顔まで飛んでくる。
打ち上がった魚。海のにおい。
夏休みが始まり学校から解き放たれた小学生男子が2人、漁師のおじいさんが1人、カモメが3羽、そして私。
海辺は、物好きの集まりのような体をなしている。
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ばさり、びゅう、
思わず目を覆う。
突風が私のパナマ帽がふきとばし、空高く舞い上がった音であった。
あまりに一瞬で、笑ってしまう。
やっぱり私、
はなひらくのをウズウズ待っているわけでも、
むなしく枯れているわけでもない。
ただ、生きている。それだけなの。それだけで十分なんだ。
海が大きく頷いた。
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まきむぅの手乗り文芸部 投稿作品
2017年4月の800字小説 テーマ:はなひらく
(↑忙しくなり退会してしまいましたが、とっても楽しい文芸部でした♪)
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こんにちは。原口あゆみです。
今日は2年前に書いた800字小説を加筆修正したものを貼ってみました。
梅雨あけがとても嬉しく、そんな季節のお話をしたかったのと、久々小説というものにちょこっと手を出そうかな?と思ったので...
きっかけは、以下の企画。創作系縛りなので久しぶりに小説挑戦しようかなと!(詩や短歌/俳句もOK)
締め切りは8/18まで、文字数は2000字まで。
早くも応募は集まっているみたいです。みんな、早い〜!!
ps. またしても、明日の予告をスキボタンに忍ばせてます。よかったらポチっていってください!(まだ書けてないので、100%とは言えませんが笑)
*ひかむろのヒトコマ*
やっと梅雨あけ!明るい!万歳!
石を撮影したくなるお天気。
気分も晴れていきますね。
誰でも「スキ(♡)」できます。「読んだよ」って軽い気持ちで押してくれたら嬉しいです^^ サポートはnoteを書くカフェ代に使わせていただきます。ありがとうございます。