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「私たちは乃木坂46だ」という覚悟〜9thバスラ3期生ライブ〜

2019年の真夏の全国ツアー、テーマは「継承」だった。先輩から後輩への継承。後輩メンバーが乃木坂46を受け継ぐ。あるいは技術、あるいは想い、あるいは覚悟、それらを先輩後輩が一緒にパフォーマンスすることによって継承したのがあの夏だった。では今回の3期生ライブもそうだったのか。出した答えは否だ。今回のライブのテーマは「継承」ではなかった。それは先輩→3期生という関係のみで完結するものではないからだ。

前日に行われた4期生ライブでのテーマは「追体験」だった。

4期生はかつて主に1期生が体験したことを追体験することによって乃木坂46であろうとし続けた。では3期生ライブのテーマも「追体験」だったかというとそれも違う。追体験とは「他人が経験したことを自分の体験として捉えなおすこと」である。3期生ライブは3期生がこれまで経験していないことを経験するのではなく、今まで彼女たち自身が歩んできた道のりをなぞったライブだったように思う。

『三番目の風』から始まったライブ。4年前の3期生単独ライブも始まりはこの曲からだった。「三番目の風になろう」「僕たちは恐れてない」という初期衝動をもってこの先の道のりを再び歩いていく。『未来の答え』『トキトキメキメキ』『自分じゃない感じ』『僕の衝動』『毎日がBrand new day』。「未来に答えはある」「僕のこの想い伝えよう」「愛が欲しい だって変わらなきゃ」「本気を見せよう」「ダメだったらやり直せばいい ずっとずっと僕がついてるよ」とそれぞれの3期生曲がその時の3期生を表すそのものになっていて、自分たちの曲を最後の最後まで温存し続けた前日の4期生ライブとは違い最初にやることによって、その最初のブロックのみでこれまでの3期生の歩みとそして覚悟を見せつけていた。

続く衣装にフォーカスを当てたブロック。好戦的なBGMと共に「衣装は戦闘服」「それは私たちを乃木坂46にしてくれるもの」と語られたVTRが明け、12人はそれぞれの衣装に身を包み登場した。帰り道、命、全ツ19、シンクロ、インフル、My ruleと否応にもそれをかつて身に纏っていた先輩たちとその姿を重ね合わせてしまう。これはきっと3期生による先輩への、乃木坂46への、ファンへの挑戦状でもあったんだと思う。「憧れ」と「追憶」、憧れだったもの、かつて自身も着たもの、それらに今の自分を重ね合わせる。『帰り道は遠回りしたくなる』も『命は美しい』も『My rule』も憧れとリスペクトを持ちつつも負けるものかと上書きしようとしているかのようだった。『三角の空き地』も『逃げ水』も彼女たちが通ってきた道。次のパートでは12人がそれぞれ別々の衣装を着ていた。憧れも想いも覚悟も胸に「自分で」選んだ衣装たちで披露されたのは『不眠症』。くぼしたが選抜を従えてWセンターに立ったこの曲を上書きするように、12人がそれぞれの意思を持って覚悟を見せるようなパフォーマンスだった。思い出さないことなど不可能な『サヨナラの意味』も同様にして上書きしていく。それは誰一人欠けることなく12人でここまで来たからこそできることでもある。初めて先輩たちと共にステージに立った5thバスラの『ハルジオンが咲く頃』『白い雲にのって』『ハウス!』もあの時と同じ順番で披露する。当時3期生に大切な曲をやらせるなという否定の声もなかったわけではない。それでも彼女たちはそんな過去と向き合い重ね合わせ上書きをする。

岩本蓮加と向井葉月がギターを務めアコースティックver.で披露された『僕だけの光』、そして続く『僕が行かなきゃ誰が行くんだ?』という選曲はニクイにも程があった。衣装のブロックとこの後のブロックの繋ぎにあるようなところにおいても愚直に3期生、ひいては乃木坂46の物語を進めることをやめなかった。唯一2つある3期生のみのユニット曲の『言霊砲』『平行線』。「交わらないから永遠なんだ」と今の3期生が歌うことに運命を感じざるを得ない。『ロマンスのスタート』では客席に設置されたファンからのメッセージで愛を確かめ合い最後のブロックへ突き進んでいく。

4期生曲『Out of the blue』、2期生曲『アナスターシャ』、1期生曲『Against』、「歌い継ぐことを辞めちゃいけない」「原点であり頂点に食らい付いていくのが私たちの使命」と語る久保史緒里の覚悟に胸打たれる。先輩も後輩も含めての「乃木坂46」なんだ。特に『Against』の間奏ありは確かな覚悟の証だったと思う。1期生ライブの間奏なしにも1期生の覚悟を感じたけれど、3期生の間奏ありにもまた違う覚悟を感じた。期別曲が終わり『インフルエンサー』『シンクロニシティ』とレコ大受賞曲が続く。センターが去った今3期生がこれらの曲を上書きしていくことは必然なのかもしれない。3期生加入前で白石麻衣西野七瀬Wセンターである『きっかけ』も同様に。久保史緒里が歌い上げたソロパートは加入前であるものの確かにこの曲を歌う運命にあったのだと感じるほどだった。

そしてラスト、『思い出ファースト』。3期生が1番好きな曲。3期生のグループLINEの名前も「思い出ファースト」になっているほど彼女たち自身で愛しているこの曲を、4年前の3期生単独ライブでも本編最後に披露したこの曲を最後にするセットリストにただただ平伏すばかりだ。「ここにいる奇跡」を感じずにはいられないライブだった。運命で決められていたと言っても過言ではないと思う。そんなライブだった。そんな存在なんだ。

本編が終わっても隙はなかった。アンコール、新曲『大人たちには指示されない』は置いておいて、梅澤美波がセンターを務め3期生がフロントを固めた選抜曲『空扉』、そして3期生お見立て会の最後に披露され乃木坂46としての活動の始まりを告げた山下美月センターの『ガールズルール』。アフター配信では大声選手権で勝利した中村麗乃をセンターにした『人はなぜ走るのか?』、そして『人間という楽器』で3期生ライブ、及び9thバスラを締め括った。


3期生は誰よりも「乃木坂46である」ことに拘ってきたのだと思う。この3期生ライブで彼女たちが示したのはまさにそれだった。「私たちが乃木坂46だ」、「私たちが3期生だ」。それは「私たちは乃木坂46 3期生だ」とは確実に違うものだった。自らが歩んできた道のりを追憶し、過去の自分たちと重ね合わせ、さらにはその当時その後ろにあった先輩たちの姿とも重ね合わせ、今の自分たちをもって上書きする、そんなライブだったように思う。上書きして塗り替えて、それでも彼女たちが必要だと思うところは継承する、そんな感覚を感じた。「私たちが乃木坂46だ」という覚悟と愛で乃木坂46の今と未来を同時に我々に見せてくれていたようにも思う。背を向けたくなるような現実にも立ち向かい全てを運命に変えてしまうような力をこの先もずっと信じていたい。

「ここにいる奇跡」をいつまでも信じようじゃない。

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