シキミ
疲れているときほど風呂の時間が延びる 指先がねじれ汗は湯に溶け 視力が悪いから電灯はぼやけ 嫌なことも悲しいこともぼやけ 楽しいことも外の様子もぼやけ 目を閉じると このまま溶けてなくなる自分が見える 溶けてそのまま排水溝へ 勢いよく全てを流し きれいさっぱりぼやけてく でも 栓を抜く人はいないのだ 汚く澱み漂うだけ 目を開けろ 風呂から出たら自分で栓を抜け おふろからでられない
火をつけるように花をかざる 棚の上 机の上 洗面所 ぽっぽっぽっと あかりが灯る ほのおが揺れるような ちいさな呼吸音が あちこちから聞こえはじめる 棚の上に置いたデルフィニウムが ため息をついた 机の上のトルコキキョウが 深呼吸している 洗面所のカーネーションが クスクスわらった あちこちに灯るちいさな明かりが やさしく部屋を照らしだす
左目から涙がおちる 左目から涙がおちる 乾いた右目はよるを見ている 僅かなひかりを乱反射させながら 左目から涙がおちる まっすぐな道を歩いた 花を虫を 踏まないように歩いた まばたきをふたつして 花や虫をうらんだ
