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記事一覧

点花

火をつけるように花をかざる

棚の上 机の上 洗面所

ぽっぽっぽっと

あかりが灯る

ほのおが揺れるような

ちいさな呼吸音が

あちこちから聞こえはじめる

棚の上に置いたデルフィニウムが

ため息をついた

机の上のトルコキキョウが

深呼吸している

洗面所のカーネーションが

クスクスわらった

あちこちに灯るちいさな明かりが

やさしく部屋を照らしだす

左目から涙がおちる

左目から涙がおちる

左目から涙がおちる

乾いた右目はよるを見ている

僅かなひかりを乱反射させながら

左目から涙がおちる

まっすぐな道を歩いた

花を虫を

踏まないように歩いた

まばたきをふたつして

花や虫をうらんだ

寂しさは

寂しさは

よる

知らない街で知らない景色を電車の中からぼんやり眺めるとき

ひる

家族の怒鳴り声から逃げて寒々とした部屋で縮こまるカーテンの影のなか

あさ

泣き暮れて腫れた瞼越しに見える朝日が充血して熱を持った瞼を焦がすころ

寂しさは

孤独ではない

寂しさは

目隠しをされて猿轡をされて

冷たい地面に転がされた私の上を

気付かず跨いで進んでいく人の群れに絶望するとき

寂しい

部品の足りないロボットが

足を引きずり砂漠を行く

ロボットは設計図を知らない

「足りない」ことしか分からない

飢えより惨い渇望が

ロボットの足を動かし

「どこか」へ向かわせる

新年

駅で降りる乗客たちを

神妙な顔で見る私たち

下車した人たちは

笑いながらこちらに手を振る

ゆったりゆったり手を振る

トコトコと再び走り出す電車が

短いトンネルを抜けると

ゴーンゴーンと大きな花火が上がる

目が眩んだ乗客が後ろを振り返る

トンネルの形に切り取られた光が

乗客だった人たちの

僅かな影でゆらめくのだ

私たちの切符だと

そちらには行けないから

これからも新しい年

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不安定な青

どんよりとした雲の合間から

炭のような黒い手が伸び

私の胸に爪を立てた

つうと皮膚を引き裂き

肉を押し退け

骨を避けて進む先に

心臓

脈打つそれを

ぐっと掴み

そのまま宙吊りあはははは

どくどくどく

鼓動の早さで震える身体

どくどくどく

手足を縮め

どくどくどく

恥ずかしい

ああ恥ずかしいあはははは

人びとはやさしいから

宙ぶらりんの私の下を

早足で通り過ぎて

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宝物は

大事に大事に抱えてる

金色に輝くその箱の

中身を誰もが夢想した

ある日から鍵が掛けられ

ある日から鎖が巻かれ

中身を誰もが幻想した

時が経ち

ぽろりぽろりとメッキが剥げる

鍵は壊れて鎖は錆びつき

それでも箱は開かない

誰もが錯覚したその箱の

中身は一体なんだろう

誰もが想像に飽きた頃

1人で箱を開けてみる

指は錆びに汚れ

ひしゃげた鍵穴に手子摺った

その箱に

入っ

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真夏の暴力

真夏の暴力

胸を丸太で突くような息苦しさと

動悸に似た心臓の震えに耐え

一瞬あとに広がる光に目を細める

シャワーのように静かに広がる光の線と

混乱して飛ぶ蝙蝠と

人々の歓声と

光の線が消える瞬間

小さな小さないくつもの玉になって

それは空気の澄んだ冬の夜空のようで

じっとりとした皮膚に吸い付く浴衣の感覚を忘れ

私は浮遊感に身を任せた

音波に打たれる胸の苦しさと光の美しさと

人々の騒めき

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日日

日日

わたしが両手いっぱいにのせている

その小さい水晶のようなものは

ひとつひとついびつだがどうにか丸さを保っている

このひとつひとつにわたしを吹き込むのだ

ふきこんだそれは透明からさまざまな色に変わり

手からこぼれ落ちて道をつくる

点々と落ちるにじいろのそれは

わたしが歩んだ場所を色あざやかに飾るのだ

しかし

色づいたそれを見ることはできなかった

色づいてこぼれ落ちるその瞬間は

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不安の種

不安の種

不安の種を食べた

苦くて甘いいびつな形

駅の階段を上っているときか

14階の屋上から右折する車を見たときか

発芽に最適な36度

チカチカひかって種が萌え

規則的な鼓動のリズムが

母親が子供の背中を優しく叩くように

細くて長い白い根を育ててく

心をしっかりにぎりしめ

じわじわじわじわ侵していく

優しく優しく締め上げて

たっぷり栄養吸い上げる

不安の種は結実し

不安の種を撒

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赤潮

死臭が吹く

プランクトンの死の臭い

腐ったそれらは深く沈み

分解され

海から酸素が奪われる

死臭が吹く

よく知る不快なその香り

海に浮かぶ死体が沈む

死臭が吹く

顔を背けるその匂い

それは

死の臭いだからか

もし死が甘いものなら

この風も甘く感じるだろうか

らいちょう

らいちょう

雪を撫で冷気をはらんだ風が吹く

足首をなで項をなでて

頭上高くに抜けてゆく

風の隙間を見つけたら

すぐさま差し込む強い日が

冷気に喜ぶ項を焼く

じりじりと

じりじりと

四肢で感じる温度差が

ここがどこかを教えている

ハイマツの影にらいちょう

頭上を気にして

ちいさい影と

共に歩む

また飽きずに一人旅に行ってきました。
らいちょうが見たかったなあという詩。
へたくそな上に

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理想のおうどん

描けずに迎える午前三時

黒鉛は擦りきれ進まない

こんな時間の来訪者

久々の友 食欲だ

おうどん食べたい

おうどんが

土鍋でクツクツ煮えている

箸で持ち上げると汁を跳ね上げ

くったりと出汁に沈んでいくような

とろとろにとろけた白ネギと

ほんのすこしの豚肉のかけら

ほんのり甘い出汁が

ふわふわと湯気を押し上げる

おうどんが食べたい

ああ食べたい

卵をひとつ落とそうか

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紫陽花

紫陽花

ざあざあと雨ばかりを運んだ

季節外れの台風が去り

おおみず飲みの紫陽花が

最後とばかりにみずを飲む

雨にとけだす地面のいろを吸い上げて

アスファルトに覆われた

地面のいろを暴露する

じつはね

地面はほとんどみどりいろ

植物たちが吸い上げた

色素をふくんだみずが

葉を茎を染め上げる

あちらの地面はむらさきいろ

こちらはももいろあおいろと

おおみず飲みの紫陽花は

地面のい

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