見出し画像

SNS疲れに効くかもしれない、寛容な落語の世界。

こんにちは。noteディレクターの志村です。

突然ですが、わたしは落語が好きです。2005年に放送された宮藤官九郎脚本のドラマ『タイガー&ドラゴン』にハマり、そこからなんとなくずっと落語が気になっていました。4年くらい前に「なにかあたらしい趣味がほしいな」と思ったときに、「そうだ、落語を聴いてみよう!」と思い立ち、落語会に行ってみました。

あまり調べもせずにはじめて行った落語会は、たぶんベテランの噺家さんばかりだったと思うのですが、途中で眠くなってしまい、正直あんまり楽しいと思えませんでした。

でもそこから数ヶ月して、渋谷で「渋谷らくご」というあたらしいタイプの落語会があると聞き、当時の職場から近かったこともありもう一度チャレンジすることに。そこで、春風亭一之輔師匠の高座を聴き、「なんておもしろいんだ!」と感動し、もう少し落語を聴いてみることにしたのです。

そのあと、桃月庵白酒師匠の「幾代餅」を聴く機会があり、そこで大きな衝撃を受けました。それまでYouTubeなどで聴いていたその噺(「紺屋高尾」という噺もほぼ同じものです)は、「しっとり聴かせる」人が多いなか、白酒師匠は息もつかせぬくらい終始笑わせてくれる。「同じ噺でもやる人によってこうも違う舞台になるのか!」と、そこから落語のおもしろさに目覚めていきました。

いまでは、月に1回は必ず、多いときは月に4回くらい落語を観に行くくらいハマっています。

人間のダメさを受け入れるのが落語

なぜ、こんなに落語が好きなのか? シンプルな筋立てで、一人で演じ分ける話芸だからこそ、同じ噺でも人によってまったく違うものになるというところがおもしろいというのはひとつあります。そこに芸というもののの奥深さを感じます。

でも最近もうひとつ、落語の「世界観」に強く惹かれているのでは?と考えるようになりました。その「世界観」とは、「寛容さ」です。

立川談志師匠も「落語とは、人間の業の肯定である」と語っていましたが、落語には、人間のダメな部分がたくさん出てきます。そして、そのダメなところを、ダメだと説教するだけはなく、笑い飛ばしたり、しょうがねぇなぁと受け入れてあげたり。懐が非常に深い。

「文七元結」の女将に学ぶ懐の深さ

たとえば、有名な「文七元結(ぶんしちもっとい)」という噺があります。これは、仕事もせずに博打ばかりしていた左官の親方・長兵衛が主人公。借金が膨らみ、家財道具や女房の着物も売り飛ばしてしまい、さらには女房と喧嘩しては手をあげるという、かなりダメな男です。

見かねた娘のお久が、「わたしが身を売ってお金をこしらえるから、借金を返してちゃんと働いて、お母さんを大切にしてあげて」と自ら吉原に飛び込んでいきます。なんて健気ないい子!

その娘を長兵衛が迎えにいったところ、ふだんから世話になっている遊郭の女将が、「お金を貸してやる。返金期限まではお久も店に出すことはしない。だからそれまでにしっかり働いてお金をつくり、娘を迎えに来い」とお金を貸してあげるのです。

ギャンブルで借金をして、女房を殴って娘を泣かせるような、超最低男に対して、この寛容さ(もちろん、説教はたっぷりしますが、それもまたかっこいい)。

失敗に対してはきちんと叱りつつ、でも人間性を否定することはせず、更生のチャンスを与える。これって、誰かのたった一度のミスをよってたかって総出で叩きにいくような、最近のSNSにある不寛容さとは真逆だと思うんです。

この長兵衛さんが、ここから改心したのかどうか……は、落語を聴いて確かめていただければと思いますが、この女将の叱咤激励には特に注目してみてください。

(わたしのベスト「文七元結」は、シブラクで聴いた柳家花緑さんの高座です。)

知ったかぶり、浮気、嘘……“つい”やってしまうのが人間

ほかにも、落語の噺には、ダメな人間がたくさん出てきます。

“もの知り”で通っているご隠居さんが、聞かれたことに答えられず、知ったかぶりをして適当な返答をすることもあるし(「やかん」「千早振る」)。

女も男も浮気はするし(「紙入れ」「権助提灯」「包丁」……)。

嘘やごまかしは日常茶飯事。

知ったかぶりに薄々気がつきながらも付き合ってあげたり、浮気は当事者間でお灸を据えるにとどめたり。人間の”つい”出てしまうダメなところを、「そういうものだ」と受け入れるのが、落語の世界なのです。

もちろん、現実世界では、一度の浮気が相手を立ち直れないほど傷つけることも、たった一つの嘘が取り返しのつかない事態を招くことも、ときにはあります。だから、浮気や嘘を肯定するということではありません。

ただ、当事者同士が受け入れているのであれば、周りの人間は笑ってみていればいいと思うんですよね。落語の中のダメなやつを、笑い飛ばすような感じで。

一度、生の落語を聴いてみませんか?

というわけで、わたしはこんな寛容な落語の世界が大好きです。

そして、インターネットのメディアプラットフォームの仕事に携わる人間として、こんな寛容さを、インターネットの世界にももっと広げていきたいと思っています。


……ということで、企画しちゃいました。noteで落語を聴いてみませんか?

11月5日(火)、「渋谷らくご」とコラボしてnoteで寄席を開催します!!!

渋谷らくごでもおなじみの、立川談吉さん(実力まちがいなしの二ツ目)、玉川太福さん(若きエンタテイナーの浪曲師)、古今亭志ん五師匠(安定感抜群の若手真打)の3名が登場。

さらには、「渋谷らくご」のキュレーターを務めるサンキュータツオさんが、落語の楽しみ方や見所を解説してくれます! これ、ふだんの「渋谷らくご」にはない、noteだけの特別編なのです。だからもちろん、はじめての方でも安心してお越しください。

ちょっと最近のSNSに疲れたなという人(もちろんそうでない人も)、寛容な落語の世界を一度のぞきにきてみてください。お待ちしております!

読んでいただき、ありがとうございます。いただいたサポートは、本を買うかnoteのサポートに使わせていただきます。