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”あの曲のあそこ”について、オタクな私の思うこと。

はじめに書いておく。

あくまでこれはライブレポートではない。


あの場の出来事すべてを書くには目も耳も胃袋もも足りなかった。どうしても表現できなかった。私の持ってる言葉では表せないほど、ライブが楽しかったのだ。もう、”楽しい”以外の言葉では表せないくらい、とんでもない思い出になってしまったのだ。
どれくらい楽しかったか表せる言葉はないけれど、次の日大寝坊した、とだけ残しておく。(大慌てで動いたらなんとか間に合った)

何時間も何日もかけて書き直してみた。でも、どうしても”レポート”は書けなくて。書いてます!といいつつ、下書きをずっと書いては消しての繰り返しだった。

もう、老後に少し思い出せればいいんじゃないか。
レポートとかやめて、もう自分の中だけの思い出として独り占めしたって誰も何も言わないんじゃないか。
ちょうど体調崩して書くのがしんどかったのが大きな理由ではあるけど、何度も書くことを諦めた。いつもならすっと言葉が出てくるのに、思うように手が動かない。悔しかった。

でも、1つだけ。
忘れたくない記憶があった。

私は記憶力がない。どれだけ楽しい思い出だとしても、面白くない数式だとしても。一週間あれば大体8割は忘れてる。別にそこまで覚えようとしていない記憶ならもっと早く。冷蔵庫にマヨネーズ取りに行って、なぜか毎度醤油を持ってきちゃう鳥頭である。

そんな鳥頭が、レポートを残さない。

→いつか忘れる

→忘れたことすら忘れる

→「あれ、私23年のファミえんって行ってましたっけ……?」


だったら、老後に思い出せへんやないか!


困る!それは大変困る……!
この思い出とともに老後ゆったり暮らしていきたい。「あの頃は楽しかったねぇ」なんて思いながら朝ドラ見ながら優雅に白米と味噌汁食べてたい。
私の中での青春であり、10代を振り返ったときに1番最初に思い出したい記憶になってしまった。それほどにまで残したいことなのだ。

これだけは何があっても忘れたくない。認知症になって孫の顔を思い出せなくなっても、事故で記憶喪失になって自分の名前すら思い出せなくても、
たった1つ。忘れたくない思い出があるのだ。


私の言葉で、私の感情を。


これはライブレポートではない。
小さなオタクの見た、たった一瞬の”生”の記憶である。


目の前にある肩と肩の間から何とか覗いて見れたステージ。
たった1人の”推し”を追った目。
たった1つの歌声に集中した耳。
演出で放たれた大量の水と汗で濡れた服。ペンライトを握りしめる生ぬるい手。

今後しばらく現場に行ける予定がない。きっとあの場でしか味わえない”生”の感覚というのもすぐに忘れてしまうだろうし、忘れたことすら忘れてしまうだろう。

だから、これを読んでくださっているあなたに覚えていてほしい。

すごくわがままなお願いだろう。それでも、きっと私は忘れてしまうときがあるだろうから。私と一緒に覚えていてくれないだろうか。
そして、こんなことがあったのだということをオタクの記憶として、一つのエビ中史として、この先も残してほしい。それだけ私にとっては大切な宝物なのだ。

ファミえん2023のことが知りたい方が是非音楽ナタリー様の記事を読むことを強くお勧めする。あの場の臨場感をそのまま切り取った言葉と写真で溢れている。

私の宝物である”一瞬の記憶”。
あの曲の、あそこを。
鮮明に覚えているうちに書こうと思う。

私は私立恵比寿中学エビ中ヲタクだ。
通称、エビ中ファミリー
風見和香(ののかまる)推しであり、ののかまるの犬(ファン名称)である。



太陽が少し傾いてきたときだった。
ずっと立っていたからか少し足も痛くなってきてはいたけど、なんだかその痛みがもったいなく感じるくらい嬉しくて。私が”ファミえん”にいる証明のようで。夢の中でほっぺをつねられているのと同じ感覚だった。

ハイテンポな曲が過ぎ去るように走り抜け、その場は少しゆったりとした空間になっていた。濡れた髪が首の付け根をソワソワ行ったり来たりしてくすぐったい。

お酒を飲んでいたわけではないけど、ハイな気分からチル曲に変わっていったもんだから少し気持ち良くなっていた。酔うってこういうことなのかな、いやたぶんもっとふわっとして楽しいのかなぁ、とか思いながらぼーっとステージを見つめる。

あっ。


曲が始まった瞬間、一瞬で酔いが覚めたみたいにキリっと頭が冴える。少しふらついていた足元にもう一度力を入れ直して、深呼吸して。ステージを見上げる。

イントロが流れた瞬間に会場の空気が一気に変わった。
大好きな曲の一つだ。人混みの中から「あぁ…」という気の抜けた声が聞こえた。誰もがそうだった。まさかここで聴けるとは全く予想してなかった曲だから、変に全身に力が入る。

10人になって初披露。もちろんCDになったときとはパート割も違うわけで。引き継ぎというのもあるわけで。


あそこ、誰だろう。


曲のこと以外何も考えられないくらい聴き入ってたのに、そのことだけがふと頭の片隅に浮かんだ。ふわふわと浮かんだその一言は、歌声に押されて流れ去ることもなく、私の頭の片隅にこびりついて離れることはなかった。


"あそこ"は、バトンだ。

”あそこ”とは、曲の一番最後のフレーズであり、この曲の結論のようなパートだった。メンバー全員の思いを背負う"あそこ"は音程も難しく、また音程を合わせるとともに届けるように歌うとなるとエビ中曲史上最難関と言っても過言ではなかった。

また、このパートは2人の歌姫たちが繋いできたものだった。

パートの受け渡しというのはバトンだ。

もちろん、卒業・転校・転入があることで、今までにたくさんのパートがバトンのように渡されてきた。その中でも特に"あそこ"は、2人の歌姫が大切に、大事に、苦い思いもしながら歌い繋いだ王位継承のようなバトンなのだ。
だからこそ、3人目のランナーは誰なのか気になってしかたがなかった。

その思いは曲の終盤に向けてどんどん大きくなる。"あそこ"のことを考えている人は私だけじゃなかったはず。きっとあの会場にいた人はどこかその思いを隠しながら、曲の中に沈んでいっていたのではないだろうか。


その時が来た。


すぐ前のパートを歌うあやちゃん、そして真山さん。センターに、もう一人。もしや、と思いぐっと身構えた。

あっ、


くる。

これは、くる。

ペンライトを持ったまま何をすることもなく一直線に彼女を見る。
振るための物なのにまるで手が動かない。ステージからは見えないであろう高さで固定されたそれは、ただただ白く光っていた。

たった数秒が恐ろしく長く感じた。

キャップからはみ出た髪のしめっぽさ。
さっきまで燃えちゃうんじゃないかと思うくらい暑かったのに少し冷たくなった風。
気を抜くと全身の筋肉がゆるんで倒れてしまいそうで。何もかもすり抜けてしまいそうで。

逃さないように、離さないように。
ペンライトを胸の前でぎゅっと強く握り直した。


君のため生きていきたい


胸がいっぱいだった。

ぁぃぁぃ、ひなちゃんと繋がってきたバトンを
ののかまるが、私の推しが、ぎゅっと受けとった瞬間だった。

『まっすぐ』2016年発売。
今から7年前に走り始めた曲。
ラストの「君のため生きていきたい」というフレーズは発売当初から2018年の自身の転校までを廣田あいか、そこから2022年の自身の卒業式までを柏木ひなたが歌い繋いでいた。
そして2023年8月5日。風見和香がバトンを受け取り、また走り始めた。


空高く響き渡った少し高めの歌声にしびれたように動けなくなった。

あぁ。

全身に入っていた力がすっと抜けてしまって、ふらっと足元がぐらついた。何とか気持ちを持ち直して体に力を入れ直す。

歌い終わった直後から脳内で何度も何度も再生する。

忘れてはいけない瞬間だ。忘れるな。覚えておかなければ。あの声を、この記憶を、絶対に途切れさせてはいけない。


必死に脳内リピートしてるうちにダンスサドンデスが始まっていた。なんとか手足を動かしてみたけど、まったくついていってはくれなかった。(シマまる OUT…)

余韻が富士山にやまびこして何度も返ってくる。その余韻に触れるたび、心がスーパーボールみたいに弾けて飛んで行きそうになる。体の中にとどめておくのがなんと難しいことか。もしその場に誰もいなければ、たぶんダンスサドンデスのうりゃ!おい!してる間にでも昇天していた。


がんばります。

話は飛んで先日の風見和香さんのブログ。

そして、まっすぐ

私は1番最後の大切なパートを歌わせてもらいました


今まで歌っていたメンバーもたくさん悩んだと思うので、そのパートが私に決まった時は一気に緊張が来ました。
でも自分らしく歌えるように練習しました


えみこ先生ともいろいろ話して本番に臨んだのですが、自分としては全くうまくいかなくて。



すごくくやしかったです!!!!


これから自分なりにもっともっと練習して、がんばります。

がんばります!!!!!

ライブ!(風見和香)

そうか。

もちろん見ていた。私の目は風見和香しか見ていなかったのだから。
TwitterXでもそんな声が上がっていてそうかもなとは思っていたけど、本人の言葉で届けられたのはこのときが初めてだった。

「君のため生きていきたい」

歌い終わって後ろに振り返った一瞬、少し唇を噛んだかのように見えた。
もしかしたら見間違えだったのかもしれないと。だって、歌の世界観にびたびたに浸っていた私には、どうもその歌声が良くないものとは思えなかった。


正直に話してしまおう。

推しを全肯定したいわけではないけど。
私はわからなかったのだ。その「バトンパス」が良いものなのか、そうではなかったのか、まったくわからなかったのだ……!(ごめんね)

風見推しのくせに!とか思われるかもしれない。でも、少し言い訳を。

エビ中のライブに行ったのはこのファミえんで3回目である。

はじめて「まっすぐ」をこの目と耳で感じた。
廣田あいか、柏木ひなたの歌うそのパートを私は知らない。YouTubeで見たMVを見たりとか、車の中でちゅうおんverを聴いたりとかはあったけど、実際にこの体で「まっすぐ」を体感するのは初めてだった。

たくさんライブに通えばその日の「良い」「悪い」がわかっていたのかもしれない。このパートだけではなく、他の曲や全体の演出でも。いつのほうが良かったとか、今回が1番いいとか。でも私はその判断材料はほとんど持っていない。いつだって「今が最高!」と思ってしまうオタクなのだ。


本人は上手くいかなかったと言った。それが事実であり、何も変わることはないけれど、ね。

歌う少し前から呼吸を整えて、自分の番をまっすぐな目で待ち構えていたのも。
直前まで胸に手を当てて、すごく集中していたのも。
手を伸ばしてリズムをとりながら届けるように歌ってくれたのも。


終わりに注目が行きがちだけど。
見てた。最初も。その前も。
この目で見ていた。この耳で聴いていた。

私は今までの「まっすぐ」を見てきたわけではないけれど
あの瞬間のことなら、誰よりも風見和香を見ていた。

誰に比べることもなく、あの瞬間のあのパートに惹かれたのだ。

風見和香の歌う「君のため生きていきたい」に心を動かされたのだ。

歌声に乗せられた想いは、しっかりと私の元に届いていたのだ。

あの瞬間、ここに来てよかったと心の底から思った。なかなかなハードスケジュールだったし、お小遣いも二桁万飛んで行ったけど。
そんなのどうでもよくなるくらいに幸せだった。生きててよかったとまで思えた。


提灯の下で。

ライブ直後、出入り口付近にはたくさんの提灯の光が灯されていた。

その光に誘われるようにふと目の前で止まってしまう。提灯の下にはライブから帰りたくなさそうなエビ中ファミリーがたくさんいた。
ちょっとだけ真っ暗な夜に虫が光に集まってる気持ちがわかった気がした。

そんなとき、提灯の下のファミリーさんが声をかけてくれた。

「シマまるちゃん!ののかのまっすぐめちゃくちゃよかったねぇ!」

この話題で持ちきりだった。あれ、あそこ私歌ってたんかなと勘違いしそうなくらい褒めてくれた。「いやぁそうなんですよ!!」と返していたけど、私はあの現場に居合わせたただのオタクである。

でも
自分のことのように嬉しくて嬉しくて……!

もちろん他にも、崩れたヘアセットの対処だったり、いつかのメイドインジャピャ~ンの高音だったり、フレ!フレ!サイリウムの落ちサビだったり。振り返ればたくさんのことが溢れるように出てくる。すべて書こうと思ったら上手く書けない。でも、どうしてもこの「まっすぐ」のことだけはどうしても残しておきたかった。


帰り際に会った15推しも、どうも私と同じで上手く言葉にできなくなっていて。「まっすぐ。良かったですねぇ」「良かったですぅ……」と2人して大きく何度も頷いた。

たくさんの提灯@ににちんさん


バトンパスは上手くいかなかった、のかもしれない。
でも、私は知っている。

風見和香はエビ中1のランナーだ。


誰よりも走るのが速く、誰よりもまっすぐに走る人間だ。

雨が降っても、レッスンのある日でも、走るのをやめない人間だ。
まっすぐに、がんばることを諦めない素直な人間だ。

まだ15歳。もうすぐ16歳。でも、まだまだ16歳。
これからもきっとたくさんのことが起きる。嬉しいことだって、悲しいことだってたくさん起きる。悔しいことだっていっぱいある。私だってそんな毎日なのだから、きっとアイドルの彼女はその何倍も味わうかもしれない。

それでも。
風見和香はきっと走り抜けられる。壁なんか乗り越えるより突き抜けて、ずっと先へ走っていける。

風見和香にしか歌えない歌がある。
風見和香だから届けられる想いがある。

あのバトンは彼女と走っていく中で彼女色に染まっていくだろう。廣田あいかとも、柏木ひなたとも違う、風見和香の「まっすぐ」を作り上げていく。
その過程をこれから見ていけると思うと、そのスタート地点を見れたと思うと、ワクワクが止まらないのだ。
あの場にいれたことを誇りに思う。

この歌も。こんな私も。
見たこともない景色まで連れて行ってくれるかもしれない。


2023年、夏。はじめて「まっすぐ」を生で聴く。

いつかまた生で聴きたい。正直いつになるかはわからない。ライブですごく頻繫にやる曲ではないし、私も滅多にライブ参戦できるわけではない。
でも、いつか。彼女納得の「まっすぐ」をこの目で、この耳で味わいたい。

それまでどうか
この記憶を忘れないでおきたい。見たもの、聴いたもの、感じたものを、どうにかして取っておきたい。だから、こうして書いている。

そして。

風見和香が受け継いだバトンを、先の未来で誰かに渡すその瞬間まで。
私はオタクとして、犬として、その後ろを追いかけ続けたいのだ。


(表紙:@ぜいたくびとう。さん)


ただのオタク
シマまる

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