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我が家の猫は、最近やけに両親の部屋に入るようになりました。
両親の部屋は和室で引き戸なので、猫でも簡単に開けられます。
和室には縁側があって、小さな椅子とテーブルが置いてあります。
その椅子とテーブルの下に敷いてあるウレタンマットで爪を研いでボロボロにしてしまうので、縁側に続くガラスの障子はいつも閉めてあります。

縁側に出られなくなったら、もう和室には入らなくなるだろうと思っていたのに、父の一周忌の頃からまたやたらと和室に入るようになりました。
猫が和室の中にいるところや、入っていくところを見たことはほとんどありません。
引き戸がちょうど猫一匹出入りするくらい開いているので、「また入ったな」とわかるわけです。

引き戸が開いているのを見つけて和室に声をかけると、階段のあたりで
「ミャー」
と鳴く声がする。

なので引き戸を閉めるけれど、ちょっとしてから見るとまた開いている。
「こら、入ったな」
と呼ぶと、また全然違うところで
「ミャー」
と鳴いている。

1度だけ父のベッドで昼寝をしているのを見かけました。
父のベッドが窓の方に近いからか、ベッドは二つとも空いているのにいつも母のベッドではなく父のベッドで寝ています。
私のベッドでは丸くなって寝る猫は、父のベッドではのびのびと安心したようにお腹も見せて寝ていました。

父と一緒に暮らしていた時、猫は特に父になついていたわけではありませんでした。
私や孫にはきびしかった父が、時々こっそり猫なで声で猫の名を呼んでなつかせようとするのがおかしく、知らんぷりしている猫との距離感や温度差が更におかしく印象的で、今でもその時の父の声を思い出すとくすっと笑ってしまいます。

猫は、私が落ち込んだり、仕事に詰まっているときしつこいくらい周りで鳴きます。
ややこしい計算をしているときには正直うっとうしくて
「うるさい」
と邪険にしてしまうこともあり、気づくと後から私も猫なで声で名前を呼んで機嫌をとってます。

父は、私たちと一緒に暮らすことを楽しむために手術をしました。

そして、帰ってくることができませんでした。

私は、父が時々猫の中に入って一緒に暮らしているような気になるのです。


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