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大馬鹿野郎

三つ単語のお題を貰って書いた短い物語です。

「ごはん」「鹿」「花火」

静かな町に悲鳴が響き渡っていた。また、この季節がやってきた。窓を少し開けて、外の様子をうかがってみると、町はパニック状態に陥っていた。
鹿が暴れまわっていた。いや、あれは鹿なのだろうか?奈良動物公園にいる鹿を全匹合体させたような馬鹿でかい鹿。山からあいつがまた私の町に降りてきた。何を食べたらあんなにでかくなるんだよ。知ってるよ。人だよ。
去年、私のお父さんはあの大鹿に食い殺された。あのおぞましい記憶が脳内にフラッシュバックされた。手に力が入った。涙が勝手に溢れ出た。あいつが憎くて仕方がなかった。みんな早く逃げて。もう誰も被害者になって欲しくなかった。暴れ狂う大鹿を目で追っていると、えっ、たけちゃん?私の彼氏が大鹿に追われて全力で走って私の家に逃げこもうとしていた。
「たけちゃん、早くっ!」
私の声に気づいて、たけちゃんの表情が少し変わった瞬間、たけちゃんの顔は無くなった。たけちゃんは、大鹿のごはんになった。私は目の前で大切な人を二人もごはんにされた。大声をあげて泣きじゃくりたいところだけど、私はいつのまにか無意識で家の離れの倉庫に向かっていた。扉を開けると鼻が火薬の匂いで占領された。あの鹿を殺す。私は町一番の花火師の娘。あの大鹿を花火で打ち殺す。私は父が一番誇りを持って作っていた特別な四尺玉をセットし、馬鹿みたいな顔してたけちゃんを貪り食っているあいつに狙いを定めた。
「こんなに近くで花火が見れることなんてないよ」
着火した四尺玉は勢いよく飛び出し、見事に大鹿に命中して爆発した。
ドーーーーーーーーン!パラパラパラパラッ。
大鹿は爆死した。空に打ち上げたら絶対に綺麗だった父の大切な四尺玉の花火。その花火のせいで、今、町は史上最大規模の火事に見舞われていた。


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