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映画予習のすゝめ

芸術は、作品の背景を知るのと知らないのでは、見て感じるものが違うのだという。ゴッホやピカソの絵はその作品自体がすばらしいことは確かだが、もし彼らの生い立ちや苦労を知らずにその作品を見たとして、私たちは同じように感動できるのだろうか。

ふとそう思い、私は本気を出して一つの作品を鑑賞してみることにした。

その作品の名前は映画『トイストーリー4』。これを本気で予習してから見ることに決めた。

予習として、私は『トイストーリー』に関する本を読むことにした。本のタイトルは『PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』という本で、読むと決めてからは、すぐに大学の図書館で借りて読んだ。

ざっくりあらすじを紹介すると、ピクサーCEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズが、ピクサーの経営がうまくいかないので、CFO(最高財務責任者)を求めて1人の男に電話をかけるところから、この実話は始まる。当時のピクサーはフルCGで映画を作るという、前例がない挑戦をしようとしていた。すごいことに、フルCGを活用する技術力とそれを生かした最高のストーリーを作る構成力はピクサーには十分あった。しかし、経営の質の悪さと莫大な投資せいで利益を出すことが難しく、『トイストーリー』が完成するまであと1年というところで、会社は倒産寸前の危機に陥っていたのだ。

そこで、1人の男が救世主として現れ、ピクサーを窮地から救い出し、『トイストーリー』を成功させる。そのドラマのような実話は非常に感動的で、普段から友人と鳥貴族で他愛のない話をしている私でも、「もう少し頑張ろう。」と思わせてくれるほどだった。

この本では経営だけでなく、作品を作る苦労も紹介されている。

まず、『トイストーリー』は作るのに4年かかる。絵コンテだけで何十万枚も必要なので、制作が長期間になってしまうのは当然なのかもしれない。4年間の製作期間中は収入源に代わるものがないので、お金はスティーブの資産に頼っていたのだから驚きだ。

また、キャラクターのデザインを1か所変更するだけで他の絵も変えなければならないので、相当な手間がかかる。『トイストーリー』の登場人物がおもちゃなのは、おもちゃだと絵の修正しやすいからで、それが人間だと肌のしわなどの表現が難しく、複雑になってしまうのだ。

さらに、『トイストーリー』の舞台が子供部屋なのも、CGで表現しやすいからだという。子供部屋は風がないので落ち葉が舞う心配がないし、電気を点ければ明るさを変える手間が省ける。だから、初期の『トイストーリー』は子供部屋がほとんどだし、外に出る場面では葉や木のリアリティがあまり高くない。屋外の様子をCGで表現するのは難しいのだ。

こんな苦労続きのピクサーだが、心が少し温まるような社員思いの一面も持っている。それが大きく表れているのはピクサーのエンドクレジットだと思う。

上の画像だと少し見づらいが、プロダクションベイビーズというカテゴリーがエンドクレジットに用意されている。ここには、映画の製作期間中に新しく生まれたスタッフの子供の名前が書いてある。映画の製作に関わったスタッフは、自分の名前がエンドクレジットに書かれていることに誇りを感じ、さらに我が子の名前を見つけては涙するらしい。すごくいい心遣いだと思った。本で得た知識はこのくらいだろうか。

いざ、鑑賞へ。

本を読み、予告を見た。さらに、『トイストーリー』シリーズの金曜ロードショーはすべて見た。ここまで予習してから見る映画は自分でも初めてかもしれない。

映画館のシートに座り、物語が始まる。

いきなり場面は家の外から始まった。おっと屋外だ。

屋外、それはCGの表現が難しくて初期の『トイストーリー』ではほとんど見られなかった舞台。少し見られたとしても、感じてしまった小さな違和感はもうそこにはない。複雑だと思われていた庭の芝まで青々と生い茂っている。この屋外のシーンだけでも、CG技術の進歩を感じ、何かこみ上げてくるものがあった。

続いてウッディーたちの持ち主、「アンディー」の登場。あっと人間だ。

人間、それはしわや表情を描くことが複雑で、かつてはトロールみたいになっていた人間の顔が、今では穏やかな表情をして笑っている。アンディーよ、こんな仏のような表情で笑えるのか。またまたCGの進歩で涙が出そうになった。

そして、バズがスペースレンジャーになりきって空を飛ぶ場面。ここは笑いが取れるおいしいところである。前の席にいる子供たちが真面目な顔をしているバズの顔を見て、きゃっきゃと笑い声をあげているが、私は笑ってなどはいられない。こんなにも技術の進歩が感じられる場面で、私は決して笑うことはなく、しみじみと感傷に浸っていた。

最後はエンドクレジットだ。数人の観客が少しずつ帰る中、私はプロダクションベイビーズの欄を見ては、新しく生まれた子供たちのことを思っていた。「ジェームズ」や「ジョン」、君たちのパパやママは最高の作品を作ったのだよ、と心の底から伝えたい気持ちでいっぱいになった。きっとエンドクレジットで感動する人は、私と製作者を除いて他にいないだろう。

ありがとう、『トイストーリー』。ピクサーについて調べたことで、作品にかけた4年越しの苦労を感じ取ることができた。

さてさて、はたしてこの鑑賞の仕方はどうなのか。

冷静に考えて...

ゆがんでいる。

ちっともストーリーが入ってこなかったので、下調べは程々がいいと思います。

P.S 面白い作品なので、夏休みにおすすめの映画です。たまにはこんな映画鑑賞でもしてみてはいかがでしょうか?(笑)


以下、参考文献です。


これからの可能性に賭けてくださいますと幸いです。