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「エッジワース=カイパーベルト天体」は「ルンゲ=クッタ法」と同じ仲間?~「宇宙打+」β版開発時に考えた天文・宇宙用語の表記ゆれ問題~

Ankeyにて「宇宙打+」のβ版をリリースしました。

ここで収録した用語の表記ゆれ対応が結構興味深かったので、まとめてみることにしました。
※ここで記載している内容は、あくまで私の調べによるものですので、もし誤りとかあったら是非コメントなどで教えてください。

中点「・」とハイフン「-」とイコール「=」の対応について

経緯

まず今回最も苦労したのが、「・」「-」「=」の扱いについてです。
天文学や宇宙開発の用語には、この「・」「-」「=」が良く使われます。

(例)※かっこ内は表記ゆれ例

  • イベント・ホライズン・テレスコープ(イベントホライズンテレスコープ)

  • エキセントリックプラネット(エキセントリック・プラネット)

  • エッジワース=カイパーベルト天体(エッジワースカイパーベルト天体、エッジワース・カイパーベルト天体)

ルール

まず外来語に関する表記として一般的に以下のルールがあります。

  • 「-(ハイフン)」を「=」に対応させる

  • 「スペース」を「・」に対応させる。ただし後に続く単語が一般名称の場合は「・」を付けない場合もある

  • 姓と名の区切りには「・」を用いる

  • 名の繋ぎには「-」「=」を用いる

これに関しては、俗に「ルンゲ=クッタ法表記問題」と呼ばれる問題がありますので、こちらを引用させていただきます。

ルンゲ=クッタ法は英語でRunge–Kutta methodといいます。
RungeとKuttaの間にある「-」は「=」に対応させます。なお、RungeとKuttaはそれぞれ、数学者カール・ルンゲとマルティン・クッタを表しており別人ですので、姓名でも名の繋ぎでもありません。
また、methodは一般名称ですので、その前のスペースは「・」にはせずに、そのまま「法」と訳して接続します。
これで、「ルンゲ=クッタ法」という表記の出来上がりです。

ちなみに、「ルンゲ=クッタ法って何??」って疑問に思った方は、ぜひ調べてみてください(ルンゲ=クッタ法が何なのかはここでは扱いません)。

例1:イベント・ホライズン・テレスコープ

Event Horizon Telescopeは、ルールに則って「スペース」を「・」に変換します。従って、

イベント・ホライズン・テレスコープ

となります。
ただし、英単語が連なっていてひとつの意味をなす単語の場合は、「イベントホライズンテレスコープ」というように続けて書いても間違いではありませんし、実際にそのように表記している事例も多いです。
ただ、前者の方が単語の区切れが分かりやすく、タイピングゲーム的にも難易度が上がり良さそうだと思いましたので、前者を採用しました。

例2:エッジワース=カイパーベルト天体

Edgeworth-Kuiper Belt Objectは、EdgeworthとKuiperの間に「-」が含まれていますが、こちらは「=」に対応させるんでしたね。
BeltとObjectはそれぞれただの英単語でセットでひとつの意味をなすことから、そのまま訳してスペースも「・」に変換させません。
これで「エッジワース=カイパーベルト天体」という表記になります。

ちなみに、エッジワースはアイルランドの天文学者ケネス・エッジワース(Kenneth Essex Edgeworth)、カイパーはオランダおよびアメリカの天文学者ジェラルド・カイパー(Gerard Peter Kuiper)のことで、二人の名前をつなげた用語です。「ルンゲ=クッタ法」の仲間といっても良いでしょう。
同じシリーズの仲間たちとして以下が挙げられます。

  • シューメーカー=レヴィ第9彗星

  • シュテファン=ボルツマンの法則

  • チュリュモフ=ゲラシメンコ彗星

シューメーカーさん(夫妻)とレヴィさん、シュテファンさんとボルツマンさん、チュリュモフさんとゲラシメンコさんは、それぞれ別の人です。

例3:アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計

Atacama Large Millimeter/submillimeter Array:ALMAに関しては、少し例外です。
単語と単語の間にスペースがあるので、単純に考えれば「アタカマ・大型・ミリ波/サブミリ波・干渉計」となりそうですが、カタカナと漢字が混ざる場合は単語の切れ目が分かりやすいので、わざわざ「・」を入れないという特別ルールを適用します。

同じ理屈で、Millimeterとsubmillimeterの間も「/」が入っていますが、「ミリ波」と「サブミリ波」をつなげてもうまく漢字とカタカナで切れるので単語の切れ目が分かりやすいため、そのまま繋げています。

例4:アンビリカルケーブル

Umbilical cableは普通に考えるとumbilicalとcableの間にスペースが含まれるので、「アンビリカル・ケーブル」という表記をしても良いのですが、某汎用人型決戦兵器のおかげで「アンビリカルケーブル」という単語が一般的に浸透していると判断しましたので、そのまま「・」なしで表記しました。

Ankey特別ルール

なお、Ankeyでは「・」は「/」と表記されています。これは、「・」をタイピングする際に打つキーが「/」と同じだからです。少し違和感を覚えるかもしれませんが、こういうものだと思ってください。

ハッブル=ルメートルの法則

みなさんは「ハッブルの法則」をご存じでしょうか。
宇宙が膨張してることを述べた法則で、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルが発表した論文がもととなっているものです。

ところが、いまは「ハッブルの法則」とはいわずに「ハッブル=ルメートルの法則」(Hubble-Lemaitre law)と呼ばれているそうです。
これは2018年のIAU(国際天文学連合)の総会で「宇宙の膨張を表す法則は今後『ハッブル-ルメートルの法則』と呼ぶことを推奨する」といった決議案が採択されており、正式にそう決まったようでした。

私もつい1週間前ぐらいにこの事実を知ってびっくりしました。
だって今までずっと「ハッブルの法則」で認識してきたのですから。

冥王星が太陽系の惑星ではなくなったのと同じように、常に天文学の世界も変わっているんだなぁ、と、アンラーニングの大事さを改めて感じたところでした。

ちなみに、このハッブル=ルメートルの法則も、先般のルンゲ=クッタ法やエッジワース=カイパーベルト天体の表記に倣って、間を「=」で表しています。

(参考)天文学辞典

そんなわけで、「正式だと思われる表記」も本当に正式かどうか念のためチェックを行うことにしました。
上記のような天文学辞典や論文なども参考にさせていただきました。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡問題

経緯

James Webb Space Telescopeは、話題になったその時から「こいつは表記がやっかいなことになりそうだぜ!」とわくわくしていました。
案の定、打ち上げ後様々な報道機関での報道を見るに、表記がだいぶ揺れていることが確認できました。

私が観測した限り、

  • 「ジェイムズ」か「ジェイムス」か「ジェームズ」か「ジェームス」か

  • 「・」があるかないか

で計8通りに分かれます。

「・」があるかないか

先に「・」があるかないか、の方を片付けてしまいましょう。

James WebbはNASAの二代目長官James E. Webbから来ています。
人名のスペースは基本的に「・」に変換するルールですので、通常であれば「ジェームズ・ウェッブ」のように「・」を付けるのが自然です。

ですが、James Webb Space Telescopeという用語のまとまり全体でひとつの用語を成していると判断すれば「ジェームズウェッブ」のように繋げて表記しても良いでしょう。

今回は原理原則に則って、前者を選択してみました。

「ジェイムズ」か「ジェイムス」か「ジェームズ」か「ジェームス」か

英名のJamesをカタカナでどう表記するかに関しては歴史が古いです。おそらく英語圏ではかなりポピュラーな名前だからでしょう。
俗に「Jamesの表記ゆれ問題」と呼ばれます(嘘)。

日本語では、特に「これ」と決まった表記は無いようです。
各新聞社や報道機関によって取り決めがあるように思われましたが、同じNHKでも実は以下の通り表記が異なります。

従って、もはや「決め」の問題だと感じたため、多数決にすることにしました。
Googleで検索して、ヒット率が多い方を採用することにしました。


なお、「ジェームス」の場合は「もしかして」と問いただされました。

「ジェイムス」の場合はしれっと「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」で検索してきました。

以上から、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」と表記することにしました。

宇宙空間観測所問題

臼田宇宙空間観測所と内之浦宇宙空間観測所。
この2つの「観測所」の読み方が、Wikipedia上では「かんそくじょ」と「かんそくしょ」とで異なると知ったときは、気になって気になって夜も眠れませんでした。

夜も眠れない、は言いすぎましたが、気になったのは事実です。
これに関しては話が長くなるので別のnoteに書きました。

H-IIAロケット問題

表記

H-IIAロケットは正式な表記が「H-IIA」というように、Hの後にハイフンがはいり、その後にギリシア数字が並びます。IIは実はⅡではありません(ここの記載、表示フォントによっては「何を言ってるんだ?」となるかと思いますが、表記が違うんですよ)。Iが2本並んでIIとなっています。

タイピング

タイピング時は、アルファベットのH、記号の-、数字の2、アルファベットのAをタイピングさせるようにしました。表記としてH-2Aということはあまり無いのですが、一番標準的なタイミングを採用しました。

H3はH3

また、H3ロケットからは正式表記も「H3」となりましたので、こちらで統一しています。楽~。

人工衛星略称の前後には「」をつけない

Ankeyでは「」が使えない

人工衛星の名称については、正式名称に続けて「」をつけて愛称を表記するのが一般的です。

(例)

  • 水星磁気圏探査機「みお」

  • 赤外線天文衛星「あかり」

  • 先進光学衛星「だいち3号」

ですが、残念ながらAnkeyでは「」を使用できませんので、以下のように続けて表記しました。

  • 水星磁気圏探査機みお

  • 赤外線天文衛星あかり

  • 先進光学衛星だいち3号

これはただのアプリケーションの制約ですのでご了承ください。

解説に関して

用語についての説明を重視

次に用語の説明についてです。
Ankeyでは180文字以内で用語の説明を記載することができます。
この用語の記載については最も気を使いました。

まず大原則として、用語についての説明を重視しました。
例を使って説明します。

(例)衛星コンステレーション

複数の人工衛星でつくられるシステムのことです。コンステレーションとは星座のことで、複数の人工衛星(星)が協調して動作する様子が星座のようであることから名付けられました。例としてGPS衛星が挙げられ、他にも国内外で多数の小型衛星により通信や観測を行うプロジェクトが計画されています。

まず、衛星コンステレーションをもっと詳しく、正しく説明することはおそらく可能です。ですが、ここではなぜ「衛星」とつくのか、「コンステレーション」とは何か、というように、用語の意味の解説を重視しました。

言葉の定義よりも言葉の面白さを重視

言葉の定義をより詳細に記載しても良いのですが、天文学や宇宙物理学などに関する用語は定義をより正確に細かく書けば書くほど難解になりますし、定義を説明するための用語を説明する必要が出てきます。

従って、事例や歴史などちょっと興味を引きそうなエピソードを盛り込むようにしました。

(例)ガンマ線バースト

宇宙において突発的に発生する、ガンマ線が数秒から数時間にわたって閃光のように放出される物理現象です。1967年にアメリカの核実験監視衛星「Vela」が偶然発見しました。その現象の原因として、中性子性やブラックホールの衝突、あるいは極超新星によって引き起こされるなど、いくつかの仮説がありますが、はっきりしたことはよく分かっていません。

ガンマ線バーストは、それを見つけようと思って見つけたのではなく、「たまたま」見つかったというのが私にとっては面白いと感じましたので、そのエピソードを盛り込んでみました。
また、「はっきりしたことはよく分かっていません。」と入れることで、謎めいた存在であることをほのめかして興味をそそるようにしてみました。

まとめ

「宇宙打+」β版に搭載した用語の表記と解説文について説明してみました。
なんかもっと色々ネタがあった気がしますので、思い出したら追記しようと思います。

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