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【海と花火とリンガーハットと蜃気楼】

最近、大手メーカーの飲料自動販売機の小売価格が軒並(のきな)み上がってきている。
それでも100円〜の飲料を並べてる自販機がまだまだ、ある。
そんな自動販売機の、ちょっと聞き馴染みのないタイプの飲料が好きだ。
サンガリアさんの商品を中心に、他のメーカーの期間限定飲料の型落ちモデルなんかも、並んでいる。

アイスコーヒーは、基本的にはコンビニのカップのタイプのものを買うから、自動販売機ではジュースを選ぶことが多い。

今週の話。
弁当屋さんでお弁当を頼んで、待ってる間、店頭の自動販売機。
お気に入りの、いつものエナジードリンク風の炭酸がその日は何故か110円だった。
いつもは100円なのに。ここにも値上げの波か。

小銭入れには、お弁当買った余りの小銭が500円玉1枚のみ。

飲みたいエナジー風炭酸を買うと、390円お釣りが出てくる。
あんまり飲みたくないけど、昨年の秋の期間限定の型落ちモデルであろう、梨味の炭酸は100円。

小銭が苦手なわたしは、ちょっと迷って、飲みたくない方の梨味の炭酸をチョイス。

ポチッ、と押すと、梨味の炭酸がガランと音をたてて落ちてくる。その音の後に、ちょっと遅れて、お釣り口に、400円が戻ってくる音がする。

あれ、400円にしては、長いな。
お釣り口に手を入れると、

100円玉3枚と10円玉10枚がそこには居た。

それなら、そういうことになるなら、いつものエナジー風の炭酸飲みたかったなぁ。

こんばんは、しみやんです。

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ある夏の日。
免許を取り立ての私は、毎日毎日、夜になると仲間と集まって、ドライブに出かけた。

その日は、花火をしようと某ドン・キホーテへ車を走らせた。
花火と、お酒とおつまみをしこたま買い込んで、車へ戻ると、誰かが言った。

『今日は海じゃね?』

都会産まれ都会育ちの我々は、近くではおおっぴらに花火を出来る場所がない為、いつも郊外へ行って、派手にやる。
その日は、茨城のほうの海へ向かう事にした。

BGMは、当時流行っていた、“KEN-UのDOKO”をはじめとした、ジャパニーズレゲエのコンピCDを流しながら。

助手席の彼女は、高速に乗る頃には眠りについていた。後ろの席のカップルも、東京を出る頃には、もう寝たようだ。

車通りも疎(まば)らな夜の常磐道、好きな音楽と、誰も居ないPAの音楽が鳴るタイプの自動販売機で買ったカップのブラックコーヒーと、寝てる人3名を載せてひた走る。法定速度遵守で。

海沿いのコンビニについたのは、午前2時を回った頃。
辺りが暗いせいか虫が凄いんだよな、ここのコンビニ。とか思いつつ、ブラックコーヒーの利尿作用で催(もよお)した為、トイレを借りた。

トイレを出てタバコを買って戻ると、さっきまで寝ていた奴らはみんな起きていた。

『よぉ着いたぞ!やるぞ!』

つって、砂浜に駆け出して行った4人。

ひとしきり花火を楽しんで、浜辺で寝っ転がってたりしていたら、段々明るくなってきた。

『お腹空いた』

『よし、朝飯食い行くぞ!』

つって、昨夜の夢の跡を片付けて、車に乗り込む。


これは余談だけど、当時の彼女は、めちゃくちゃわがままで、

『ロイヤルホスト行きたい!』

って言うから、連れて行って、車停めてお店に入ろうとすると、

『やっぱり夢庵がいい!和食!』

みたいなこと言い出すタイプの女の子で、

その日も、

『ファミレスと牛丼屋は絶対に嫌だ!!!』

って言うもんだから、どっかやってないかな?って探して海沿いを車で走らせた。当時流行っていた、NANJAMANを流しながら。

でも、田舎のほうの海沿いなんて、朝方はファミレスか牛丼屋さんしかやってないんだよね。

そんで、どうしようかな?東京帰る?みたいな話をしてたんだけど、やっぱりもう少し車を走らせようとなって走っていたら、

遠く、むこうの方に、“赤い屋根の風車小屋”みたいな、例のあの店が見えた。

その瞬間、車内が湧いた。

ちゃんぽん、皿うどん、もう何でも良かった。
よく混ざってなかった時の、あの、練りカラシが固まってるとこ食べちゃった感じとか凄い欲しい。君が欲しい。
リンガーハットをここまで切望(せつぼう)したことは、多分後にも先にもこの時だけだったように思う。

近づく、赤い屋根、心のなかで、

『やっぱリンガーハットはやだ!』

って、オマエ絶対、言うなよ言うなよ、と祈る。
もうここしかないんだぞ!腹減ったぞ全員。頼むな!つって祈る。

信号もないからね、思ったよりも早く着いた。

外を見たら、

“赤い屋根の風車小屋”みたいな例のちゃんぽん屋さんみたいな、ただの“赤い屋根の風車小屋”がそこには在った。

リンガーハットの蜃気楼だった。

屋根が赤いタイプのオランダ風の風車小屋が。どっしりと佇んでた。

4人全員で大爆笑して、リンガーハットの口になりながら、諦めて東京まで帰ることにした。

東京に帰ってくる頃にはもうお昼で、今週も行ったエナジードリンク風の炭酸が店頭で売ってるお弁当屋さんでお弁当を買って、友達の家で飲み直した。

わたし以外はみんな、結婚して幸せにやってる奴らだけど、今でもその四人で飲む機会があると、このリンガーハットの蜃気楼の話になる。

みんなも茨城の海沿いの赤い屋根の風車小屋には、リンガーハットの蜃気楼には、気をつけて欲しい。

そんなことを思い出しながら、今日はおやすみなさい。

来週からまた少し、時間がつくれるようになったから、少しずつ、書いていこう。飽きるまでね。

(この投稿は全てフィクションです。)

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