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【エスパルス】2022年J1第6節 vs鹿島(A)【Review】

VARでの得点取り消し、試合中のいざこざ、侮辱的な発言の疑惑、観客席へのペットボトル蹴り上げなど、ピッチ外の話題に事欠かなかった今節。
ピッチ外の振る舞いが注目を集めるのは非常に残念ですし、結果的には敗戦となってしまいましたが、試合の内容に目を向ければ、エスパルスにとって明るい材料もいくつかあったように感じられます。

組織を整備し、力を尽くしての敗戦であれば、前を向けます。どんな点を明るい材料だと感じたのか、自分なりに振り返ってみます。

1.スタメン

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エスパルスは、リーグ前節・神戸戦から、中山→コロリ、後藤→山原の2枚を入れ替え、左SBに山原を、右SHに片山を配しました。この形は、3/26のルヴァンカップ・広島戦で試していますが、平岡監督はその試合の勝利で一定の手応えを掴んだのでしょう。

一方の鹿島は、リーグ前節の湘南戦から、上田→アラーノ、荒木→仲間、土居→ピトゥカの3名が入れ替わっていますが、代わった選手も前節では交代出場しており、骨格は概ね固まってきているというところでしょうか。

2.スタッツ

数値上は軒並み鹿島を下回っていますが、スタッツの見た目ほど、試合展開に大きな開きはなかったように感じました。

パスマップを見ると、鹿島は最終ラインの選手から縦方向へのパスが目立ちます。また、エスパルスはGK(権田)から片山に向けたパスが多いほか、山原と竹内、片山とコロリのパス交換が多いのが特徴。この点については後述します。

3.試合の流れ

序盤の鹿島は、長いボールを中心とした攻撃の組み立てを志向してきました。これは、エスパルスのプレッシングの出方を見極める意味に加えて、ビルドアップに問題を抱えているエスパルスにはボールを持たせても構わない、という考え方もあったのでしょう。
最終ラインから前線のターゲットに向かってシンプルにボールを放り込み、セカンドボールの奪取からエスパルスを押し込もうとします(下図)。

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ある程度ゲームが落ち着くと、鹿島はサイドから前進を図ります。

右サイドでは、SHやFWがエスパルスのSB裏に流れ、サイドの深い位置まで侵入して相手を押し込みつつ、後方でフォローするCHやSBに戻してシンプルにクロスを上げる形を、左サイドでは安西の突破力を活かした縦への仕掛けを多用していましたが、鹿島は中で体を張れる選手が少なかったこともあり、ここは鈴木(義)・ヴァウドが弾き返します(下図)。

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では、エスパルス側から守備の狙いを見てみましょう。

エスパルスは、前節・神戸戦で整理した前線からのプレスのかけ方に倣い、この試合でも2トップが相手CHへのパスコースを消してからのプレッシングを徹底。また、自陣でブロックを作る際は、FW同士が縦の関係を作り、主にコロリが中盤まで下りて相手CHをケアする一方、鈴木唯人はカウンターに備えて前線で待機する、4-4-1-1気味の陣形で迎え撃ちます(下図)。

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この形の利点は2つ。

まず1点目は、ボールを奪った直後の預けどころができること。
コロリが中盤の位置で顔を出すことで、選手間の距離が縮まり、ミスパスの危険性を減らすことができます。また、相手を背負ってボールキープできる彼が周囲の選手が追い越す時間を作ることで、縦に速い攻撃が一層切れ味を増すのです。
後半にコロリとピトゥカが競り合って熱くなるシーンがありましたが、この2人のマッチアップが多かったのも、上記の陣形に要因がありそうです。

2つ目は、中盤と最終ラインとの間が自然にコンパクトになること。
エスパルスは、相手のCHに対して前線の選手が対応することで、CH(竹内・白崎)はCB-SB間のカバーなど、後方での仕事に集中できます。
さらに、右SHの片山がしっかり中央に絞ることで、横方向にもコンパクトな陣形を維持。中盤でのこぼれ球の奪い合いでも、後手に回ることは少なかったように感じました。

【エスパルスのボール保持の特徴】

続いて、エスパルスのボール保持を見てみます。こちらの特徴も2つ。

1つ目は、片山の強みを活かした右サイドへのロングボールでの組み立てと、セカンドボールを拾って速く攻める組織としての設計図があったこと。

まず、GKやCBがボールを持つと、コロリが相手の最終ラインと駆け引きをして「深さ」を取ります。こうすることで、片山と相手SB(安西)をマッチアップさせ、競り合いに勝ちやすい状況を作ります。
この状態を作っておいてから、片山に向かってロングボールを入れていくのですが、同時にエスパルスは複数の選手が片山の周辺に集まります。結果的に相手ボールになっても、すぐさま鹿島のボール保持者を囲い込み、ボールを奪い返していくのです(下図)。

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コロリに長いボールを直接当てる場面でも、片山が中央に入るなどして、常にコロリの周辺に誰かがいて、セカンドボールを拾うことを意識していたように思います。これが、スタッツでコロリと片山とのパス交換が多かったことにつながっています。
ここで前向きにボールを受け、タイミング良く逆サイドを駆け上がる神谷や山原を使ってゴール前に迫る場面が、何回か見られました(下図)。

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そして2つ目は、山原の稀有なプレス回避能力を活用すること。

エスパルスは最終ラインでボールを持ったとき、竹内が鈴木義宜の左脇に下りて、山原と神谷を高い位置に押し上げます。こうして竹内に相手SH(仲間)が、山原に相手SB(常本)がプレスに向かうように仕向け、相手の守備の基準点をズラします。

山原には、すんなり前は向かせまいと相手SBが激しく寄せてくるのですが、顔を上げてボールを保持できる山原は、冷静に中央のスペースへのドリブルで相手を剥がしたり、周りの選手とのパス交換を使ったりして、プレスをいなすことができる選手です。

試合を見ていると、パスを出した後に、もう1度パスを受けようと絶えず動き直しているのが、彼だけであることに気がつきます。「チームで繋ぐ」という意識が、チームの中でも突出して高いのが彼ではないかと感じます。

下図は、裏を抜け出した神谷へ繋げた場面ですが、彼の良さが十二分に発揮された、素晴らしいシーンでした。

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【後半の展開】

後半早々に、鈴木優磨のゴールにVARが介入し、オフサイドで取り消しになりますが、これもシンプルなクロスから。
このとき、アラーノに対してヴァウドと原が2人で競りに行っており、ゴール前に入っていく鈴木優磨をチェックできていない危険な状況でした。

65分過ぎ、エスパルスは鈴木唯人に代えて後藤を、鹿島はピトゥカ・仲間に代わって松村・上田を、それぞれ投入します。この交代をきっかけに、膠着した盤面が動き出し、直後の69分、エスパルスの先制点につながります。

得点を生んだのは、山原の思いきった縦への仕掛けと、利き足ではなくとも精度の高い左足ですが、ここで注目すべきは、鹿島の右SB(常本)を持ち場から遠ざけ、縦へと仕掛けるスペースを作った後藤の献身(下図)。この動きを察知して、すぐに縦へと仕掛けた山原の判断も素晴らしかったです。

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エスパルスに先制点を許した鹿島は、アラーノ→カイキの交代を契機に、前線の並びを変更。
上田を最前線に置き、樋口がアンカー・和泉がトップ下の縦関係を形成、さらに鈴木優磨も少し下がり目の位置(ライン間)でボールを引き出します。また、カイキ・松村の両SHはサイドに張り、とくに右サイドでは松村が持ち前のスピードを活かした仕掛けを狙います(下図)。

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1失点目の場面では、CHからの素早いサイドチェンジから、松村がボールを持ってからすぐにクロス。あのタイミングで質の高いクロスを上げられては、いかに屈強なDFでも対応は難しいでしょう(下図)。

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2失点目も、トップ下に入った荒木(途中で和泉に代わって投入)が、関川の縦パスをライン間で受け、下がり目の位置にいた鈴木優磨からのクロスを上田がヴァウドとの競り合いを制してゴール。
関川のパスは見事でしたし、このゴールは上田の得点力を褒めるしかないと思いますが、このときの選手の立ち位置(下図)を見れば、スローインからの流れだったとはいえ、後半の鹿島のシステム変更がプラスに働いたとみることもできます。

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現実的な戦い方を貫いたエスパルスでしたが、後半、投入された選手たちが持ち味を発揮した鹿島と、同点にされた後、押し込まれた状態で反発できなかったエスパルス。力及ばず、惜しくも敗戦となりました。

4.所感

「ピッチに立っている選手の特徴を活かして、今できることをする」、そして「チームで同じ画を描く」。この2点において、ルヴァンカップ・広島戦で左SB山原・右SH片山という最適解を獲得し、神戸戦よりも組織立った戦い方ができたのが、大きな前進だと感じました。

現実的な戦いにシフトし、上位を相手に善戦した一方で、代表帰りの鈴木唯人をスタメンで使わざるを得ないエスパルスと、似た状況の上田を途中から余力のある状態で投入し、彼の得点力を活かして勝利した鹿島との、チーム力の差は歴然でした。

なかなか勝利が掴めない中、ここからは連戦となり、チーム力の差が如実に出てくることが予想されます。怪我人の復帰やキープレーヤーズ(控え組)の奮起に期待し、チーム一丸となって試練を乗り越えてほしいと思います。

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