エスパルス

【エスパルス】地方クラブの現在地と未来 ~2018年度財務分析~

「トップ5」を掲げた2019シーズンの立ち上がりは、かねてからの課題だった失点の多さに加え、怪我人の多発や誤審など運にも見放されて波に乗れず、ついに監督交代に至ってしまいました。

それでも、篠田新監督のもと挑んだ今日の大分戦(1-1)では、チームの生命線であるハードワークやコンパクトな守備がみられ、「半歩前進」(篠田監督)できた内容だったと思います。

試合内容の振り返りは他の方に任せるとして、今日は先日発表された2018年度決算について分析してみます。

2018年度(2019/1期)決算、過年度決算推移

画像1※上記の数字はすべて公開資料に基づくものです(赤字は推計)

(1)収支・財務の状況

2018年度は営業収益(売上高)39.8億円、経常利益▲2.4億円の減収減益。

収益の4割超を占める広告料収入は、親会社である鈴与Gからの広告収入が▲1.4億円減少したものの、新規スポンサーの増加で補い前年水準を維持。
また、入場料収入やJリーグ分配金の落ち込みを移籍金収入でカバーし、全体の減収幅はわずかにとどまりました。

一方、怪我人が多発した2017シーズンを踏まえた保有選手数の増加および外国人選手の獲得によるチーム強化費の増嵩(約2億円)、外部と協働して進めている「イノベーションラボ」「リブランディング」等の新たな取組みにかかる費用の発生(約0.9億円)により、損益は大幅赤字。

また、財務面をみると、大きな赤字が響いて自己資本比率が2.7%まで低下。
クラブライセンス交付規則に抵触する債務超過を避けるためにも、2019年度はクラブが目標とする「単年黒字確保」を必達したいところ。

(2)時系列比較

2015年2月に左伴社長が就任して4年が経過しましたが、就任前と比較して営業収益は+7.5億円(+20%超)伸長、これに伴いチーム強化費も+5億円(+44%)の大幅増加。
増収は広告料収入の増加によってもたらされており、稼ぎを作る部分での社長の手腕(豪腕?)が見て取れます。

就任の経緯から考えると、おそらく左伴社長には
①収益面での親会社への依存度低下
②強化費の捻出
という両立の難しいミッションがあったと推測されるのですが、売上高に占める鈴与Gの割合の低下(2→1割)にもみられるように、この困難な課題に対し、短期間で成果を上げているのも特筆すべきです。

ただし、J2降格時や監督解任に伴う違約金・和解金の支払時など、要所では依然として親会社からの援助が必須なのも確かで、とくにJ2から1年で復帰できなかったら…と思うとゾッとします。

【参考】2013年度以前の決算状況

画像2

2013年度以前と直近の決算を比較すると、入場料・アカデミー・物販などの収入は概ね頭打ちであり、新規スポンサーの開拓やスタジアム内の広告枠に限界がある中、今シーズンから座席の値上げに踏み切った理由も理解はできます。
(ただし、今季の動員は芳しくなく、値上げが奏功しているとは言い難い) ※理由は後述

そして、改めて見ると、2010年度の平均入場者数・スタジアム収容率は信じがたいですね…
結果としては長谷川体制の最終年度になりましたが、前半戦で首位に立つなど当時の熱狂は凄まじく、いかにファン・サポーターの期待値が高かったか実感できます。

なお、過去10年で最も成績が良かった2010年度のチーム人件費が約15億円。
2018年度の数字は公表されていないものの、約18億円程度とみられるので、3億円上積みしてようやく、J1では中位確保レベルというのが現状です。

(3)J1平均との比較

画像3

続いて、エスパルスの収益構造を見ていきます。

項目別の売上対比から読み取れるエスパルスの強みは
①アカデミーの裾野の広さ(アカデミー関連収入)と
②サポーターの購買力(物販収入)にあります。

他クラブのスクール生徒数を調べたことはありませんが、4千人超を抱える下部組織を持つクラブは珍しいのではないでしょうか。
また、物販についても、スタジアムで新商品を買い求めるサポーターの動き出しの早さ・列の長さ・購入量にはいつも驚かされます。

市民クラブとして産声をあげ、長い年月をかけて地域との結びつきを強化してきたクラブの矜持を感じます。
現時点では売上規模としては広告料収入に及ばないものの、地域事業・物販で培ったノウハウを活かせるフィールドは多くあり、成長余地のある分野といえます。

一方、経営の足かせとなっているのが
①スタジアムのキャパシティ(広告料収入・入場料収入に影響)と
②地域事業のコスト(エスパルスドリームフィールド等の維持費)です。

収容人員、アクセスの悪さ、屋根・トイレ等の構造上の問題など、スタジアムについては書き切れないほど課題がありますが、県下5つのフットサル場も、その稼働率では人件費や償却負担を補えず、恒常的に赤字が続いている模様。
(スタジアム問題については、そのうち別エントリで書きます)

全体的な印象としては、ここ3年で大都市圏のビッグクラブや資本力のある大企業がバックについているクラブが大きく業績を伸ばす中、収益源に乏しい地方クラブがよくここまでついていけたなと思います。

個人的には、左伴社長就任以前の鈴与Gの傀儡政権では、ここまでの増収を達成できなかったと思うので、2015年度はクラブの大きな分岐点だったのでしょう。

なお、チーム人件費は、強化費の大幅な積み増し(前述)にもかかわらず、J1平均から2億円以上も水をあけられている状態。
他クラブとの格差は年々広がっており、優勝争いやJ1定着を目指すなら、収益構造の抜本的な改善や強みをさらに伸ばす施策が急ぎ求められます。

未来に向けて(所見)

エスパルスは、左伴社長の就任以降、大きなスポンサーに頼らない営業施策の効果などにより、財務面では大きな成長を遂げています。
そうした貢献が、肝心の本業(サッカーの成績)に反映されていないのはもどかしいところですが…
(切り札として招聘された久米GMの早すぎる他界も痛かった)

恐らく、左伴社長の豪腕がなければ、今頃エスパルスはJ1の舞台に立っていられなかったと思います。

その手腕に感謝しつつも、頭打ちとなりつつある収益構造の変革や累積赤字の解消に向けた筋肉質な利益体質への転換は急務であり、これらをどのように解決していくのか、長期的・抜本的な施策立案が必要な2015年度以来の大きな分岐点にさしかかっています。

こうした中、誰に言われたのか突如始まったIT活用やブランディングが、本来はクラブの強み・弱みやあるべき姿とセットで議論されるべきなのに、短期的な収入の獲得手段と捉えられているように見えるのが気がかりです。

単年黒字必達を期して実施された座席の値上げも、それに伴う付加価値の向上を置き去りにして、数字を作るために既存客の「クラブを支える心意気」に期待した側面が強く、値段と快適性・サービスが見合わないS指定席の客離れが顕著な一方、(※前回エントリに記したスポンサー向けの割り当て増加も影響あり)ホーム寄りで屋根下が確実に確保できるA指定席がプラチナチケット化するなど、需給バランスが崩れています。

清水という地方都市に存在するクラブのブランドとはなんなのか。
IT等の新しい手段を使ってどんな付加価値を提供できるか。
単なるロゴの見直しや食事の注文方法にとどまらず、根源的な問いにも少し目を向けて、人に寄り添ったクラブであってほしいと思います。

また、トップチーム強化の方向性についても(ここが1番大事)、選手を絞り込みつつ、前年同水準の強化費を用意して勝負に出た今シーズンのように、現場とフロントの考え方が一致しないと、かけたお金が無駄になってしまうことが今後も想定されます。

資本が限られ、ビッグクラブとの格差拡大が予想される中、勝負に出るタイミングは適切だったのか。
勝負に出られる陣容だと、正しく評価できる人物が社内にいたのか。
クラブとして、将来的に優勝を目指すのか、J1定着を目指すのか。

戦術面でも、ボール保持を放棄してカウンターの切れ味を磨いた昨シーズンに対し、今シーズンは戦術の幅を広げるためポゼッションにチャレンジ。
それが本当に現場(監督)の意向だったのか、フロント(GM)はピッチ内ありきの選手獲得だったのか、ヨンソン監督なき今、しっかり検証して今後に活かさなければなりません。

個人的には、やはりサッカーは相手ありきのゲームなので、ボールを持つ・持たないは本質ではなく、相手の良さを消す手段や相手のゴールに迫る方法論をどれだけ持っているかがチームの実力だと思います。
そうした方法論は時代とともに変わりうるもので、常に最先端の考え方を取り入れながら、的確に表現できる組織であることが求められます。

潤沢な資本のない地方クラブには、言い古されてきたことですが、下部組織から一貫した育成哲学、戦術、選手獲得の方向性と、それを実現できる指導者、評価の仕組み作りが必要です。
大榎GMも育成型クラブとしての立ち位置に言及されていますが、確固たる「エスパルスモデル」の早期確立に期待しています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少子高齢化、人口減少といった外部環境の変化が否応なく進行する中、エスパルスが未来永劫存続するためにはどうすればいいか。
このクラブの存在意義とはなんなのか。
その答えが、これまで培ってきた地域との関係性にあり、発展の先に新スタジアム実現への道があると思うのですが…
その話はまた別の機会に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?