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【エスパルス】2022年J1第29節 vs湘南(H)【Review】

チアゴ サンタナの豪快なミドルシュートで先制しながら、前半の終盤から後半にかけて湘南にペースを握られ、ついにラストプレーで天敵・ウェリントンに頭で押し込まれる、痛すぎる引き分けを喫した今節。

現地で観戦していた感想としては、ゼリカルド監督が前半途中からポジション変更を行ったことで、湘南のビルドアップを阻害する術を失ったことが、試合を難しくした要因に見えましたが、きっとそこには監督なりに気になったポイントがあり、それを是正したかったのだろうと思います。
記憶だと、これまで4バック→5バックの変更がなかっただけに、個人的にも非常に興味深いポイントです。

そこで、今回のレビューでは、そのポジション変更の理由と背景を考察してみます。

1.スタメン

エスパルスは山原がスタメン復帰。リザーブには中山が帰ってきて、いよいよ本来目指したい姿が実現しつつある感じを受けます。
鈴木唯人と北川のキャラクターが被っていて使いどころが難しい点は気がかりですが、個の特性を強く持っている選手を優先的にベンチ入りさせている印象です。

(上図フォーメーションはボール非保持時を基準)
エスパルスは、カルリーニョスが相手CHを見るためFWが縦関係になる「442(4411)」。
湘南は、両WBが最終ラインに引き、中盤が3センター気味になる「352(3142)」。

2.スタッツ

シュートはわずか3本。とくに後半は中山が独力で持ち上がって放った1本のみで、ゴール期待値の推移が難しい試合を物語っています。

ただ、現地観戦の印象では、中央を締めて湘南の攻撃をうまく外に誘導し、致命的なチャンスを与えていない感覚もありました。もちろん権田の好セーブに救われた場面もあったのですが、そこは日本代表の選手に期待するポイントでもあります。
ウェリントンが入り、湘南がシンプルなクロスという選択肢を手に入れた中で、エスパルスはクロスの出し手にプレッシャーをかける手段や、中央で跳ね返す選択肢を持っていなかったことが痛かったですが、そこにも複合的な要因が絡んでいるように思います。そんなところを含めて、以下で考えてみます。

3.試合の流れ

(1)前半(ボール保持時)

自陣右サイドでビルドアップが詰まった場合は、湘南の左CBの裏を狙う

まずはエスパルスのビルドアップ。この試合では、GKから再開する場合、①立田へのショートパス か、②中央のサンタナ(もしくは高い位置を取った右サイドの原)をターゲットとしたロングボール の、ほぼ2択。

①のケースでは、湘南は立田からのパスコースを切るように、受け手となるエスパルスの選手をマークしたうえでプレスをかけ、敢えて立田にボールを持たせることで、プレーの選択肢を制限。とくに器用なタイプではない原にボールを誘導し、その瞬間にボールへのプレッシャーを強めて縦にロングボールを蹴らせてしまうか、あわよくば左サイドに閉じ込めて奪い切ることを狙っていたように見えます。
また、湘南はロングボールの行き先となるサンタナをCBが強く迎撃し、エスパルスに起点を作らせません。

②のケースでも、権田からのボールのターゲットが明確なので、湘南は平岡・茨田らが中盤でセカンドボールの回収に備えます。

この日、立田から逆サイドに展開する長いボールがほとんどなかったのは、相手が5バック気味に構えていて石原のスライドが間に合ってしまい、攻撃のスピードが上がらないからでしょう。

エスパルスのビルドアップ→崩しへの移行イメージ(GIFアニメ:全2枚)

ミドルゾーンでは、エスパルスはSBが中央に入り、右サイドでは白崎が原と入れ替わるように右SBのポジションに下りるのが、ここ数試合でよく見られる形(上図1枚目)。これが効果的なのかはイマイチわかりません。

また、この日は原がサイドでボールを持つと、サンタナが下りてくるケースが多発。これは試合後コメントを見ると、サンタナが動くことでできる最終ラインのギャップに、CHを走りこませる狙いがあった模様(上図2枚目)。

(サンタナの試合後コメント)
--得点シーンについては?
練習でやってきたプレーではありましたが、違ったところもあります。本来であれば、自分が足元で受けて、白崎(凌兵)選手が裏に走ることになっていましたが、試合の中で逆になりました。

出典:Jリーグ公式サイト

(2)ボール非保持時

エスパルスは、両SHがCBとWBの双方をケアする必要がある=SHがプレスに出にくい

湘南は、茨田がアンカー然と振舞い、WBが幅を取り、IHがエスパルスCHの両脇にポジションを取る、3142の形でボールを保持。
左右のCBも異なるキャラクターを持っており、岡本はシンプルに前の選手にボールを預けて後方に留まることが多く、杉岡はボールを持ちあがったり前線の選手を追い越したりする攻撃的な振る舞いを見せます。

これに対し、エスパルスはカルリーニョスがサンタナと縦関係になってボール供給の起点となる茨田をケアしますが、湘南の両FWが巧みにCB-SB間にポジションを取ることで、エスパルスはSBが最終ラインにピン留めされ、相手WBへのマークが曖昧に。
両SHが相手WBとマッチアップすると、相手CBにプレッシャーがかからなくなることに加え、CHも脇にいる相手IHの立ち位置に影響を受けるため、高い位置からプレスに行くことができず、エスパルスはミドルゾーンでブロックを作る守備を強いられます。

(GIFアニメ:全2枚)

湘南は敵陣に侵入すると、IHがサイド奥を目がけてランニング。これに呼応してFWが下りてきたりWBが中に入ったりして立ち位置を循環させ、エスパルスの守備を混乱させます。
とくに左サイドでは、杉岡が後方から追い越すことで数的不利を強いられることがたびたびあり(上図)、このパターンで前半のうちに何度か最終ラインの裏を取られる光景を目の前で見ていたゼリカルド監督が、なんらかの対策の必要性を感じたのは容易に想像できます。

(3)システム変更(41:40~)

そこで打った手が、ピカチュウを1列下げる5バックへの転換(下図)。
明確に形が変わったと認識できるのが、前半40分の被決定機(権田がセーブ)の直後です。

(GIFアニメ:全2枚)

これにより、相手WBのマーカーは明確になりましたが、エスパルスは両CHが相変わらず相手IHにピン留めされているため、前線からプレスに行くと茨田を自由にすることになってしまい、プレスラインは上がらないまま。相手アンカーへの対応が整理できず、結局はミドルゾーンからの守備を余儀なくされ、押し込まれる状態が続くことになります。

(4)後半

後半の最初は、現地観戦時のイメージに反して、比較的ボールを保持する時間が続いていたようです。
ボール保持時は、前半はサイドで幅を取っていた乾が中央寄りに位置することが多くなり、大外レーンを山原が活用する形(下図)に変わりましたが、ボールを左サイドに展開しようにも最終ラインの横パスを経由することが多く、湘南のスライドが間に合ってしまうため、左サイドを効果的に使える場面は少なかったように思います。

(66分~)乾→中山、カルリーニョス→ホナウドの選手交代。白崎をSHに回し、中山をサンタナの近くに置きつつ、73分に中山が抜け出したシーンのようにスピードを活かした右サイドの攻略を狙う(下図)。

(72分~)湘南が山田・池田を投入し、IHのモビリティを活性化。湘南のIHがエスパルスのCHを引き込みながらCBーSB間に流れ、松岡とホナウドを最終ライン近辺にピン留めする。
こうなるとますます茨田が自由を謳歌するようになり、エスパルスは前線から規制をかけられない(下図)。SHが守備の基準点を失い、どんどん押し下げられるようになると、セカンドボールも回収され湘南のターンが続く悪循環に陥る。

サンタナ→コロリ、山原→片山の交代後も、上図のような構造的な問題点は変わらず。
「サンタナの交代でボールの収めどころを失った」などという属人的な要素よりも、湘南がエスパルスの最終ライン5枚に対して4人を送り込んでくる攻撃に対し、アンカー(茨田)を消しながら高い位置でボールの出しどころを制限する仕組みを構築できなかった点、加えてボールを奪い返したとき、前線にボールを運ぶルートを定められなかった点などが、押し込まれる状況を変えられなかった原因とみます。

失点シーンの直前も、茨田に余裕を持ってクロスを上げる時間を与えてしまっており、高精度のボールを蹴られるキッカーに、ヘディングに強みを持つ選手へ悠々とクロスを上げられてしまっては、防ぐのは難しいでしょう。

4.所感

(どうすればよかったのか?)
結果に対して机上の空論を述べても何の意味もありませんが、やりようがあったとすれば、湘南が立田に対して行ったような「プレーの選択肢の制限」かと思います(下図)。

まずは、空中戦には決して強くないエスパルスのCBとウェリントンとの競り合いを避けること。そのためには、ウェリントンをゴールから遠ざけるとともに、ボールホルダーの自由を奪う必要があります。

ここまで検証した限り、湘南の攻撃への人数のかけ方に対して、エスパルスが5バックの布陣で対応する必然性はあるようです。それでいて上記の目的を達成するためにできるとすれば、湘南の攻撃を狭い方へ誘導すること。
高い位置から袋小路にハメていくようにプレスをかけ、上図のように岡本や茨田を実質的に閉じ込めてしまう、こんなやり方はありそうです。

もちろん実行するのは選手たちなので、DAZNの中継で水沼さんが言っていたように、全員の意思統一(共通理解)が必要なこと。
切ることができる交代カードが攻撃的な選手しかない中で、監督がピッチ内の現象をコントロールするのは難しいですし、ヘディングに強い選手がベンチにいれば…という仮定も、サンタナの疲労度などの要因でバックアップ役(コロリ)が必要だったとするならば、そもそも外国人枠の都合でベンチに入れることすらできないわけで、この引き分けは複合的な要因が重なった上での必然的な結果だったと割り切るしかないかな…と個人的には思います。

こうして自分でアウトプットしてみると、少なくともエスパルスが自分自身の力を疑うような結果ではなく、湘南の綿密な事前準備と愚直な遂行が生んだ難しい試合だったと考えられます。しかし、ここ2~3試合からはエスパルスのやり方もだいぶ研究されている節があり、なにか目先を変える必要もありそうです。

2022年のJリーグも終盤戦に入り、ますますチームの総力を問われる試合が続きます。ここからもう1歩上に上がるためには、鈴木唯人・北川航也など攻撃の起爆剤となる選手の活躍が不可欠でしょう。
まだ上を目指す資格はあります。少しでも高みを目指して、サポーターも一丸となって上を目指していきたいものです。

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