【エスパルス】2019年J1第25節 vs鹿島(H)【Review】

試合間隔が空くことによる怠け心や仕事の忙しさに加えて、スタジアムでのネガティブな感情がぶり返すのを恐れ、振り返るのがとても億劫だったこの試合。書いているうちに気持ちが整理できることを期待しつつ、今節も自分が気になったところを振り返ります。

1.前半で見えた双方の狙い

(1)エスパルスの狙い
最初にチャンスを作ったのはエスパルス。
前半2分、鹿島のCKのこぼれ球を拾った河井が、右サイドライン際を巧みなドリブルで突破すると、ボールは中央の中村を経由し、その外をスピードに乗って追い越してきた西澤へ。

鹿島のディフェンスラインは、被カウンターの局面なのでペナルティエリア手前まで引いて壁を築きますが、伊東が外側を猛然と駆け上がる松原を気にしてやや外側に開いたことでCB-SB間にスペースが生まれ、そこに切り込んだ西澤がミドルシュート!素晴らしい弾道で、枠にいっていればあわやというシーンでした。
セットプレー崩れとはいえ、西澤の切り替えの早さと松原のスプリント力を活かした、狙い通りの形だったと思います。

続いて前半5分、犬飼からレアンドロに中途半端なパスが出てコントロールが乱れたところを、河井とヘナトが挟撃してボールを奪った場面。

竹内がこぼれ球をダイレクトでドウグラスへ通すと、既にこの位置まで飛び出していた西澤(西澤のポジティブトランジションの早さは特筆すべき)がボールを引き取り、一気にカウンターへ。ドウグラスのパスがやや乱れて前進が遅れたため鹿島の帰陣が間に合ったものの、最終的には押し込んだ状態からヘナトを使って右に展開し、CKを獲得しました。この場面でも松原が我先にと追い越す動きを見せ、攻撃に厚みを生み出しています。

(2)1失点目を検証
複数のチャンスを創出するなど良い立ち上がりを見せた矢先の前半14分、何気ないプレーから失点。ここで何が起きていたのか詳しく見てみます。

上図は失点の直前、鹿島のクリアボールを拾ったエスパルスがビルドアップを始める場面。竹内が周囲の状況を見ながら、CB間に入るためポジションを下げますが、大久保はそれに気がつかなかったのか、近くにいた二見へボールを預けます。ところが、上田がすかさず竹内へのパスコースを切りながらプレスをかけたため、ボールの出しどころに窮した二見は、裏抜けを狙う西澤を念頭に、サイド奥を目がけてロングボールを蹴り込みます。
このボールに西澤が追いつき、松原も加勢しますが、鹿島も伊東と名古が戻って局面は2vs2の数的同数。ここで西澤がドリブルを仕掛けるもカットされ、ボールはセルジーニョへ渡ります。

セルジーニョに全くプレッシャーをかけられず前進を許すと、裏へ抜け出した遠藤にボールが出て万事休す。吉本の転倒や大久保の不用意な飛び出しなど、個々の対応にも問題はあったものの、ここまでスペースを与えてしまっては、失点を防ぐ方が難しいでしょう。
また、ここでは上田がサイドに開き、二見を吊り出しているのも好手。高い位置を取った相手SBの裏を狙う、セオリー通りのポジショニングです。

ここまで挙げた3つのシーンは、いずれも西澤・松原の飛び出しが攻撃の起点となったものですが、カウンターの局面ではそれが非常に強力な武器になる反面、ボール保持時においては2人が飛び出した背後のスペースが大きなリスク要因であるにもかかわらず、その空間をケアする方法について明確な方針がないように見えます。
結果論ですが、逆サイドのSH・SBがもう少し中に絞ったポジションを取り、セルジーニョにヘナトが、レアンドロのパスコースには中村が、遠藤の裏抜けのカバーには立田が向かえるようにしていたらどうでしょうか。
FC東京戦のレビューで振り返ったように、エスパルスの「人についていくことを優先する」守備では、スペースに対する意識が希薄になってしまうのもやむを得ないのかもしれません。ただ、どんな局面でも前後の距離感を気にする(陣形をコンパクトに保つ)意識ぐらいはあっても良いのではないかと思います。

また、失点シーンでエスパルスの陣形が大きく間延びした原因の元を辿ると、根本にはビルドアップの問題があることがわかります。二見が苦し紛れにボールを手放さなくて良いような各選手のポジション取りや、ボール回しの決まりごとはあってしかるべきです。
ただし、ビルドアップ面で大きな貢献をしていたエウシーニョを欠き、シーズンも終盤戦を迎えようとしている今から、ボール回しの改善に着手するのは現実的には困難。現状でも狙い通りのチャンスは作れているので、それをいかに先制点につなげるか。今はそれに尽きる気がします。
(2失点目の振り返りは省略)

(3)鹿島の狙い
1失点目の振り返りが長くなりましたが、次は鹿島の狙いを考察します。

上図は前半3分、鹿島の狙いの一端が見られた場面。
鹿島はSBが高い位置を取るとともに、トップ下・SH・CH・SBが互いに循環しながら守備ブロックの隙間に入り、パス&ゴーを繰り返しながら、最終的にはエスパルスのディフェンスラインの隙間を広げ、CB-SB間やCB間の攻略を狙います。また、足を止めずに動き続けることで、人への意識が強いエスパルスの選手の注意をより引きつけます。
上図では小池がコーナーに流れていますが、このシーンに至るまでに遠藤・名古もコーナーに抜ける動きをしています。この場面では、ヘナトが立田にステイするよう指示を出している様子が見られますが、2度にわたりサイドに流れる動きを見せたことで、立田が引きずり出されてしまいました。
結果的には、吉本がカバーに向かったことで遠藤のコントロールが乱れ、決定機には至りませんでしたが、ここで重要なのが吉本と二見の間が開いてしまったことです。上田のポジショニングで二見をピン止めし、真ん中にできたスペースを逆サイドのSH(セルジーニョ・レアンドロ)が狙う形は試合中に何度か再現され、これが鹿島の狙い筋であることを示していました。

上記の流れを簡単に整理すると、
①上田はファーサイドに入り、エスパルスのCBを引きつける
②CB-SB間にニアサイドのCBを吊り出し、CB間を広げる
③開いたCB間やバイタルエリアに、上田や逆サイドのSHが入り込む

この狙いに対し、エスパルスは川崎戦のようにCH(竹内・ヘナト)をCB-SB間に落としてギャップを塞ぐのではなく、河井が中盤に近い場所にまでポジションを落とし、後ろに残る三竿とボールサイドのSHを同時に見る(得意の「1人で2人を見る守備」)ことで対応します(下図)。

これによりサイドでの数的同数を確保。先ほどのシーンで言えば、鹿島のトップ下はSB(立田)が、同じくSBはSH(中村)が、CHはCH(ヘナト)が見ることができるようになりました。

(4)ビルドアップにおける立田の使い方
前節・川崎戦では、ビルドアップの際に右サイド(立田)で詰まって前進できない場面が目立ちましたが、今節は若干の修正がなされたようでした。

具体的には、以前よりボールサイドに寄ってサポートするようになったヘナトを使ったワンツーや、サイドライン際に開いた中村が中へ切れ込み(+ヘナトの裏抜け)、サイドチェンジする形などが見られました。
前節のパフォーマンスを見て、鹿島はエスパルスの右サイドをボールの取りどころにしていた節があります。現に、吉本へのプレスや立田への寄せ方はかなりタイトでした。
その分、エスパルスはワンツーなどの剥がす動きが効果的で、前半はとくに右サイドからチャンスを作れていました。

2.後半の戦い方

(1)エスパルスのシステム変更
2点を失っているエスパルスは、後半の冒頭からシステムを4-1-4-1に変更し、前からの圧力を強めます。

エスパルスは、鹿島のCB同士で横パスが出た瞬間を狙い、CH(竹内・河井)が相手CHへのパスコースを切りながらプレスに行きます。システムの泣きどころとなるアンカーの脇を使わせる前に、ビルドアップの起点となるCBに時間を与えず、GKに下げて長いボールを蹴らせれば、ヘナトが競り勝ってセカンドボールを回収できる算段。
竹内や河井はカバーシャドウが上手な選手なので、後半は三竿・名古を使った展開をほとんど許しませんでした。後半27分、3失点目のシーンまでは…

(2)3失点目を検証

後半早々、河井に替わって六平が入りましたが、この交代の意図は「前向きの圧力をより強くすること」。具体的には、ボールホルダーへのプレスの強度を強めて相手のミスを誘発し、高い位置で奪ってからのカウンターを目指す姿勢を明確にしたメッセージ。六平の身体能力と球際の強さに期待した交代でもあります。
ところが、3失点目の場面を見ると、六平が三竿にプレスに行けず、大きな展開を許しているのがきっかけです。背後の遠藤が気になるのはわかりますが、ドゥトラが中へ絞れる距離にいますし(絞る素振りも見せている)、背後へのパスコースを切りながら前に出れば問題ありません。
名古から三竿に横パスが出たところで、なぜ六平はプレスに行けなかったのか。前からの圧力を強める意図で4-1-4-1にした以上、もっとディフェンスラインを上げて前線の選手を前に押し出すことや、後ろの選手から前の選手に対する「行け!」という声かけが必要だったのではないかと思います。
4-1-4-1のエスパルスは、前向きにプレスがかかっている状態では非常にいい守備ができているのですが、引いてしまうと過度に後方に重心がかかってしまう傾向があります。こうしたデメリットを解消すべく、吉本には彼の強みであるラインコントロールや声出しが期待されていますが、この試合では1失点目のミスで少し元気がなくなってしまったところも見られるので、次の試合までになんとか立て直してほしいところです。

(3)エスパルスのボール保持
今後はボールを持ったときのエスパルスの振る舞いについて。

後半のエスパルスは、ボール保持時にはヘナトをCB間に落とし、SBが高い位置を取る3-4-2-1の陣形を取り、CHが相手CHの脇にポジションを取ったり相手SBの裏に抜けたりして注意を引きつけ、どちらかというとSHに時間を与える(ゲームメイクさせる)ような形を作っていました。
これにより、視野が広く大きな展開を得意とする中村の特徴が活き、サイドチェンジから松原が高い位置でボールを受ける場面を作るなど、徐々に鹿島を押し込んでいきます。

後半13分、ドゥトラが入ってからは、彼をサイドの高い位置に配置し(アイソレーション)、仕掛けを起点に何度かチャンスを作りました。松原が走力を活かしてインナーラップし、数的優位を確保する場面も見られました。
ドゥトラは体のキレも増し、守備も決してサボることなく、ドウグラスとの連携の良さも感じられたので、もう少しスコアが競った展開で見てみたかったのが正直なところです。
起用方法については意見が分かれるところですが、個人的にはトップ下よりもサイドに置いてあげた方が良さが出るのかなと思いました。始めからドウグラスとの距離を近づけるよりも、この2人が相手を引きつけて空いたスペースを突く方が、より多くのチャンスが生まれるような気もします。

3.今後に向けて

今回は感じたことをとりとめなく時系列のまま書いてしまったので、読んでくださる方にはわかりづらかったかもしれません。
振り返ってみると、試合内容としては決して悪いところばかりではなく、チャンスもある程度作れていましたし、主審の判定に泣かされたところもあったのですが…とにかく言えるのは、鹿島はこちらの隙を見逃してくれるほど甘い相手ではなかったということです。
鹿島の強さの秘訣はなんなのか、試合を見ながらぼんやり考えてみたのですが、それはやはりディテールに対するこだわりの強さなんだろうと思います。1つ1つのパススピードの速さ、相手の嫌なところを突くポジション取り、時間の使い方…こういった部分は日頃の習慣の積み重ねでしかなく、エスパルスもこの試合のような苦い経験を糧に身につけてほしい部分です。

次節は名古屋戦。フライデーナイトJリーグということで、普段エスパルスの試合を見ない人からも注目される試合になるはずです。
試合のポイントは、やはり先制点。ホームの直近2試合は、先制点を奪われてからボールを持たされる形になったことで苦しい時間が続いています。
エスパルスが最初のチャンスを作る試合も継続できているだけに、そこでいかに仕留められるか。サポーターとしても、最初の15分で試合も決めに行く気概で、選手を後押ししたいと思います。

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