見出し画像

漫画『宝石の国』をまとめて読めて良かったという話【忘備録】

普段、映画の記事ばかり挙げてるが今回は漫画のお話を。『宝石の国』という筆者が一時期、追いかけて脱落した漫画にハマり直したという話。

『宝石の国』とは2012年から『月刊アフタヌーン』で連載している市川春子先生による漫画だ。宝石の身体を持つ人型の生物たちと月から襲来する「月人」との戦いが描かれている。

筆者と市川先生の作品との出会いは、本屋でジャケ買いした『虫と歌』という作品からになる。『虫と歌』は4つの話をまとめた短編集だが、1話目の「星の恋人」を読んだ時点で「これはとんでもない作品と出会ってしまった」と深く感動した。一気に読むのが勿体無くて、自分の好きな漫画、小説に出会った時にそうするように、何日かに分けて読み進めたことも覚えている。

キャラクターデザインに構図、印象的なセリフ廻しに、人と人ならざる者が織り成すストーリー…市川春子作品のあらゆる要素が自分の「好き」にドンピシャだった。だから『宝石の国』の連載が始まった時も当然知っていたし、連載の1話目が掲載されたアフタヌーンも購入した。

『虫と歌』に出版した短編集『25時のバカンス』内の「25時のバカンス(前編)」より。コマ割り、台詞廻しが本当好き…

では、何でここまでハマっていたのに追いかけるのをやめたのか?今振り返ると理由は色々あったと思う。一つは話の展開にそこまで惹かれなかったということ(自分の中で、過度な期待をしていたと思う)、もう一つは当時愛読していた『IKKI』という漫画雑誌の休刊によって、漫画自体への熱が冷めてしまったということもある(『宝石の国』の掲載誌の『アフタヌーン』は買ったり買わなかったりマチマチだった)。

他にも理由はあったと思うが、とにかく自分は『宝石の国』を読むことをやめてしまった。たまに本屋などで見かけた時などは「まだ連載してるんだな」くらいの気持ちで眺めていた。

そんな中、先日、SNSで『宝石の国』が連載分まで全巻無料キャンペーンを開催されていることを知った(現在、キャンペーンは終了しています)。その時は読む気自体は無かったのだが、キャンペーンで全巻読んだ恋人から「めちゃ面白くてハマったから、読んでみなよ!」と薦められたこともあって、何年か振りに『宝石の国』と向き合うことにしたのである。

ということで、まとめて読んだ結果を言うと「めちゃくちゃ面白いし好きな作品」だった。ドジっ子でトラブルメーカーなフォスは好きではなかったが、そんなフォスが仲間との交流と別れを通じて、見た目も内面も変化していくという過程が良い。

弱い主人公が話が進むごとに強くなっていくという姿も漫画の王道パターンで燃えるし、容姿がどんどん変わっていくというのも斬新。他の宝石たちも魅力的(個人的にはダイヤが好き)で、改めて自分は市川先生の作品が好きなんだと気付いた。

また、このタイミングでまとめて読めたことも良かった。というのも『宝石の国』は、筆者の「好き」を刺激しまくる作品ではあるが、手放しで絶賛するかというとそういう訳ではない。

フォスが他の宝石と親しくなる→別れ→変化(パワーアップ?)するという展開はパターン化してるように感じたし、戦闘場面もバリエーションが少ないように感じた。序盤に脱落したからこそ読み直したが、より先まで読んで脱落した場合は、今回のようなキッカケがあっても読み直さなかったかもしれない。タイミングも含めて自分にはハマった作品なんだと思う(読むことを薦めてくれた恋人にも感謝)。

本作は「鬱漫画」と評されているようだが、個人的には「鬱」というより「無常」という呼び方の方が相応しい気がする。市川先生が仏教校に在籍したという経歴もあってか、作中の時の経ち方や考え方などは仏教の世界観に近いものもあると思う(指摘している方も多いが手塚治虫先生の『火の鳥』に通じるものが感じる)。

作風でいえば、市川先生の作品は「登場人物が人外」、「別れ」など描かれる題材とテーマも一貫している。興味深いのは、登場人物の多くは「人のようでいて人ではない儚い生き物」で、その生き物は他の生物と交流関係を築くが、別れが待っているということ(人を模している生き物たちの容姿も大人ではないし中世的な容姿が多い)。

不安定、もしくは未熟な生き物たちによる不安定な関係性、もしかしたら市川先生はそうした儚さのようなものに美しさを見出しているのかもしれない。

色々語ったが、最後に今回の無料キャンペーンで読んだことで、今現在『宝石の国』の単行本を買い直していることも述べておきたい。

買い直そうと思った理由は、紙媒体として手元に置いておきたいタイプの漫画であること、急いで読んだこともあって、キャラクターへの思い入れや細かい部分を見逃しているから。今は少しずつ単行本を購入しては、じっくりと読み直している最中である。

自分の中で一度手放したものをまた買い集めるということがほぼなかったため、『宝石の国』は自分にとって特別な作品になるかもしれない。連載も再開しているということで、フォスや宝石たちの物語の行く末を見届けていこう。

とりあえず4巻まで買い直し。表紙も宝石のようで手元に置いておきたくなる装飾が見事。
新たに買い直してから本棚にまだ1巻をあったことに気付いた(売ったと思っていた)。時の流れを感じる…

読んでいただきありがとうございます。 参考になりましたら、「良いね」して頂けると励みになります。