さぶさぶ

いつも手から金魚を触ったあとみたいな匂いがする皆さんこんにちは。
大晦日も三が日も揺るがぬ真顔で過ごした↑野です。

毎年冬はダイエットにもいいし、美味しいので、家でよく豚肉のしゃぶしゃぶをしている。
ポン酢でいただくので、安い肉でも美味しくいただけるわけです。
いいよね、冬の寒い季節には特にさ、暖まりながら、はふはふ言いつつ、楽しくしゃぶしゃぶしちゃったりしてね!

…って、全然よくねえよ。
何がよくないって、こちとらガスコンロとか全く持ってないわけですよ、普通の人にとっての5億円ぐらい持ってない。

「じゃあどうやってしゃぶしゃぶしてるの?」と、モニターの向こうの18歳の女子大生たちがドングリまなこをむき出しにして聞いてくるから答えるけれども、そりゃ、「暖房器具の付いてない台所で、立ちっぱなしでしゃぶしゃぶして食べてる」からね。

マジでクッソ寒いから、もはやほぼ外だからねこれ?換気扇回しながら調理してるからもう完全に屋外レベルだから。
吐く息が完全に白いからね、見たことある?しゃぶしゃぶと白い吐息の神秘的なハーモニー?先進国の光景じゃねえよ。
毎日夜になるたびに一人で屋外ライブやってるみたいなもんだから、俺の目の前には大勢のファンの幻覚が見えてるからね。「あの娘は太陽の~っ?」って言いながら観客席にマイク向けて「KOMACHI!」って言わせてるから。

そんな、しゃぶしゃぶどころかシャブやってんじゃねえのこいつ?と思われそうなほど奇妙な行動だと分かってはいるけれど、…俺にはこれしかなかったんや!こうするしか、ガスコンロ持ってない一人暮らしのおっさんには、こうするしかなかったんや!!

だから、お伝えしたとおり、僕はしゃぶしゃぶをする時は基本的に、ポン酢を入れた食器を片手に持ち、もう片手に菜箸を持ち、備え付けのガスコンロの前にロビンマスク並みの仁王立ちをし、虚ろな眼差しと寒さに震える手で、肉をゆっくりしゃぶしゃぶしては、しゃぶしゃぶした肉を震える唇に持っていってる。

しかもこれ、味がけっこう美味しいからまたくせ者だよね、そう、美味しいから続けちゃうわけですよ、茹でたての肉の美味しさ、まじプライスレス。ポン酢にゆずの皮を少しすりおろして入れてみちゃったりした日には、かぐわしいゆずの香りが抜けて行って、さらに堪らないからね(寒さも)。


さらに、一人だから誰に気兼ねするわけでもなく、自由気ままに、俺はしゃぶしゃぶ界の広大な自由の園に足を踏み入れちゃってる。

「野菜もちゃんと入れなよ」とか「まだピンク色じゃない、早いって!」とか、しゃぶしゃぶ奉行共に言われることもなく、俺は孤高の頂を登ってる。
肉を投入する時の眼差しは確かに虚ろかもしれない、しかし、それは本当の自由を、手放しのお気楽な自由もどきではなく、ある程度の苦痛と責任を伴った、本当の意味での真の自由を俺が感じてるから、常人には虚ろに見えるだけだ。

ほら見てごらん、菜箸を握る彼の手を?
あの手は数々の孤独と闘い、打ち勝ち、湯の中に羽ばたく肉を己の手中におさめてきた、美しき勝者の手だ。

肉は薄っぺらいかもしれないが、俺の志は厚いよ。
噛みしめてるのは肉だけじゃない、真の自由をも噛みしめてるんだ。


だから俺は、君たちにも積極的にこの一人台所スタンディングしゃぶしゃぶをお勧めしたいね、是非一度は試してみてほしい。
だってほら、目を閉じて想像してごらん?

『極寒の台所で、寒さと疲労で足をプルプル震わせながら、虚ろな眼差しをして、一人で完全なる真顔でしゃぶしゃぶをする』

どうですか、素晴らしいでしょう?


素晴らしいわけあるかハゲ!誰かコンロくれ!!


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