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「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を見て改めて脚本家・吉田玲子のすごさにひれ伏した

泣いた。まんまと泣かされた。

何かというと、「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を見てきたのだ。
ざっくり言うと手紙の代筆屋の少女を主人公にしたアニメだ。
兵器として育てられた少女が手紙の代筆を通して心を取り戻していくオムニバスもの。その劇場長編作品。

これがパンフレット。

表紙のデザインがしぶい。
紙の風合いと箔押しタイトルだけで見せるシンプルなデザイン。
紙は 新バフン紙N 180kg
箔押しは ロイヤルパープル(村田金箔)
かな?違ってたら超恥ずかしい…。

まさに、この感じ!
こういうシンプルな作品だ。シンプルで上品。
この映画、めちゃくちゃ泣かせつつも、幕引きがうまいと感心させられた作品だった。
言ってみたら、上品な後味だ。

この作品、テレビ放映していたのは2018年、2年前だ。
リアルタイムで見ていたけど記憶がかなり薄れかけていた。
見る前の復習として、テレビ版全13話、OVA版、外伝を一気に見直した。
もともとが「泣き」アニメだ。もちろん見直して泣いた。
そしてその足で劇場へ。

劇場版も泣くだろう、とは思っていた。
しかしまさかの──開始10分で撃沈。

冒頭10分特別公開

これが何かというと、シリーズ屈指の神回、第10話「愛する人は ずっと見守っている」の後日談だ。
病気の母が自分の死後、娘の誕生日に手紙が届くように50年分の手紙をしたためるという話。ついさっき、泣いてきたばかりの話だ。

劇場版は手紙を受け取っていた娘が、年を取って他界した話から始まる。
50年分の手紙を死ぬまで大切にしていたことを、その孫が知るというエピソード。
ある意味ファンサービス的な意味合いの強い始まり方ではあるのだけど、実はそのためだけにあるシーンではないように感じた。

そこから時代がさかのぼるようにして物語本編が始まる。
劇場版の大筋は2つある。
一つは、余命わずかな少年が両親とまだ幼い弟に送る手紙の代筆を主人公ヴァイオレットに頼んでくるという話。
もう一つは、主人公の元上官で最愛の人、戦場で死んだとされる少佐の行方の話。
いつもの寅さん的な人情オムニバス系の話と、劇場長編として主人公の物語を「完結」させる本筋の話、つまりフィナーレに向けた大ネタの同時進行だ。

それで、この映画、どちらも見事に同時進行で泣かせる。
そりゃ、もう大号泣だ。

ただ、この映画、泣かせに泣かせたあとで、最後に別の余韻を残して終わる。
ここで最初の設定が生きてくる。
この物語が昔の話として、一歩引いた視点で見られているということだ。
代筆業という、新しい時代の到来と共に忘れられている職業。
それに従事した主人公が「かつて存在していた」というフィルターが用意されている。
昔話として語ることで、静かな余韻を残して終わる。
クライマックスがやりすぎなくらいエモーショナルな盛り上がり方をするので、ここで一歩引かせる感じが、じつにうまいなと思った。
すごく上品な幕引きだ。

それとともにクライマックスで浮かび上がるちょっとした違和感も上手にかわす効果があるようにも感じられた。
ネタバレを避けているので分かりにくい書き方になってしまっているけど、その絶妙な距離感が、この作品の上品さをキープしているような気がして、つくづくうまいなーと思って劇場を後にした。

とにかくこのアニメ、テレビシリーズから通して、めちゃくちゃベタな泣かせ話なんだけど、こういう細部の目配せが実にうまくて、心地よく良く泣かせてくれる。
ベタだけど上品な着地をする絶妙な距離感。あと味がすごくいいのだ。

それでエンドクレジットを見て思う。
脚本家、吉田玲子、恐るべし、と。

吉田玲子、人気脚本家だ。
京都アニメーション(京アニ)作品を中心にたくさんのアニメの作品の脚本を書いている。
ぼくが初めてその名前を強烈に覚えたのは、京アニの「けいおん!」だった。
「けいおん!」で吉田玲子はシリーズ構成を担当している。
つまり脚本のまとめ役だ。

「けいおん!」、当時の超人気アニメ作品だ。
これ、2009年のアニメか…。もう10年以上前の作品だったことに驚くけど、ゆるふわな日常系のガールズバンドアニメ。

リアルタイムでの放送時、ふつうに面白いと思って見ていたけど、当初はそんなにどハマリはしていなかった。度肝を抜かれたというか、「落ちた」のはかなり後の方だった。

「けいおん!」は軽音部の女子高生たちのゆるやかな日常がただ続いていくだけのアニメだ。放課後に部室でお茶飲んで、ふわふわ会話して、ときどき演奏して、その繰り返し。

第1期「けいおん!」で高校に入学した主人公たちが、第2期「けいおん!!」で3年に進学する。
その第2期の第12話目「夏フェス!」という回で、ぼくは落ちた。

12話は全24話(番外編を除く)のちょうど中盤にあたる回。
夏休みに軽音部の合宿で夏フェスに行くという話。
いつも通りゆるっとした話には違いないんだけど、最後に5人で星空を見ながら、いつかフェスで演奏したいという夢を語り、こんなことを言う。
「これからもずーっとみんなでバンドできたらいいよね」「ずっと、ずっとな」
何気ない会話なんだけど、ここで気づいてしまう。
ああ、この時間はもうすぐ終わるんだ…と。

彼女たちの所属する軽音部はこの時点で高校3年生が4人、2年生が1人、総部員数5人だけの部。
5人だけの幸せな時間が永遠に繰り返されると思っていたのに、そのうち4人は卒業を控えていて、実はもう終わりに向けてカウントダウンしているということを気づかされる。

「ずっとな」って言うことで、逆に終わりを意識させる。
なんて見事な脚本なんだ。セリフの力、恐るべし…。

この回の脚本を担当したのがシリーズ構成もしていた吉田玲子だった。
なんというすごいことを、しれっとやってしまうんだ。

たったひと言のセリフで世界の見え方が変わってしまった。
ちょうど中盤で折り返すところで、「もう終わる」ことを意識した瞬間、いつもと変わらない日常が急に愛おしく思えた。
これでぼくは「けいおん!」にどハマリした。
1人残される中野梓(あずにゃん)を見ているだけで猛烈に切なくて、それまでと同じゆるふわな毎日が描かれているのに、2期の後半は毎週泣いて見ていた。
泣くごとに部屋にあずにゃんグッズが増えていくという沼状態。
卒業に向けてカウントダウンが始まってからは、もう大変だった。

そして極めつけは劇場版だ。話は最終回の直前、5人がイギリスに卒業旅行に行くという話。始まった瞬間から泣いていた。テレビシリーズの思い出し泣きだ。
決して泣くような映画ではない。ゆるふわな毎日の延長戦だ。
でもこれが自分でも引いてしまうくらいに泣いてしまう。

その時のブログ──

とにかくこれ以降、吉田玲子にはことごとく泣かされている。

不意打ちも多い。
何気なく見に行ったら、脚本が吉田玲子だったというパターン。

2年前の映画「若おかみは小学生!」はまさにそれだ。

公開直後に見に行って、児童向けアニメと思ってなめてたら、あまりの号泣っぷりに立てなくなるという…。で、涙を流しながらエンドクレジットで脚本家を見たら、吉田玲子…。

絵の魅力、演出のうまさ、この作品はどこをとっても素晴らしい傑作だと思うけど、中でもシナリオのうまさが際立つ作品だったと思う。

原作は児童向け小説で20巻にも及ぶ長編。
基本1話完結の話を見事に長編として散りばめている。
その上で、それぞれの話がしっかり伏線として生きている。
極めつけは映画オリジナルで加えられた終盤のエピソードだ。
主人公にとってすごく残酷な真実が明かされるのだけど、それにまだ幼い主人公がしっかり向きあう姿が強烈に胸を打つ。
まっすぐ立って、前に向かって進んでいく決意を単純なセリフで宣言させてみせる。このたったひと言の力のすごいこと。
その主人公の姿にもう涙が、嗚咽が、止まらなくなる。
とにかくこの映画、このクライマックスのエピソードが良すぎた。
ヤバイ、いま思い出しても、涙が…。

とにかく泣きすぎてなかなか席を立てないという…。
これはもう何かの事故だ。

テレビを見ていても気が抜けない。

青春×よさこいをテーマにしたテレビアニメ「ハナヤマタ」。
平凡な女子中学生が、自分を変えるために一歩踏み出す話。

本放送は2014年だったようだけど、リアルタイムで見落としていた。

今年の夏に再放送が始まって、自動録画されていた1話目を何気なく見ていたら、ものすごくベタな話なんだけど、あれ、なんかいいな、これって思って…
そうこうしているうちに落涙。
そして号泣。
これ1話目ですよね、何これ。
な、何でこんなに泣いてるんだ!!!??朝5時から…
わけ分からずにエンドクレジットを見たら、脚本 吉田玲子…。
な、お、恐るべし。
シリーズ構成・脚本 吉田玲子作品だったんですね。
すみません、知りませんでした。
ものすごくベタな話なんだけど、なんでだろう、涙がとまらんのです。

もともと、純真でまっすぐがんばる登場人物が出てくる話に弱いというのもある。
でも、明らかに吉田玲子の書く「純真でがんばる人」は質が違っている。
とにかく、この人が絡んできたら、もうあらがえないということだ…。
泣くしかない。

「聲の形」「きみと、波にのれたら」「リズと青い鳥」…
最近だとテレビアニメ「アルテ」もよかった。
ベタで泣かせ、変化球でも泣かせ、泣かせなくても泣かせ。
勝手に涙がこぼれてきやがる。
そのうち名前を見ただけで泣くようになるかもしれない…。
もう完全降伏だ。その名にひれ伏すしかない。

※もちろん泣かせない傑作もいっぱいで、初めて知ったけど「デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム!」も吉田玲子脚本だったんですね…。

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