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この世界は、弱者が逃げるようにつくり変えてきた。あるいは、エストニアがIT先進国になれた真の理由。

今年のゴールデンウィークは長かった。10連休にもなれば、時間の使い方に対してこれだけクリエイティビティを問われるとは。これから人類総暇時代に向けて、日本も早いうち“休み方改革”したほうが良さそうだ。

そんななか、僕はエストニアに行ってきた。エストニアと言えば、世界屈指のIT先進国であり、ブロックチェーンを駆使した電子国家(e-Government)として有名だ。行政サービスの99%が電子化され、投票も納税も国民IDで完結。IT教育も進み、国民のリテラシーも高い。そんな評判で前々から気になっていたから、実際に足を運んでみた。

(エストニアの電子化の取り組みを紹介するe-Showroomでの一コマ。appleの“i”シリーズのようにエストニア政府の活動は全部“e-”で統一されている)

実際のサイト「https://e-estonia.com/」を触りながら、話を聞いて「あぁ政府がデジタル化されるとこうなるんだなぁ」と感心しきりだった。特に“X-Road”という分散されたデータベースを安全に連携させるプラットフォームは凄まじい。それを介して、様々な企業がデジタルシフトのためのサービスを開発しまくっているのが圧巻だった。これが、オープンの価値なんだなと。

しかし、なぜ25年以上前に、エストニアはIT変革に舵を切れたのか。

言うは易し、行うは難し。こんなIT改革をなぜエストニアは成功したのか。その理由がとても興味深かった。遡ること1991年、ソ連崩壊とももにエストニアは独立した。国土も小さく、人口も沖縄ほど。隣には巨大なロシアがいて、常に国土侵略・支配の危機があった。実際、今でも街を歩けば1/3以上はロシア人なのだ。

そんな中で、当時32歳だったマルトラール首相は、エストニアが「再び国土支配されるかもしれない」という危機意識から、電子政府と国民IDに取り組んだという。そうすれば、物理的な国家が無くなったとしても、ネットワーク上の政府がある限り、IDを持った国民はそこにアクセスし、国体は維持できると。

現にエストニアの電子政府は、エストニア国内ではなく、世界数カ所のデータセンターに分散され、ひとつがダウンしても機能を維持できるようになっているという。ブロックチェーンやクラウドが注目されるずっと前から、分散化こそがエストニアにとっては生き残りをかけた戦略だったのだ。

人類の歴史は、グレートジャーニーではなく、グレートイミグレーション。

この話を聞いて、探検家の関野吉晴さんの仮説を思い出した。それは、実は、人類の大陸移動というのは、好奇心による勇敢なグレートジャーニーではなく、弱者によるグレーイミグレーションだというもの。「あの山を越えたらもっとよい暮らしがあるのではないか」という進取の向上心ではなく、実際は絶滅寸前の弱い人たちが追い出されるように移動し、生き残りのために知恵を発揮したという話だ。

僕はいつもこのストーリーに勇気づけられる。世界を変えてきたのは、現在の強者ではなく弱者なのだ。弱者が逃げるように新しいやり方を生み出すことで、非連続の進化は生まれてきた。まさに、Think Different.である。

これは我々の生き方についても同じことが言える。僕もそうだが、多くの起業家はアクシデンタルアントレプレナーだ。勇敢に選んだというよりも、つまり内外なにかしらの要因によって、ある種事故的に起業せざるを得なかった人が大半だ。だから現時点での強弱は問題じゃない。むしろ弱いことはチャンスである。強者が見えない“道”を突き進めるという一点において。問題は、その選択に懸けてやりきれるかどうか。エストニアの奇跡も25年にわたる軌跡なんだ。この事実を再確認できただけでも、今日から始まる大変な毎日を乗り切るエネルギーになる。