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木浪が“リーグ最強ショート”になれた理由

打率.267、本塁打1、OPS.657。これは、木浪聖也の昨年の成績である。一見、特に凄みがあるようには見えない。むしろとても平均的だ。しかし、木浪は「恐怖の8番打者」として注目を集め、ショート部門でベストナインを獲得した。一体なぜ木浪はリーグ最強選手の一角として評価されたのか。そこには、木浪の持つ強みと、それを最大限に活かした阪神のチーム事情があった。



DELTAより

上図は、昨年のショートの守備成績である。ここで注目してほしいのは、守備イニングだ。木浪がショートの守備に就いたのは1096.2イニングだった。ショートで1000イニングを超えているのは、木浪の他に長岡(ヤ)、紅林(オ)、今宮(ソ)の3人しかいない。野手の中でも特に負担が大きいポジションの一つとされるショートにおいて、年間1000イニング以上守るのは簡単ではないのだ。
ところで、ベストナインの候補としては、木浪の他には長岡(ヤ)、坂本(巨)が主だった選手だろう。そのうち長岡は、昨季は打撃が振るわなかった(守備は優れていたため、ゴールデングラブ賞は獲得しても良かったのではと思う)。しかし、坂本は打率.288、本塁打22と木浪と比較すると圧倒的な打力を見せつけている。それでもベストナインに至らなかったのは、上述の守備イニングが大きいと思われる。木浪と坂本のその差は400イニング近くあり、試合数に置き換えると約40試合分になる。これだけの差があったことで、あくまでショートとしては木浪の方が上だと判断する人が多かったのだろう。
つまり、木浪が“リーグ最強のショート”として選ばれた理由は、①ショートとしての出場機会が多い、②その中でも打撃成績が良い、の2点だと考えられる。では、なぜ木浪がそれほど出場機会を得られたのか、そして比較的優れた打撃力を身につけられたのか。次はその部分について考えてみよう。

木浪が「恐怖の8番打者」としてお馴染みになった通り、ほとんどの試合で8番を務めていたのは皆が知るところだろう。実際、木浪は先発出場124試合のうち122試合で8番を打っている。しかし、木浪は5月まで打率3割を、最終的に打率.270を割ったものの優勝時点でも.280に乗せていた。これほどまでに安定した打率を残していたにも関わらず、ずっと8番に置いていた、いや、置くことができたのは、1番と2番のいわゆる上位打線が固定されていたことが大きな理由だと考える。
阪神の上位打線と言うと、もちろん近本光司と中野拓夢である。彼らは打率、OPS、盗塁数のいずれも木浪を上回っている。このように攻撃力、走力ともに優れた2人は、これ以上ない上位打線の構成員であった。つまり、木浪がいくら打っていたとしても、上位に上げる必要がなかったのだ。上位打線に比べてマークが減り、さらに後ろが投手であるため四球数も増えやすい(敬遠数は実際リーグトップだった)8番に座り続けたことは、その直近2年続けて打率2割台前半に留まっていた木浪の打力が開花する大きな要因になったであろう。

さらに、木浪のライバルである小幡竜平の存在も大きかった。開幕ショートを小幡に譲った木浪だったが、僅かなチャンスで結果を残しスタメンを奪った。しかし、木浪の定着後も、今度は小幡が僅かなチャンスが来る度に結果を残したため、非常にハイレベルな切磋琢磨の環境になっていた。これまで好不調の波が激しかったことでスタメン定着に至らなかった背景のある木浪だが、小幡というライバルの存在も打力の安定感に繋がったのではないか。
ちなみに、木浪と小幡は2018年ドラフトの同期である。大学、社会人を経て入団した木浪と高卒で入団した小幡とでは6つの年齢差があるが、この2人が本職のショートで共存し競争し合うというのは、当時のスカウト戦略は大成功だったと言える(しかも同時に近本、湯浅も指名している)。

ここまで、木浪のベストナイン獲得の理由を打順から見るチーム事情とライバルの存在という環境的なものから考えてきたが、もちろん木浪自身が凄くないというわけではない。むしろ、タイトル獲得に最も大事な要素を木浪は持っていたのである。
その要素というのは、試合に出続ける体の強さだ。木浪はプロ入り後大きな故障というものはほとんどなく、戦線離脱した期間は僅かしかない。負担の大きいショートを守りながらも、昨季も一度も戦線離脱することはなかった。どんなに環境が良くても本人がいなければ意味がないのだから、木浪の体の強さという長所があってのタイトル獲得なのは言うまでもない。

あわや戦力外という立場から一気にレギュラー定着、そしてタイトル獲得と大逆転に成功した木浪聖也。その裏には、本人の努力と優れた特徴、そしてそんな選手を活かしたチーム状況の完璧なマッチがあった。木浪の活躍は多くの人に勇気を与えたに違いない。

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