髪型服装完全自由時代に中高生じゃなくて良かった
Twitterのハッシュタグで「この髪どうしてダメですか」というものをたまに見かけると思っていたら、身内から話を聞くことができた。髪型に関する理不尽な校則についての対話や議論を呼びかけているようなものらしい。
なるほど、と私は検索してみて納得する。
確かに、地毛の色素が薄い生徒に対して黒染めを強制するのはどう考えてもおかしいだろう。学校側が経済的負担をしてくれるわけでもないし、頭皮にアレルギー反応が出た場合に補償をしてくれるとも限らない。
ともかく、活発な議論があるのはいいことだ。いずれ、髪型や服装についての校則はどんどん変革されたりなくなっていったりするのかもしれない。
Twitterの反応もそういったものが目につく。時代の流れである。
ただ一つ感じることは、もしも仮に髪型服装完全自由時代がやってくるとして、私はその時代に中高生時代を過ごす世代ではなくて良かった、という安堵だ。
人間には変えようのない遺伝子的な格差があるというのに、髪型や服装が自由になったら、学校という閉鎖空間でさらに差をつけられるようなみじめな目にあうところであった。その前に中高生時代を終えたことは幸せなことだ。
私は真面目だけが取り柄で、パッとしない見た目のパッとしない生徒であった。
もちろん顔の造作や体型については今も大差ないけれども、特に中学生の頃はひどかったのである。
生まれつき癖のある髪は、毎朝なんとか撫でつけてもぴょんぴょんとあさっての方へ寝癖を伸ばしていた。が、いつも途中で諦めてそのままにしていた。
体操ズボンは教師の説教を食らわないようにそこそこの高さまで上げていたし、体操服も目をつけられない程度にはきちんと中に入れ込んでいた。
制服に関しては、まるで生徒手帳の内側のページに記載されている見本イラストのような着こなしであった、と自負している。
服や髪型のセンスが欠けている私にとっても、それが端的に言ってダサいことは理解できる。ちょっと格好をつけた中学生時代のクラスメイトたちは髪の毛にワックスをつけたり、パンツが見えるほど体操ズボンをずり下ろしたりして、個性を演出していた。
数少ない親しい友人たちは、そんなクラスメイトたちと私との中間程度に規則を守っていたと思う。だからこそ、私は友人に「真面目かよ」と悪気なくからかわれることを想像してはいつもおびえていたと記憶している。
しかしおかげさまで私は見事、先生のお気に入りの優等生であった。
中学校で教師に目をかけてもらえるというのは想像以上に重要なアドバンテージで、だから私はタチの悪い優越感すら抱いて日々を過ごしていた。
中学生時代の私にとっては、教師たちよりも同級生たちの方が対抗すべき敵だったのだと思う。盗んだバイクで走り出すよりも、タバコをふかしているところを見つかって警察の世話になった同級生のウワサをして心の中で「馬鹿め」と嘲笑う方が性に合っていた。我ながら嫌なガキである。
それがどうだ。
中学校が髪染め可、ピアス可、服装自由になってしまったら、ダサくてパッとしない中学生時代の私は行き場を失う。
そうなれば当時の私もおしゃれをすれば良いのだろうか。
どうやって?
少なくとも私が中学生だった頃は、ほぼ全員がごく普通にスマホを持っていたわけではないし、スマホを持っているからといってすぐに流行に敏感になっておしゃれになれるわけではない。私という生きた反例が言うのだから間違いはない。
それに、私の両親は決して資産家ではなかった。私の小遣いだけでは千円カットに行けるかも怪しいほどであったし、まして髪染めや縮毛矯正などとんでもない。
ピアスだって病院で穴を開けるならば高くつくし、着ていく服もタダではない。冬の制服ならば洗濯の頻度は少ないのが当然だが、私服だとそうもいかない。
何より、家族仲は良い方であったから、そんな金があったら近場でもいいので家族で少しでも外出したりおいしいものを食べたりしたいと思うことは自然なことだった。小遣いの範囲で友達と遊びにいくのも悪くない。
けれども例えば、授業参観に来た私の親は、クラスで私一人だけ寝癖の残った髪型をして毛先の傷んだ半端な長さの黒髪だったらどう思っただろう?
おしゃれに敏感で多感な年頃の同級生たちは、クラスで一人だけ、あるいはごく少数だけいる、外見にお金をかけられない生徒に対してどう思うだろう?
自由はひどく高くつく。
そしてそのコストは、持たない者に対して残酷だ。
自由のなさに傷つけられる者と、自由の背景で傷つけられる者の両方が存在することを誠実に考えられる人間は、どのくらいいるのか。私はかなり利己的であるから、考えられる人間ではないと思う。
もしこれをご覧になって不愉快になった方がおられたら、「インターネット上でバッシングされる老害のような思想を持った若造が何か言っているなあ」程度に受け止めていただけるとありがたい。私は誰かを不愉快にさせたいわけではないのである。
ただ、昔ながらのいわゆる「中学生らしい」服装と髪型をした中学生時代の私が、
「ふざけるな、髪染め厳禁ピアス厳禁! 校則を厳しく!」
と、心の中で旗を振り回しながら声をあげている気がするのだ。
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