枯淡

都内コールセンター勤務の聖闘士。37才。

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グレートティーチャー、虫

学校の池を覗くといつもアメンボがいた。アメンボとはみればみるほど不思議な生き物である。そのスイスイと動く様をずっと見てしまう。 校庭の隅にある、課外学習用の畑のキャベツの中にはいつも青虫がいたし、クラスメイトがどこからともなくカミキリ虫を捕まえてきて見せてくれたこともあった。 同じ畑にあったヘチマにはいつもクマンバチが沸いていて、危険だと言われている割には動きが鈍くて全然怖くなかった。 カマキリ、バッタ、シジミ、モンシロ、クロアゲハ、子どもの頃、昆虫との距離が今よりもっ

    • 引きこもり日記3

      週一ペースで数十分話すだけの関係が始まったわけだが、僕にとってもマサルにとっても意外だったのはその回数を重ねるうちにお互いに少しずつ打ち解け合ってきたことである。 最初のうちこそ会話の内容がかみ合わない場面もあったが、次第にお互いの話題も増えてきて、最終的には世間話の域にまで達するほどになった。 最初は自分からは全く喋らなかったマサルも徐々に口数が増えていき、数か月ほど経った頃には僕の方からもあまり気を使わずに話しかけられるようになっていた。 最初に感じていた圧迫感のよ

      • ビフィズス菌で人生変わった話

        ビフィズス菌で人生が変わった。その感動を伝えたい。 ここまで本当に長かった。 受難【少年編】 おれはずっと、お腹を壊しやすいOPP(おなかぴーぴーの略※サバンナ高橋が提唱)人間だった。 この種の悩みは、出てほしい時に出ない。 出てこられると困る時に出ようとしてくる。これに尽きる。 子供のころから朝、家を出る直前に腹が痛くなったり、テスト中にくだってきたりしておれを非常に悩ませた。 例えば小三の時、珍しく親父が長野の山にキャンプに行くと言い出した。 早朝から叩き起こさ

        • 引きこもり日記♯2

          近所に、かつて川だったという場所がある。 見た目には、小学校の敷地を囲む塀の脇にある、数百メートル程の狭い通路だった。 片方は小学校の白い塀。もう片方は住宅地を乗せた高台のコンクリートの壁に挟まれている。 いつから川で、いつから川でなくなったのか僕は知らない。 水捌けの問題なのか、その場所はいついっても地面が濡れていて、泥や水溜まりも頻繁にできているせいかほとんど人も通らなかった。 考え事に集中するとき、あるいは不安に飲まれそうになったりする時、僕はよくここを歩く。

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          引きこもり日記#1

          ひょんな事から引きこもりのマサルと友達になった。 ざっくりと経緯を言うと、親の知人に自宅に引きこもっている34歳の息子がいて、その息子と毎週一回、数十分程度でかまわないので会話をする機会を設けて欲しいと歎願されたのだ。 ちなみに僕は何某かのカウンセラーでもなく、福祉関係者でもなければ、NPO職員でもなんでもない。 どうして自分が相手として適任だと思われたのか、そもそもその息子が何故引きこもっているのか、根掘り葉掘り聞いてみようとするも一向に詳しい事情が分からず、とにかく

          引きこもり日記#1

          突然の立ち退き通知、な話し

          去年12月末。 年内の夜勤をすべて済ませ、朝方に会社から帰ってきたら、家のポストに変な茶封筒が入っていた。 ひっくり返すと大家の名前が書いてある。 今のアパートに住み始めて五年ほど経つが、これまで大家から手紙が来たという事が一度もなかった。 そもそもゴミの分別はちゃんとやってるし、契約の更新料も払ってるし、今まで一度も家賃も滞納したことないし。。 一体なんだろうと思って中を見てみると。んおぉ?と玄関先で変な声を漏らしている自分がいた。 平素はお世話になっております。

          突然の立ち退き通知、な話し

          ワクチン二回目の感想

          職域接種で二回目のワクチンを受けた。 なんやかんやと言われてるけど、もう色んな事に気を使ったり使われたりする生活と早くおさらばしたいので職域接種で7月、8月でモデルナを一回ずつうけたのである。 一回目の時は左肩が筋肉痛みたいになったけど他に問題はなにも起きず、次の日には知り合いのガキんちょ達とキャッチボールしたり、ウェービーボードに乗りながらフリスビーをしたりしていた。 子ども達は接種の順番がまだまだ先なので、「俺、ワクチン打ったぜ」と自慢したら「すげぇ」と尊敬の目で見

          ワクチン二回目の感想

          挑戦者たち

          類人猿の名残なのか、子供の頃はのぼれるところがあればどこにでものぼった。 例えば自転車置き場の屋根、廊下の手すりに上がってそこからよじ登ると、おそらく猫避けとかそういう意味で、ギザギザしている鉄製のボルトが出てる。 団地の屋上。ざらざらしたコンクリートの上に寝そべりながら妹と一緒にゲームボーイをしたり、ただ暗くなるまでずっと空を眺めて、夜になると月や雲を見ていたりした。 当時は世間全体のエコ意識が今よりはるかに低く、見える星なんて僅かだったけど、それでもその景色をじっと

          挑戦者たち

          ATM 、松屋、ドンキホーテ

          東京の梅雨はいつあけるだろうか。 聞きあきた音楽。他人の演じる作り物の悲しみ。じめじめ濡れたアスファルト。中途半端にまとわりつく雨。 はしのうえから見下ろすたくさんの屋根、屋根、屋根。道行く知らない人達の顔、顔。 行き場を失った休日の行動範囲はATM、松屋、ドンキホーテ。それを永遠にループしている。 蝶には蝶道といって、蝶にしか分からない通り道があって、だからこそコンクリートジャングルでも稀少な対の相手を見つけられたりするのだけれど、人間というのは何故か同じ生活圏内を

          ATM 、松屋、ドンキホーテ

          静寂の局地点

          夜中にWeb漫画サイトをパトロールしていたら、好きな漫画家さんが鬱病を患っていた事を知り、ちょっとショックを受けた。 町田洋氏の作品は、シンプルで幾何学的な描線の中に、日常では言葉にできない感覚や感情がこれでもかというほど叩き込まれている。 「夜とコンクリート」も色んな人に薦めてきた漫画だった。同作品集では、心を病んだり、傷ついたりしている人達が、未知の出来事に遭遇し、再生したり、成長していくまでが描かれている。 夜とコンクリート 不眠症の建築士が、建物と喋れる不思議

          静寂の局地点

          新メニューの日

          夕方過ぎ。 いつも利用している定食屋の自動ドアの脇に新メニューを広告するポスターが張られていた。 期間限定ライス大盛り無料らしい。 店に入ると、券売機で早速新メニューを注文した。 券売機からはお釣りと共に「回鍋肉大キムチ」と印刷されたチケットが出てくる。「大」というのはご飯大盛りという意味で、キムチはトッピングだ。それらの意味がチケットの狭い面積の中で「回鍋肉大キムチ」と印字される。 いつもは大盛りにしないけど、回鍋肉な上にキムチがついてくるから今日はそれだけご飯が必要

          新メニューの日

          座敷童子に会った話し

          2009年の6月頃だったと思います。 私は会社の有給を使って屋久島に旅行に行きました。 二泊三日。気軽な一人旅のつもりで、民宿は朝食付きで五千円程度の比較的リーズナブルな場所を選びました。 そこはインターネットで検索してもほぼ最上位にある人気の宿で、大きめの民家を改装した感じの、新しくて綺麗な印象の施設でした。 広い玄関に着くと明るくて感じのいい50代くらいのおかみさんが出迎えてくれて、すぐに二階の一室に通されました。部屋は八畳くらいの和室でしたが、特に古い印象はなく

          座敷童子に会った話し

          夕焼けチャイムでまた明日

          下校中、真っ直ぐ家まで帰れた試しはない。 いわば通学路には何かしらのイベントを発生させる目に見えない装置が溢れ返っており、それこそ隙があればとにかく遊ぶ、という発想だった。 友達と荷物持ちじゃんけんをしてみたり、意味もなく野良猫を追いかけて引っ掻かれたり、知らない家の軒先にある珍しい観葉植物を千切って怒られてみたり。 学校の近くに、不思議な玩具を売るおじさんがいつもいて、それはガラス細工のような立方体なのだが、中を覗くと目の前の景色が歪んで不思議な光景が広がるのである。

          夕焼けチャイムでまた明日

          昇進した話

          7月の終わり。 会社の上司二人から急に山登りに行こうと誘われた夏の真っ盛り。 「...日帰りっすか?」と願いを込めながら聞くと、二千メートルくらいの山の上にある山小屋に一泊するのだという。 …わぁ、めんどくせぇ、というのが本音だったわけだが、それで断るとあとあと職場でギクシャクしそうな雰囲気もあり、結局行くことにした。 朝8時に奥多摩駅集合な、と言われ、当日寝坊しないようにケータイのアラームとかを五分おきになり続けるようにセットし、無事起きて中央線に乗る。 一時間程電

          昇進した話

          「孤独な魂」を見て思った事

          5/11 ベッドに寝そべりながら清宮質文の作品集を見ていたら、孤独な魂という作品が出てきた。 薄いやみの中、一つ目だけがぼんやり開いている。 白目の部分は褐色に濁り、黒目の部分は何かを見ているようでなにも見ていない。 あぁ、そういえばそうだと思った。 孤独とはこうなのだ。 誰とも真剣に関わる気が起きず、気づけば自意識だけが異形にふくれあがる。  全てが飽和され透明になってしまって、もはや他人から見て自分がまともな形を成してるのか、成していないのか、成していたところで本

          「孤独な魂」を見て思った事

          僕と耳鼻科とキツネちゃん

          物心がついた頃には発症していたので、花粉症との付き合いはもう二十年以上になる。 僕が幼稚園くらいの頃、花粉症というものはまだ世間ではまだまだ認知度が低く、四六時中くしゃみをしたり目を痒そうに掻く僕を母は川沿いにあった耳鼻科によく連れて行った。 耳鼻科。今でも好きになれない言葉の響きである。 診療室に入ると、無表情な感じの年寄りの先生がいて、黄色い塗り薬の付着したやけに長い綿棒みたいなものを鼻の奥まで問答無用でぐいぐい突っ込まれる。無駄に痛くて苦しい上に何も効かない。何故

          僕と耳鼻科とキツネちゃん