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ログをとることの大切さ(精神安定作用の観点から)

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

高校時代からの友人、福田茂孝君と行なっているPodcast 「それは杞憂です」で度々、ほぼ毎回ぐらいの勢いで強調して伝えているメッセージが「ログ(記録)重要」です。

ログの大切さは挙げたらキリがないのですが、精神面に与える好影響という観点から少し書いてみようと思います。

前回に書いた通り、私は30歳の時にうつ病を患いました。その後の約6年間、まともに働くことはできず、時短勤務と休職、入院を繰り返すような有り様だったのですが、その後半戦において転機となる重要な治療方法との出会いがありました。

それは、社会リズム療法(SRM:ソーシャル・リズム・メトリック)という手法で、水島広子先生の著作「対人関係療法でなおす 双極性障害」に詳説されている手法です(※ うつ、双極性障害で悩まれている方にはおすすめの書籍です。ぜひご一読ください)。

社会リズム療法は、双極性障害(およびうつ)が生活リズムの乱れから発症、悪化することに着目した手法で、逆にリズムを整えることで寛解状態を保つことを狙うものです。

具体的には、1日の生活のポイントとなる行動を5個(簡易版)〜17個(詳細版)ぐらい洗い出して、それらの行動をとった時間とその時の刺激(1人でいたなら0、沢山の人といて刺激的な時間であれば+3)を記録し、1日の終わりにその日の気分を-5〜+5の範囲で定量的に表現して記録するというもので、メンタル版レコーディングダイエットのようなものをイメージしていただくとわかりやすいかと思います。レコーディングダイエットでは、食べたものとカロリーと体重を記録しますが、SRMでは行動をとった時間と刺激とその日の気分を記録するわけです。

「行動」ではイメージが湧きづらいと思いますので、例をあげておきます。SRM-Ⅱで定義されている、17項目の行動(チェックポイント)は次の通りです。

・起床した時刻
・人と初めて接触した時刻
・朝の飲み物を飲んだ時刻
・朝食をとった時刻
・初めて外出した時刻
・仕事・学校・家事・ボランティアなどを始めた時刻
・昼食をとった時刻
・昼寝をした時刻
・夕食をとった時刻
・運動をした時刻
・夜食・飲み物をとった時刻
・夜のテレビのニュース番組を見た時刻
・別のテレビ番組を見た時刻
・活動A、B、Cをした時刻(自分に合った活動を書く)
・就寝した時刻

これをそのまま使うには生活が合わない人がほとんどだと思いますので、実際は自分の生活に合わせて「行動」はカスタマイズします。私も自分用にカスタマイズした「行動」リストを作って(テレビは基本見ないのでテレビ関連の項目は除去、昼寝を外して、会社を出た時間を加えるなどして)運用しました。

運用のポイントとしては、各「行動」に大体の目標時刻を定義しておいて、なるべく毎日その時間に合わせて当該行動をとるようにすること、特に睡眠関連の時間を守ること、刺激があまり上がり下がりしないように注意することなどです。あと、あまり細かすぎる「行動」を定義して挫折するよりも、起床・就寝時間と気分だけでも記録することを習慣化することを優先した方がよいです。

このSRMを私は3年間ほどつけ続けました。結果、次のような効果を得て、体調の回復に大きく資することになりました。

・ 睡眠時間を守るようになり体調が非常に安定した。
・ 季節の体調の傾向がわかるようになってきた(春先、梅雨時は要注意でした。私の場合)
・ なんとなく具合が悪いではなく、(主観的ではあるものの)数値で示した気分の記録があることで、回復傾向なのか、悪化傾向なのか、本当に具合が悪いのか、悪いとしたらどの程度悪いのかを知ることができるようになった。
・ また、その時に起きていること(例えば、仕事が忙しくて帰宅時間が乱れがちとか)と、体調との相関を推測することができるようになった。
・以上のことから、予防することができるようになっていった(悪化傾向をいち早く見つけて早めに受診するとか)。

主観的で、数値化する意味がないように思えることでもあえて定量化することでそれは一つの事実になります。印象ではなく、事実に落とし込むことで、他の事実との相関関係を探ることが可能になりますし、改善を試みる事ができるようになります。また、平均をとる、グラフ化するなども可能となり、分析がとてもしやすくなります。人にも説明しやすく、受診もスムーズになります。

うつ状態は未来への不安や過去への後悔にとらわれて、今という時や現実が見えていない状態であることが多いです。気分を数値化して記録するという行為は事実を増やし、現実の存在感を大きくする行為であるともいえます。ですので、記録するという行為自体がうつ状態への治療効果があると私は考えていますし、実際にそうでした。

試してみていただければすぐに実感頂けると思いますが、記録があるということはとても安心感を与えてくれることなのです。どんなに苦しい時でも、もっと苦しい時期を生き抜いた記録がそこにあったらどうでしょう?

私はあの時期を生き抜いたじゃないか。大丈夫だ

そう思えるのではないでしょうか。記録をとってもとらなくても苦労したという事実は一緒です。しかし、記録をとればそれを後で活かすことができます。苦労を最大限活かすことができるのです。苦労は数値化して、相対化する。それだけで楽になります。

ログをとるという行為は、記録により事実を生み出し、他の事実との相関を考える材料になります。また、日々を生きた証になります。勇気になります。

ぜひ、一度やってみてください。

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