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広がる自律移動向け情報の取得手段: ターゲットラインペイント

 最近の自律移動ロボット (AMR) をはじめとした自立移動機器において画像処理を中心としたコンピュータービジョン技術の活用が加速しています。ナビゲーションやマップ作成 (SLAM) に LiDAR の利用が主流ではあるものの、LiDAR はハードウェア性能依存が高く、ソフトウェアでの処理には限界があるのに対し、可視光をはじめとした画像処理はカメラ素子の性能にある程度依存はするものの、ソフトウェアでデータの質を改善できる余地が多いのが、コンピュータービジョン技術にシフトしている一つの理由です。
SLAM に利用されるコンピュータービジョンの傾向には 2つあり、一つは入手しやすい市販の Webカメラなどを活用することでカメラ ハードウェアのスペックへの依存度を下げ汎用性を高める傾向と、高機能の映像素子に特化してさらにソフトウェアで画像データ解析の質を極限まで高める傾向です。
一言で SLAM と言ってもその利用目的は非常に広がってきており、屋内や屋外といった広い分類に加えて明るさの安定度やゴミ・チリの有無、他の移動体の多さなど、自律移動に活用されるデータの処理は進化が続いています。
LiDAR (Light/Laser Detection And Ranging) は近赤外光や可視光、赤外線などを照射し、その反射情報を光センサーでとらえて対象物までの距離や形などを計測するリモートセンシング技術で、最近では近赤外レーザーをパルス状に照射して対象物にあたって跳ね返ってくるまでの時間差を計測する技術も活用が進んでいます。LiDAR は対象物までの距離だけでなく、位置や形状まで性格に検知できる特徴があります。

 自立移動技術にもいくつかのレベルがあり、一見自律移動しているように見える無人搬送 (AGV: Auto Guided Vehicle) も AMR (自律移動ロボット) に比べてその仕組みのシンプルさや運用のしやすさなど、まだまだ進化の余地があります。AGV や AMR という分類はその運用形態で分類されるもので、それぞれが活用する技術は多くの部分で共通ですが、その技術の使い方もそれぞれの分類に応じて違いがあります。
共通技術としては、ロボットなどの機器が周囲の構造や障害物を認識する手段で、LiDAR やカメラ、ARタグ、Bluetooth などの無線マーカー、Wi-Fi、LTE/5G などがあり、これらの手段で得られた情報はソフトウェアで総合的に処理されどのように動くべきかを判断します。これらの既存技術に加えて、昨年 (2022年) 日本ペイントが発表した「ターゲットラインペイント」は新たな手段を提供するユニークな技術です。

 この「ターゲットラインペイント」は日本ペイント・インダストリアルコーティングス社が開発したもので、同社は日本ペイントから工業用塗料専業会社として2015年に分社化した企業で、産業機械や電気製品、鉄道、家具、住宅、社会インフラなど多様なマーケットを事業対象としています。
ターゲットラインペイントの大きな特徴は、アスファルトなど地面の色に同化する色を採用することができ、その塗料で描かれた情報 (ペイント・マーキング) は LiDAR では認識できても人の目にはほぼ認識できず、可視情報と区別することができる点です。

センサーで見た際のターゲットラインと目視で見た際のターゲットライン。Source: 日本ペイントホールディングス

ペイント・マーキングにターゲットラインペイントを使うことで、人が操作するフォークリフトやカートなどの手動運転と AGV や AMR をはじめとした自動運転が混在する空間において自動運転車のみに情報を付与することが可能となります。
一般的に LiDAR は暗色を認識しにくく、周りの色と区別しやすい色を使う必要がありますが、そのような色を使えば人の目でも認識できてしまい、誤認される状況が生まれてしまいます。ターゲットラインペイントは周囲の色に同化できるだけでなく、光の波長によって反射強度を制御することが可能で暗色でも LiDAR で認識しやすくできる特徴を持っています。
ターゲットラインペイントを活用することで、座標情報などをマーキングして測位情報のずれを修正することが可能となり、より SLAM 情報の精度を上げることが可能となります。

 ターゲットラインペイントは基本的に塗料であるため、定期的なメンテナンスは必要となりますが、塗り直すだけで修繕できるのに加え、情報の修正・変更も可能で、長期的に考えて大きなアドバンテージとなると思います。日本初の技術として今後の展開に注目です。

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