【基礎知識編】バランス接続とアンバランス接続

今回はバランス接続、アンバランス接続について解説します。それぞれの特徴を理解することで、その存在意義が見えてきます。

バランス接続とは

XLR端子をイメージしてください。それぞれの端子には役割があります。X,L,Rの順に1,2,3番と呼びます。
X(1番端子)はグランドに接続されます。TRSではS(Sleeve)にあたります。
L(2番端子)はホットという信号の送受信に使われます。TRSではT(Tip)にあたります。
R(3番端子)はコールドという信号の送受信に使われます。TRSではR(Ring)にあたります。
初めて聞くという方には意味の分からないものです。1KHzのサイン波がバランス送信されている場合の信号を例に、実際の信号の状態を見てみましょう。
1番はグランド接続なので基準電圧を0Vと仮定します。

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これは2番の信号です。1Vをピークにサイン波が見えます。それでは3番の信号を見てみましょう。

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よく見比べてみると、基準電圧0Vを中心に反転しているのが分かります。どの時点でも2番と3番を足すと音が消えるのです。2番の信号が1Vのとき、3番の信号は-1Vといった具合に、足すと消えるという状態がバランス信号です。

バランス伝送によるメリット/デメリット

ケーブルで長距離伝送を行いたい場合、いつどこでノイズが混入するか分かりません。そのノイズを消すには、そのノイズを反転した信号を足せば、理論上ノイズは消えます。バランスケーブルは細かくツイストされていますから、2番にも3番にも同じノイズが混入するであろうという前提で、バランス信号を受信する側は、3番の信号をさらに反転させ、2番の信号に足すという事を行います。するとノイズだけが消え、信号は2倍になるというメリットがあります。
デメリットは、バランス信号を作るバランスドライバー、受信するバランスレシーバが必要になり、回路が長くなってしまうためアンバランスに比べて音質面では不利であり、その分の部品が必要になるため価格が高くなるということです。インピーダンスが十分に低く、電圧も高いスピーカーケーブルでは、混入ノイズを音として再現できないため、アンバランスで接続されることがほとんどです。特に「完全差動回路(完全にバランス回路ですよという意味)」などという事が書かれていなければ、基本的にオーディオ機器内部の回路はアンバランスで設計されています。回路内ではインピーダンスを低く設計することは容易であり、導電性のケースによって外部ノイズから守ることができるので、わざわざ長く高額な回路を設計するより、インピーダンスを低くして音質を優先したほうがメリットが大きいからです。
また、最終的にスピーカーやヘッドホンを用いて空気の振動にするには、アンバランス化しなければなりません。

アンバランス伝送によるメリット/デメリット

アンバランス伝送で完結する場合、回路が短く音質的に有利であることが第一に挙げられます。ノイズ混入の可能性が低い環境では、バランス接続は無意味とも言えます。マイクのように微弱な信号はアンバランスで1.23V付近まで増幅するのは無理がありますが、一般的なライン信号を短距離で接続するのであればアンバランス接続で充分でしょう。もし数メートルの接続でもノイズが混入する場合、それは接続の問題ではなく、環境に問題があります。

バランスレシーバの省略

バランス出力が標準装備なオーディオインターフェースも珍しくありません。出力がバランスだからといって、受信側もバランスにする必要はなく、3番は受信しなくても良いです。
もしRCAジャックで出力が可能であれば、おそらくそれは意図されたアンバランス出力です。XLRのみの出力なら3番ピンは繋がない、TRSジャックであればTSプラグを挿してアンバランス信号として取り出す、といった使い方でも全く問題ありません。

偽バランス出力にもメリット

音響に詳しくなければ「アンバランス」という言葉は、直訳しても「不均衡」と何かネガティブな意味に捉えられる気がするためか、XLR端子による出力を備え、実際には3番に信号は流れていないという機器も少なからず存在します。筆者はこれを「偽バランス出力」と呼ぶのですが、実はメリットもあるのです。TRSによる接続だと、ジャックとプラグの接続は点になり、面積が小さいため接触不良を起こしやすく、音響的に優れた接続方法とは言えません。しかし、XLR出力を備えている場合、ケーブル側のコネクターに品質の高いものを使えるため、面で接続することが可能になります。当然ながら、偽バランス出力でもTRSであれば何も意味がありません。

アンバランスならRCA

RCAピンは見た目も地味で、古い家庭用機器にも使われる端子ですので、安っぽく思われがちですが、アンバランス接続ならばRCAを選びます。

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こちらの画像はWBTというブランドの純銀RCAプラグです。RCAの構造上、センターピンは太く、XLRと同様に面で接続されます。さらにWBTタイプであれば、接続後にプラグ本体のカバー部分がネジのような作りになっており、強く締め上げることでグランドの接地面をさらに広げ、脱落も防いでくれます。ハイエンドオーディオ機器ではRCAは好んで使われる接続方法の一つです。XLRはロック機構はありますが、グランドの接地に圧がかけられません。

バランス/アンバランスの理解は深まりましたでしょうか。お持ちの機器と接続方法を再確認すると、高音質化できるポイントが見つかるかもしれません。

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