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【機材環境編】聴いているのは電源の音ではない

音源制作の現場にいると、電源についての話題がよく挙がります。電源ケーブルを変えたら音が良くなったとか、交流100Vの電源を綺麗にする電源タップやトランス、壁コンセントを何たらなどです。
しかしそのほとんどが、機材の外部の話であり、電子回路の基本的なことを理解していれば、そのような触れ込みの商品に手を出すことはありません。

音響機材における電源とは

実際にヘッドホンやスピーカーを鳴らしているのは電力ですから、電源による影響は100%あるものの、直接影響しているのは壁コンセントでも電源ケーブルでもなく、最終的な負荷であるヘッドホンやスピーカーのユニットに電力を供給している部分です。もし、電源ケーブルや壁コンセントで音が明らかに変わった場合は、そのアンプの電源回路設計が間違っていることと同義です。電子部品のほとんどは、直流電源で機能します。そのため、100Vのコンセントが機器に繋がっていても、その直後には何らかの手段で直流に変換されています。最近では軽量化や低価格化のためにスイッチング電源が用いられる事が多いです。このスイッチング電源に如何に綺麗な100Vを流し込んでも、スイッチング電源自体が発生するスイッチングノイズは避けられません。ですから、実際に使用する機器の回路図を入手するか、分解して回路を追いかけて適切な措置をとらなければ、電源による高音質化は不可能です。最も良い電源回路は、トロイダルトランスによる降圧後にブリッジ・ダイオードと言われる回路を組み、充分に0Hzに近付けられる大容量かつ低ESRのコンデンサーを並列に、大量に組込むことです。もし降圧がスイッチング電源であれば、スイッチングノイズも消せるよう小容量のコンデンサーも組み込みます。このような回路を整流回路と呼びます。この部分さえしっかりしていれば、壁コンセントやタップ、電源ケーブルは何を使っても同じ音が出ます。つまり、このコンデンサー部分で電源の質は決まります。

市販アンプで高音質な電源はほぼ不可能

大出力パワーアンプであれ、1W程度のヘッドホンアンプであれ、上記のような理想を満す電源回路は市販品では不可能です。パワーの大きなアンプであれば、コンデンサー部分だけでも超巨大になってしまい、100W程度のアンプでも冷蔵庫くらいの大きさになってしまうでしょう。しかも耐用年数は半年程度です。そんなものは音が良くても売れません。
「音は最高に良いです、その代わりとてつもなく大きく、半年使ったら電源を高額な費用を掛けて交換してください」と正直に言ってしまっては商売にならないので、メーカーも何とかして耐用年数を長く、かつ音質と利益を維持しようと努力しています。
その結果、どうしても電源部分以前の影響を受けやすい回路になってしまい、電源の話題が持ち上がってしまうというわけです。

アナログ部分でプリント基板を使った時点でアウト

さらに追い討ちをかけるのが、量産化です。現実的な価格で量産するにはプリント基板に頼らざるを得ません。デジタル部分では信号さえ届けばそれほど影響はないのですが、アナログ部分ではプリント基板上の銅箔は薄過ぎます。厚くすればインピーダンスが下がるので音質は良くなりますが、プリント基板自体の価格が跳ね上がり、また消費者も銅箔の厚さまで気にすることはほとんどないので、かなり薄く作られています。そんな基板に「ケーブルは何が良い」などと考えるのは無駄です。ギターのエフェクターの連結による「音やせ」と呼ばれる現象も、このプリント基板の影響によるものです。

結局どうすれば良いのか

一部のオーディオ愛好家は、上記のような原因で音質が著しく劣化することは知っています。また、トランスによる電磁誘導や抵抗器、色んなコンデンサーの音、オペアンプやトランジスターの音まで覚えており、重要な部分は自作します。
まずはDIを設計、自作できるところまで学びましょう。「非反転増幅回路」を組むことができれば、20dB程度のプリアンプやヘッドホンアンプが作れるようになります。DIは高い入力インピーダンスを持ち、低い出力インピーダンスを持った1倍の非反転増幅回路です。ヘッドホンアンプは入力インピーダンスの低い1〜数倍の非反転増幅回路です。「反転増幅回路」を学べば、何チャンネルも入力可能なミキサーが作れるようになります。「差動増幅回路」や「計装アンプ」を学べば、マイクプリアンプも作れるようになります。入力インピーダンスや出力インピーダンス、電源バッファ容量も自由自在です。そして何より費用をかけた分だけ音が良くなります。オーディオインターフェースの部品も、品質の安定化や量産のために安価な部品が多く使われています。パッケージングの問題で電源まで手を出すことは容易ではありませんが、オペアンプの交換だけでも音質はかなり良くなります。「良くなる」というよりも「悪くならない」というほうが適切な表現かもしれません。アナログ回路では如何に原音を維持できるかで音質が決まります。


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