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なぜデジタル変革はファンドの仕事なのか?

くじらキャピタルは、苦戦中の中堅中小企業の経営権を預かり、その再生・再成長を支援するファンドです。そして、その再生・再成長実現の中心的手段として「デジタル」を掲げている日本で唯一のバイアウトファンドであると自負しています。

なぜ、我々くじらキャピタルは、ファンドという立ち位置で中堅中小企業のデジタル変革のお手伝いをやろうと考えたのか。

理由は大きく2つあります。


理由1)デジタル変革は経営マターであり、その主導には全権を有する株主が最も適したポジションにあること

デジタル変革は全社横断で断行すべき経営マターです。顧客接点から基幹業務、バックオフィス業務に至るまで一気通貫でデジタル化し、それを下支えするデータ基盤、インフラ、オペレーション、社内カルチャーに至るまで同じ思想で整備するためには、既存の組織の枠組みを超えた対応が必須になります。

デジタル変革とは、CDOを任命することでもなければ、バズワードを散りばめた小さなプロジェクトを乱立させて漫然とProof of Concept (PoC)を検証することでもありません。

デジタル変革とは、デジタルネイティブの新興企業・競合企業に駆逐されないための全社的な取り組みであり、生存のために事業構造そのものを改める営みです。

デジタルを使って事業構造を変えるということは、伝統的な企業のカタチ、すなわち製品を「企画する組織」「作る組織」「需要を生み出す組織」「売る組織」「修理を行う組織」「カネを計算する組織」といった「企業活動に沿った組織構造」、言い換えると「企業側の生産・販売の都合」に応じた構造から脱却し、顧客の体験に合わせた組織構造に変革していくことでもあります。

これは複数部門の利害を超えて全社最適で取り組まないと意味がないので(むしろそうでないと有害なので)、オーナー企業でもない限り、経営が指導力を発揮し断行することは非常に困難です。社内の反発は極めて大きいので、サラリーマン社長であれば、そのpolitical capital(政治的財産)を大量に消費します。また、そもそも経営にデジタルへの理解が欠けていると、その必要性さえ理解されず一歩も進みません。

この主導者が、例えばファンドであれば全く違う光景になります。

ファンド、特に経営権を握るバイアウトファンドは、経営に関する全権を有しているので、デジタルに関する正しい知見さえ有していれば、部門間の軋轢や管掌役員の個人的思惑を超え、サイロ化された組織を腕力で破壊し、顧客目線で全社横断の改革を断行することができます。

ファンド以上に、デジタル改革を断行するのに相応しい権能を有するステークホルダーはいないのです。


理由2)長期的な投資に耐え得る立場にあること

これは極めて個人的な経験に基づく見解ですが、デジタル変革請負人を自負するコンサルティング会社やSIerには致命的な弱点があると考えています。

それは、顧客からの短期的なフィーに依存している、という収益構造です。

デジタル変革は、緻密かつ変更困難なロードマップを事前に用意して工程通りに進めることに価値があるのではなく、顧客接点やプロセス変更などに関する新たな発見を大事にしながら、定期的な変更を前提に、ある程度「腰だめ」で進めることに本質的な価値があると考えています。

要は、最終的な成果物がどうなるか事前に必ずしも明確に定義できなくても、おおよそのゴールイメージを持ち、「間違っていたら途中で変えればいいから、まずは進めよう」という考えが、デジタル変革においては死活的に重要になります。

施策の効果検証や改善を高速で実施できる(=フィードバックループが極めて短い)デジタルの特長を活かすためにも、そして変化の速い環境で社会主義経済的な愚を犯さないためにも、この考えは大変重要です。

一方、これをフィーベースを請け負おうとすると、大きな問題が生じます。

1つ目は当然ながら、経済効果や成果物、そこに至るリソースや工程を事前に完全に定義できないので顧客は不安になり、コンサル側はEarnings at Completion(完成時総コスト見積もり)が計算できません。お互い損をしたくないので契約条件をめぐる交渉は難航します。

2つ目は、仮に契約条件で合意できたとしても、リスク見合いのフィーは極めて高額になるため、顧客側が大きな不満を募らせることになります。

この解決には成果報酬の導入が考えられますが、これにも問題があります。

1)コンサルがそれを基本的に望まないこと。基本的に時間を売る商売であり、利益や有償稼働率を月次で追う宿命を背負っているため、「現在の稼働を、何年後かに回収する」という投資には構造的に耐えられません。

2)顧客に起因するリスク。成果が出るまでの間に顧客内で揉め、場合によっては(例えば推進役の取締役が退任した場合)そこで契約が打ち切られるリスクがあります。また逆に大きな成果が出た場合、通常では考えられない高額の成功報酬を支払うことになるため、そこでも顧客内で大きく揉め、支払いを渋られるか、成果だけ奪われて契約更新がされないリスクがあります。

3)「成果」の定義が極めて難しいこと。本来であれば顧客における経済的利益(EBITDA、税引き前利益等)の保証をし、その分け前を得るのが一番正しい姿ですが、利益UPには他の要因も存在するため、デジタル変革のみに起因する金額を(少なくとも双方が合意する形では)算出できません。妥協案として中間指標(例えば店舗への総客数等)を「成果」とすると、今度はその中間指標の最大化に注力する動機がコンサルに生じてしまうので、例えば店舗内における購買率UPや、アフターフォローのような施策に取り組む意欲が失せます。

つまり、フィーに依存するプレーヤーは、成果「だけ」に関心のある顧客との間では利害の合致がどうしても図れない、という構造的弱点を内包しているのです。

この点、ファンドは違います。

今この瞬間に投資をし、3年後や5年後に回収する、その代わり投資額の5倍、10倍を回収するというのがファンドの本来的な資金回収サイクルであり収益構造です。投資先企業に対しデジタル変革に必要な全ての支援を無報酬で行っても、その費用を数年先のExit時に回収できればビジネスとして成立するのがファンドです。

言い換えると、「現在の稼働を、何年後かに回収する」ことを本来業務にしているため、長期的な投資に耐えうる構造を本来的に有していると共に、投資先企業の収益改善が最終的なExit価額と連動するため、成果「だけ」に関心のある企業と利害のほぼ完全な一致が図れる--。これが、デジタル変革の遂行に際してファンドが有する構造的優位性であるといえます。


まとめ

「デジタル変革はファンドの仕事である!」と我々が断言するのは、1)株主という強力な立場で全社横断の改革を実現しうる立場にあるから、そして2)ランニングのフィーに依存せずExit時に回収するという独特の収益構造により、投資先企業と利害の一致が図れるから、です。

さらに言い切ってしまうと、バイアウトファンド以上にデジタル変革を推進しやすい立場にいるプレーヤーは世の中に存在しないため、我々のようなバイアウトファンドは、国内企業のデジタル変革を推進する社会的使命を背負っているとさえ考えています。

ただし、全てのバイアウトファンドがデジタルの知見を有している訳ではないので、そこは注意が必要です。この点については、近いうちにまた書こうと思います。

#くじらキャピタル #事業再生ファンド #デジタル時代のバイアウトファンド #デジタル変革 #中堅中小企業はさらに課題山積

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