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鋸山に行って来たよ-28

これまでのお話

日当たりが良く、木の根が張り巡らされている細い尾根道が続く。
凹凸がなく滑りやすそうな大きな岩が出てきたので、気を付けながらゆっくりと登るとベンチがあった。

山と海の景色が両方楽しめる贅沢な場所。

その後も大好き尾根道だけど岩場が多くて気は抜けない。

「もうこの道、技術度1じゃないよね」
 
そう言った後に気づいた。

「あっ、そっか。関東百名山のコースは日本寺を下るのに、私たちは関東ふれあいの道に来たから技術度が違うんだね」

「確かに日本寺の道は技術度1だよ」

本やウェブサイトによって技術度の示し方が変わる。
今まで山登りをしてきた感覚として5段階評価のうち3以上になると鎖や岩場が出てくる。それを思うとこのコースはレベル2ほどかな。

木に付けられた目立つリボンはコースの証。それを目印に岩を下っていくと林道まであと200mと案内板があり、木々を抜けた先に道路が見えた。
現在14時6分、残り4.6㎞を57分間で歩くのは難しいだろう。

だって私たち走ったり、焦ったりたりするの嫌いだし。

方向感覚に疎い私は左に行こうとしたけど標識は右だと教えてくれ、たぁはマップアプリでそれが正しいことを確認してくれた。
なんて頼りになる彼らなんだろう。

道路真ん中にできた水たまりであめんぼが水上スキーを楽しんでいる。

生き物がいるってことはここ数日出来たものりじゃないよね。
もしかして道路の沼?

「林道歩くの嫌だと思ったけど砂利が多い土道で膝に負担かからないから気持ちい」

ところどころ補正された道は出てくるけどすぐに土道に戻るからたぁもさほど嫌ではなさそうだ。彼はハイキングコース上にコンクリ道が出てくると笑顔が消え、文句が止まらなくなるという習性を持っている。

道沿いの岩山は削られていてたくさんの傷がある。

「『これ古代絵図の一部です』って言われたらなんだか納得しちゃうよね」

しないか。

多分、単純な私たちしか信じないだろう。

歩みを進めると山側の土が崩れ、木々が流さ落ち、固めてあったセメントが崩壊し、その下に土嚢が積んである。そして道の反対側は柵で守られた先に地崩れの痕が見られる。

それを誰かが片してくれたから道はまた使えるようになっているんだよね。それは危険で決して簡単な作業じゃなかったと思う。ありがとうございます。

本当に2年前の台風はこの地に大きな被害をもたらしたんだ。今回のハイキングを通じて自然の猛威を改めて思い知らされた。

土嚢脇の土道に枝が刺さっていてその上に手袋がかけられてある。

誰かに、何かに喧嘩でも売っているのだろうか。

そんなものは買わないに限ると写真を撮ったら静かに通り過ぎることにしよう。

その先の広場には片付けられた木々が山積みに詰まれていた。

道は至ってシンプルで歩きやすい。
道は安全で膝に痛みが起きないことは有難い限りだけど、面白みに欠けてしまう。それに歩きやすいから「もしかしたら15時3分発の電車に間に合う?」とか思って自然に早歩きになっている自分もいる。
14時20分、目的地である保田駅まで残り4㎞と看板が教えてくれた。

もしかしてチャンスある?

ないか。

でももしかして、もしかする?

山の上から見えた緑色の湖が見えてきた。

その周辺は水が多いのが石壁にはごっそり苔が生えていて、もっさり感がたまらない。

残念ながら道はコンクリートで補正された道へと変わってしまい、たぁからすぐにブーイング。

「50m歩いただけで膝に負担を感じる」

確かにそうですね。私も体感しております。

すみません、ちゃんと確認しないでこのコース選んで。

悲しいお知らせですがこの先目的地まで残り3.5㎞はコンクリ道です。
とりあえず葉のない枝には蕾が膨らみ、新緑に包まれた木々を見て気を紛らわしてください。

たぁは香色(黄色が混じった落ち着いた茶色)のシャツにグレーのパンを履き、同色の帽子をかぶり、森の中を歩いている。

「自然環境局の人みたい」

たぁの母国であるニュージーランドではハイキングコース中の山小屋は彼らの(DOC)の管轄でそのレンジャーの雰囲気とそっくりだ。

「この辺りで鹿が怪我したらしいんだけど、どこだか知っているかい?」

スティック片手に足を止める彼を見て勝手なアフレコを入れる。

「嬉しい」

私たちのハイキング服の多くはユニクロ出身だ。
男性用の通気性が良く乾きやすいシャツは落ち着いた色合いのものしかない。そんな自然に同化した色の服を着ていると簡単に見失うので、彼のリュックはブライトオレンジである。

その後も地崩れの名残を何度も目にしながらひたすら歩き続ける。
コンクリ道嫌だって文句を言ったって、私たちはのび太君じゃないからドラえもんが来て助けてくれるわけじゃない。

先に二匹の鳥が道に止まっている。

その姿を見つけて立ち止まる。後ろから来るたぁも彼らを目にしたいはずだ。その存在を教えると案の定、むすっと顔は笑顔へと変わり一緒に立ち止まる。
多分、彼らは私たちの存在に気付いているはず。

ゆっくりゆっくり近づいて行ったら二匹同時に飛んで行った。



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