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都市におけるパブリックスペースとは?─『新建築』2018年3月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!


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評者:楠本正幸
目次
●震災から7年
●都市におけるパブリックスペースのあり方
─和と洋が入り混じる日本の文化的特徴が体感できる都市空間─東京駅丸の内駅前広場整備
─日本的な広場や境内を考える─築地本願寺境内整備(インフォメーションセンター・合同墓)
─賑わいの滲み出しを実現する検討,工夫─グランモール公園


震災から7年

あの東日本大震災からちょうど7年経った3月11日にこの原稿を書いている.
やはり,まずは震災復興プロジェクトに触れなければならないだろう.各作品についてはまだ現地を見ていないので個別の論評は控えるが,復興に大きな役割を果たされた方々による建築論談:地域のコモンズを読むと,その現場に関わらなければ分からない実態が見えてくる.予算枠や技術基準等における土木と建築とのギャップの問題はわれわれの想像以上のようだが,その中でそういった縦割り行政の溝を克服しようと懸命な努力を続けている彼らの姿を見ると,建築家の本来持つべき使命と社会における存在意義を再認識させられる.

完成写真に写る大きく削られた山の姿は痛々しさが残り,まだ本来の復興はその端緒についたばかりであるが,今後住民と共に歩む時間の経過の中で,これらの建築が機能的にもまた精神的にもコモンズとして,そして(あえて言うが)街のシンボルとしてあり続けることを強く願う.


都市におけるパブリックスペースのあり方


震災関連以外では,都市におけるパブリックスペースのあり方について考えさせられる公共広場の再整備プロジェクト3件に着目したい.

和と洋が入り混じる日本の文化的特徴が体感できる都市空間─東京駅丸の内駅前広場整備

東京駅丸の内駅前広場整備は,皇居と首都の中央駅とを結ぶ都市軸の起点となる,日本にとっても東京にとっても,間違いなく最も重要度の高い都市広場である.戦後長い間,言わば仮の姿で放置されていたこの都市空間の整備にあたって,道路の付け替えや容積移転,駅舎の再建や地下構造物と の整合等々,20年近くさまざまな議論や検討,調整を重ねてこられた数多くの関係者の皆様に,まずは最大限の敬意を表したい.

実は今回の記事を読む前にこの広場を体感する機会が何度かあったのだが,その時に感じた素朴な印象としては,「主要な部分はほぼ完成しているが,まだ部分的に整備工事が残っているようだ」というものだった.たとえば,以前武骨に立ち上がっていた換気塔が洗練されたデザインにより広場の重要な構成要素として生まれ変わっているが, その横にはまだ別の工作物が残っている等々.......

特に気になったのは,本来なら設計を始める際に最優先で検討するであろう駅舎と広場との接点部分である.駅舎に付属する庇と広場の新しいガラスシェルターの間にある白いキャノピー状の工作物は,整備工事途中の仮設物だと勝手に認識していたが,記事によるとどうもこれで完成形のようである.どのような経緯があったのかは分からないが,世界に誇れる都市広場の実現を目指して,英知を結集し,莫大な費用と時間と労力をかけて取り組んだプロジェクトであるだけに,誰が見ても違和感が残るこの状態をよしとせず,是非継続してあるべき姿に向けての検討を進めてほしい.

上述のような部分的な課題はあるが,全体としてみると非常に知的でかつ端正で寿命の長いデザインでまとめられている.舗床の花崗岩等素材の選定や芝生や樹木の配置,照明デザインについても,決して奇をてらわず,機能性とデザイン性,そして主役である駅舎を引き立てるという役割を誠実に追及した結果だと理解できる.銀杏並木の行幸通りを皇居の方向へ歩くと,堀と石垣という結界を超 えてバルトの言う「空虚」,すなわち東京の中心へ近付く領域的かつ時間的シークエンスを感じる.外国人ならずとも,伝統的な和を基盤にして柔軟に洋を取り込んできた日本の文化的特徴が体感できる都市空間が実現されている.


日本的な広場や境内を考える─築地本願寺境内整備(インフォメーションセンター・合同墓)


築地本願寺境内整備(インフォメーションセンター・合同墓)は開かれたお寺を目指して伊東忠太設計の本堂 改修と共に実施されたプロジェクトであり,単に宗教的な意味合いだけではなく,都市におけるコミュニティの核としての役割を再現させている.

さまざまな機能的与件もあったかと想像できるが,徹底的にフラットでドライな構成も,圧倒的な存在感を持つ本堂に対峙する広場のデザインとしては正しい選択なのであろう.

ただ,やはり日本におけるお寺の境内としては,もう少し緑が感じられる空間であってもよかったのではないかと単純に思ってしまう.

日本人独特の自然観からか,必ずこういった広場や境内では樹木が重要な役割を担っている.たとえ建築デザインがインドの古代仏教建築風であっても,そういった風土や場所に対する人びとの心情は変わらないはずである.

インフォメーションセンターや合同墓の新しくつくられた建築的要素については,それぞれ丁寧に密度高く設計されているが,ランドスケープデザインとして境内全体を捉える視点がもう少しあってもよかったのではないかと感じる.インフォメーションセンターが参拝者とお寺を繋げる門という見立てであり,また反対側に新たに新門を設けるなど,都市の変遷に合わせた整備という意図は十分理解できるが,それならばどの方向からもその領域感や到達感が見て取れるデザインであってほしい.特にインフォメーションセンターからの境内の見え方は,本堂よりも南西側の隣接ビル群があらわに目立っていて,せめて手前にそれなりの樹木があってほしくなる.境内全体を時代に合うように再構築していくプロジェクトの一環ということなので,もし今後駐車場や周縁部の再整備の計画があるのならば,是非その将来の姿を期待したい.


賑わいの滲み出しを実現する検討,工夫─グランモール公園

グランモール公園はみなとみらい21地区の都市計画上の主軸として,また歩行者ネットワークの核として位置付けられたパブリックスペースであり,供用開始から30年近くを経過して再整備された.

非常に画期的だと感じたのは,長手方向に民間敷地と直接接している条件を活かした断面ゾーニングによるランドスケープデザインである.中心軸を形成するパブリックゾーンの両側にセミパブリックゾーンを配し,民間側からの賑わいの滲み出しを許容するエリアを確保している.

このコンセプトの実現にあたっては,単にデザインの問題だけではなく,メンテナンスや権利調整,運営上の仕組みづくり等,ソフトの部分でのさまざまな協議,検討,工夫があったはずで,そういった目に見えない無数の労力の積み重ねが,この空間のオーセンティシティを支えているのであろう.現時点では完成間もないこともあり,沿道の民間施設との関係性はまだ若干行儀よすぎる感じであるが,今後自然発生的に豊かな賑わいのシーンが生まれてくることが予感できる.そのために重要な役割を果たすのがセミパブリックゾーンであるのだが,デザイナーとのコラボレーションによるファニチャー類がそのゾーンの全体にわたってしっかりつくり込まれている点が少し気になった.街の賑わいは,変わらないものとしての都市インフラや建築の上に,関わる人や時間軸によって常に変化し続ける,たとえば移動可能なファニチャーや仮設物等の 要素がランダムに重なることによって創出されるのである.その意味で,もう少し余白を残す,今風に言えばハッカブルな計画であってもよかったかもしれない.



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新建築社

株式会社 新建築社は、1925(大正14)年の創業・『新建築』創刊以来、月刊誌を中心とした建築関連の雑誌・専門書を発行しています。建築を様々な角度から取り上げ、新しい建築を求め誌面をつくっています。 https://shinkenchiku.online/

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