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『新建築』2月号を評する─『新建築』2018年2月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!


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評者:深尾精一
目次
●集合住宅を構法から見る
●コンクリートに対する過信


2月号は集合住宅特集である.と言っても,共同住宅は建築基準法上の用語であるが,集合住宅とは何であるのか,確たる定義はなく,今回の集合住宅特集もそれを反映した,漠とした特集となっている.集まって住む形式という程度の特集であろうか.


集合住宅を構法から見る

そもそも,わが国で集合住宅が建設されるようになってから,百年も経っていない.そのような状況で集合のあり方を論ずるのは,あまりに難しすぎる.今回は,取り上げられている作品の数も多いので,視点を構法に絞って眺めてみたい.

百年ほど前に共同住宅が日本で建設されるようになった時代は,同潤会アパートに代表されるように,鉄筋コンクリート構造が世界的にも一般化する時期とほぼ重なっている.ジードルンク等の影響を受け,当然のごとく鉄筋コンクリート造を前提として多層の共同住宅の建設が始まったのは,この国特有の状況であり,そこでは,鉄筋コンクリート最大の特徴である床スラブ,特にキャンチレバーが可能な床スラブが自然に採用されることになった.そして,バルコニーが容易につくられ,それが結果として避難上も必須のものとされるようになった.接地性の代替として,日本では自然な流れであったのだろう.

しかし,熱環境の観点から,ヒートブリッジとなるスラブキャンチのバルコニーは,ドイツ以北の地域では30年以上前から使われておらず,特殊な構法の開発が進められてきた.温暖なわが国では,さほど問題とされていないが,省エネルギーの観点というよりは,室内熱環境,特に空気温度より輻射が重視されるようになると,躯体の温度の安定化が確実に求められるはずである.外断熱構法はその点から言えば望ましいのであるが,そこで課題となるのがバルコニーの処理である.鉄筋コンクリートの耐久性の観点からも,内部の躯体とバルコニーのコンクリートが同じ扱いというのは,そもそも,コンクリートに対する過信である.その視点から各作品を見てみよう.


コンクリートに対する過信

五本木の集合住宅は,木造の2階建ての長屋であり,共同住宅ではないこともあって,他の作品と同列でバルコニー問題を捉えることはできない.しかし,大胆なキャンチレバーの工夫や2階ベランダの取り方など,熱環境を考慮しながらの構造の工夫が現在の木造デザインのひとつの方向を示している.

東京工業大学緑が丘ハウスは,外断熱を採用し,見事にバルコニーをあきらめた建築である.避難用タラップでの処理は,ここの住人が健康な若者を前提としているからであろうか.

それに対し,東京工業大学大岡山ハウスは,築40年超の職員宿舎のリノベーションである.臥梁付コンクリートブロック造のリノベーションは興味深いが,妻面だけは外断熱にすべきではなかったか.

シェアプレイス調布多摩川+グローバルハウス調布は,築40年ほどの独身寮と社宅のリノベーションで,グローバルハウスの方は,学生寮への転用としては定型化されてきた感がある.一方,独身寮からシェアハウスへというプログラムは,コンバージョンとは言えないのかもしれない.この種のストック活用は,対象となるストック量の膨大さに比べ,費用対効果を考えると,そのリノベーション手法の開発はハードルが高いことが,この例からも読み取れる.

桜美林ガーデンヒルズは,大きな断面の集成材柱による準耐火3階建てであるが,共用廊下は,梁を鉄骨にすることでキャンチレバーとし,と記載されている.居室側はバルコニーがなく,表情としても残念である.

オウカス船橋は,花ブロックが印象的なサービス付き高齢者住宅であるが,1階にさまざまな用途を組み込んだ鉄筋コンクリートラーメン構造であり,構法としてのチャレンジは見られない.

目黒駅前地区弟一種市街地再開発事業は,批判も多く聞かれる鉄筋コンクリート造超高層集合住宅であるが,2棟ともに,アウターフレームの定型化してきたさまざまな工夫が読み取れる.超高層で必然的となる住戸外シャフトによるスケルトン・インフィルの概念も,メーターボックスとトランクルームの組み合わせまできたかと,感慨深い.しかし,スラブのヒートブリッジなどは眼をつぶったままであるし,法規をクリアしているからといってふたつの階段を隣接して設ける手法や,機械式駐車場を内部に取り込む手法などが定型化していることには疑問を感じざるを得ない.

パッシブタウン第3期街区は,既存ストックのリノベーションとしては,パッシブタウンと名乗っているだけあって,バルコニーの撤去と自立型鉄骨造バルコニーの新設,ロックウールとスギ材による外断熱の採用など,快適な住戸内環境の実現を目指している.もっとも,ドイツなどで実務経験を積めば,当然のことをしたまでであろう.最上階の減築も効果的である.短期的な費用対効果にとらわれないクライアントの見識が実現させたリノベーションであろうが,今回の特集の中で最も共感できるプロジェクトであった.ただ,耐火建築物への鉄骨バルコニーの採用とあって,耐火塗料が塗られているが,避難時間との関係など,柔軟な運用ができるようになってほしいものである.

TIMBERD TERRACEは,急速に実施例が増加しているCLTによる共同住宅である.壁での用い方は,界壁部分を避けており,比較的薄いCLTを高い壁倍率をとるために合板に替えて用いている.しかし,CLTを使うために使っているという危うさを感じてしまう.それに対し,バルコニーとしての使い方は見事である.キャンチレバーが可能なスラブの構法として一般化していくに違いない.鉄筋コンクリートスラブが一般化して百年を経ての,新しい技術革新であるのかもしれない.CLTスラブが独立して支えられれば,真の意味での木造ドミノが実現するであろう.

J.GRAN THE HONOR 下鴨糺の杜は,下鴨神社としてはやむを得ず建設されたのであろう,定期借地権による分譲住宅である.この地に建てるという条件の中で,参道側の3階のバルコニー処理が大きなポイントになっている.逆梁をアウトフレーム的に用いるなど,さまざまな工夫が見られるが,鉄筋コンクリートのボイドスラブがすべてを支配しているようである.

HANEGI TERRACEはパイプシャフトの配置など,共感できるプロジェクトであるが,鉄筋コンクリートのスラブに全面的に頼った構成は,50年後にはどのように扱われるのであろうか.

一方,JURAKU ROは,唯一,鉄骨造の集合住宅であり,床はフラットデッキにコンクリートと,見事にキャンチレバーのバルコニーはない.共用廊下と5階は梁キャンチなのであろうが,詳細を読み取ることはできなかった.


以上のように,同じ月に発表されたものであっても,そのバルコニーの扱いについては,意識の差が見て取れる.それが日本の現状なのであろう.冒頭の北山恒氏による建築論壇:再び集合へは読み応えのあるものであったが,紹介されている超混在都市単位は,そのプログラムの提案がきわめて魅力的であるだけに,鉄筋コンクリートというものに対する依存と過信が気になった.





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