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『新建築』5月号を評する─『新建築』2018年5月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!


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評者:深尾精一
目次
●長崎県庁舎
●由布市ツーリストインフォメーションセンター
●周南市立徳山駅前図書館
●東京ミッドタウン日比谷
●日比谷シャンテ
●大倉本館(Okura House)
●濱江多目的センター
●hotel koe tokyo
●泊まれる公園 INN THE PARK,LIVE+RALLY PARK.
●東京クラシッククラブ クラブハウス,東京クラシッククラブ 森のクラブハウス・馬主クラブ棟
●元浅草の事務所,等々力の小さなシェアオフィス


長崎県庁舎

長崎県庁舎|日建設計・松林建築設計事務所・池田設計
撮影:新建築社写真部

長崎県庁舎は中層型の庁舎建築として,整形な部分と自由な空間の吹き抜け部を組み合わせた,ひとつの典型を想わせる建築である.

災害時対応などは,周到に計画されており,今,求められる庁舎建築のあり方を丁寧に解いているのであろう.ただ,解説文にあるような,「新庁舎自体が長崎観光の拠点となる」日のためには,ストックホルム市庁舎のように,もう少し,「建築」としての魅力がほしかった.
再び,庁舎建築のシンボル性に,眼が向けられてよいように思うのである.なお,長崎県警察本部庁舎など,関連施設について,データシートが掲載されているのに,その紹介がないのは不自然であろう.


由布市ツーリストインフォメーションセンター

由布市ツーリストインフォメーションセンター|坂茂建築設計
撮影:新建築社写真部

由布市ツーリストインフォメーションセンターは,機能の単純な建築を,集成材による二重アーチによって,単純ではない建築にしている.

決して大きな建築ではないので,誌面からは,少し大げさで煩わしいのではないかと感じさせる.4.5mのスパンをどのように決定したのかを知りたいところである.ただ,坂さんの建築は,写真と実物とで印象が異なることも多い.実際に行ってみなくては分からないのであろう.


周南市立徳山駅前図書館

周南市立徳山駅前図書館|内藤廣建築設計事務所
撮影:新建築社写真部


周南市立徳山駅前図書館は,図書館のあり方が大きく変化している時代にあって,その方向を,鉄道駅の今後のあり方と共に解こうとした計画である.

2層にわたる広く長いテラスが,そのひとつの仕掛けなのであろうが,図書館としての機能との関係が,いまひとつ読み取れなかった.日陰で使いやすい場所という解説にもかかわらず,強い日射しの写真が気になった.


東京ミッドタウン日比谷

東京ミッドタウン日比谷
マスターデザインアーキクテト:ホプキンス・アーキテクツ 
基本設計:日建設計(都市計画・デザイン監修) 
実施設計:KAJIMA DESIGN
撮影:新建築社写真部


東京ミッドタウン日比谷は,霞が関ビルディングが竣工して50年,三井不動産が力を込めて推進したプロジェクトに違いない.これに限らず,昨今の高層オフィスビルのファサードには,自由にデザインされたものが多くなっている.

しかし,設計者にとって,「いままでにないファサード」だけを求められるのは楽しい仕事なのであろうか.

ダンスをしているようなプリーツ状の曲線のドレープを,ユニタイズドのカーテンウォールをつくることによってつくり上げるというのは,それほど不合理なことではないが,内部からの写真を見る限り,ファサードが内観から独立して扱われてしまっているように思われる.また,低層部の軒高を100尺とし,旧三信ビルの外装デザインをモチーフにしたと記載されているが,1層の高さがまったく異なるため,日生劇場側からアプローチすると,かなり違和感があり,それは立面写真(94頁)にも現れている.

このプロジェクトの特徴となっている,南西部の一本柱で支えられた,えぐられた部分が,なぜこのようになっているのかの説明がされていないが,それなくては,このビルのデザインを理解することは不可能であろう.


日比谷シャンテ

日比谷シャンテ|竹中工務店 
撮影:新建築社写真部


日比谷シャンテ
は,東京ミッドタウン日比谷に隣接する,いわば一体の計画の改修プロジェクトである.既存ビルの曲線のファサードに合わせ,東京ミッドタウン日比谷の曲線の外観デザインが展開され,さらにそれに呼応するようにデザインが進められたという.異なる設計組織が街並みに関わるプロセスには,さまざまな苦労があったに違いない.

そのような中で,最近増えてきた鋳造アルミ合金によるレリーフを付加する手法は,ある程度コストをかけることのできる場合の改修手法として,今後もさまざまな試みがなされるのであろう.
ここでは, 2種類の菱形を基調とするパターンにサクラの花弁を浮き出させているのであるが,2種類の菱形は非周期的パターンをつくり出すペンローズ・タイリングの要素である.花弁が周期的に配列されているのが,ちょっと残念である.


大倉本館(Okura House)

大倉本館(Okura House)
大成建設一級建築士事務所(マスターアーキテクト) 
シルヴァン デュビソン(外装デザイン)
撮影:新建築社写真部


大倉本館は,テナントに合わせてデザインされた低層部に対し,高層部のルーバーのファサードが取り外し可能という「アタッチメントスキン」が興味深い. GINZA SIX(『新建築』2017年6月号)もそうであるが,新たな動きなのであろうか.半層の高さのユニタイズドカーテンウォールにユニット化されたルーバーが取り付いているが,スパンドレル部との取り合いが上手い.


濱江多目的センター

濱江多目的センター|青木淳建築計画事務所
撮影:新建築社写真部

濱江多目的センターは,その解説を読むと,なるほどと思わせるデザインである.が,青木さんの建築の評は苦手である.台北に行ってみなくてはなるまい.


hotel koe tokyo

hotel koe tokyo
谷尻誠・吉田愛/SUPPOSE DESIGN OFFICE
撮影:新建築社写真部


hotel koe tokyoは,ホテルとコマーシャルが複合した用途の建築であり,コンバージョンも可能となっている.これも新しい動きであろう.
客室の水回りのため,床仕上げ面を300mm上げているが,十分な階高の中で処理されている.天井高を抑えた客室もあるようであるが,さらに高階高を利用した空間づくりはなかったのであろうか.


泊まれる公園 INN THE PARK,LIVE+RALLY PARK.

泊まれる公園 INN THE PARK
Open A/馬場正尊+大橋一隆+伊藤靖治+三箇山泰
撮影:新建築社写真部

泊まれる公園 INN THE PARKは,いまや珍しくなくなった事業提案型の公共施設のリノベーションであるが,ほとんど何も変えていないのに,すっかり変わっているという,魔法のようなリノベーションである.さすが,Open Aの企画である.一級建築士試験の解答例のようなプランなのに,唸らせる内部写真というのは,広角レンズのせいもあるかもしれないが,やはりマジックなのであろう.宙に浮いた球状テントがマジックの道具として秀逸である.

一方,LIVE+RALLY PARK.は,公園の1年間の暫定利用プロジェクトで,マジックの小道具は,素人向けに売られている玩具のようなものであるが,運営の仕方こそが設計されたものなのであろう.


東京クラシッククラブ クラブハウス,東京クラシッククラブ 森のクラブハウス・馬主クラブ棟

東京クラシッククラブ クラブハウス
竹原義二/無有建築工房 プランニングワーク
撮影:新建築社写真部

東京クラシックラブ クラブハウスは,新しいタイプのゴルフだけを目的としないクラブハウスである.この設計者らしい素材の用い方で,カントリーライフにふさわしいハウスとなっているが,評者としては,本来の組積造のパターンとなっていない煉瓦タイルの用い方に違和感がある.

東京クラシッククラブ 森のクラブハウス・馬主クラブ棟
古谷デザイン建築設計事務所
撮影:新建築社写真部

一方,東京クラシックラブ 森のクラブハウス・馬主クラブ棟は,同じ敷地内に建つクラブハウスであるが,厩舎を含む建築であり,このようなビルディングタイプを経験したことのない身には,コンクリートの打ち放しが適切なのかどうか分からない.しかし,屋上緑化を含め,自然の中で素材感を活かそうという意図は十分に伝わってくる.ただ,「森の中の煉瓦」は安易であるし,こちらも,煉瓦タイルのパターンには違和感がある.


元浅草の事務所,等々力の小さなシェアオフィス

元浅草の事務所|松本悠介建築設計事務所
撮影:新建築社写真部

等々力の小さなシェアオフィス|今村水紀+篠原勲/miCo.
撮影:新建築社写真部

元浅草の事務所等々力の小さなシェアオフィスは,共に街角のリノベーションであるが,このようなプロジェクトは,ごく当たり前のことになっていくに違いない.評者らの首都大学東京のグループが15年前にストック活用の研究プロジェクトを始めた時に,ひとつのチーム(饗庭伸・西田司など)が神田の街に開かれたオフィスを構築したことを思い出す. 15年後に,この新建築の記事はどのように参照されるであろうか.



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