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オンドル式空調の無垢のベイマツ幅広フローリング

「私の失敗」は建築家自身が自分たちの失敗を赤裸々に語るコラムです。建築家たちはさまざまな失敗を重ね、そこから学び、常に自分たちを研鑽しています。そんな建築家たちの試行をご覧ください!


私の失敗を書けという実に困った宿題がきた。

ネタがないということではない。失敗なら山ほどある。われわれの作品はすべて一品生産であるから、それぞれの作品すべてについて大なり小なり失敗が付録のように付いている。ただ、施主側にとっては笑ってすまされる事項ではなく、われわれの方としても施主に気付かれぬようそっと直しているのである。言うに言えない。

しかしその中で、絶対に苦情を言わない施主がいることに先ほど気が付いた。

私である。

私相手であれば自虐ネタになりこそすれ、今後のわれわれの問題にはならない。自宅については気に入っている部分が多いが、いろいろと失敗もしている。その失敗のひとつを挙げてみようと思う。


床の縮みが止まらない

ことの始まりは小川晋一さんの作品の見学に始まる。その作品には、寺のような幅広の材が床に敷き詰められていた。たぶん30cmはあったであろう。その住宅とは思えぬスケール感に感動して、自宅でも是非試してみたいと思ったのである。しかし、小川晋一さんは綿密な計画と研究の上に実行しているのであって、うっかりそのまま表層を真似をすると痛い目に遭うということに気が付くのに時間はかからなかった。

その当時、われわれのほとんどの住宅の施工を依頼していた建設会社イソダの会長も、「どうせ使うのは設計者本人だから自業自得だ」と気が大きくなっていたのであろう。「木場によいベイマツの丸太見つけたから設えてあげるよ」と魅力的な誘いを送ってきた。板目なら30cm幅、柾目なら20cm幅が採れるというのである。悩んだ末、元鹿島建設設計部長を務めた父親の意見を取り入れ、柾目を選んだ。結果は上々?。

『新建築住宅特集』のページ(「のこぎり屋根の家」2003年7月号掲載)にも端正なカットが並んだ、ところまではよいが……。

半年もしないうちにどんどん縮んで隙間が3mm、5mmと空いてきた。

イソダの会長に相談すると「分かってたんでしょう? それでもやってと言ったじゃない……」とのつれない答え。そういえば確かに警告はされていたが、「自宅だからいいや」と普通は働く安全装置を解除した覚えがある。

その隙間に今度は当時1歳の娘が美しくコインを並べ始めた。これがうっかり踏みつけるとメチャクチャに痛い。キラキラと輝くコインの上半分は頭を出していて、それが足の骨まで食い込んでくる。さらにそれが進んでくると、板が外れ始める。それをまた会長に相談すると「そうそう。そういう時はお寺の場合は寄せて貼り直しすんだよ。やるかい?」とのこと。できるわけがない。お寺とは違い、住宅の床には家具だのキッチンだのがいろいろくっついているのである。板を剥がすためにはそのすべてを外して付け直さねばならない。それにはお金がかかる。警告を無視してやったのだから、イソダ会長のせいにもできない。35年ローンを組んだばかりのわれわれは青息吐息である。よって静観することにした。

ヤニ、ヤニ抜き、ワックス、匂い、、、

すると今度はヤニが猛烈に出始めた。

あっちもこっちもベタベタの琥珀色のヤニが宝石のようにキラキラと染み出してくる。なるほど、製品化されているフローリングがそれなりの値段がするのは理由がある。ヤニ抜きをしなければこういうことになるのかということを実感した。

イソダ会長は「だからマツは腐らないんだよ。まあ焼酎で磨くといいよ。」というが、人様が飲むために醸造した焼酎を床に撒き散らすのには抵抗がある。そこで薬用アルコールを大量購入。しつこく拭き取ると綺麗になる。

しかしそのまま放っておいたら今度はトゲが出はじめた。当たり前である。アルコールで拭いたので表面の細胞成分が抜けてしまった。確かに、私だって顔をアルコールでゴシゴシやられたらバサバサの赤剥けになってしまう。そこで今度はワックスを塗る。するとこれが臭い。ところが、臭いのはワックスではないのである。ベイマツは濡れると臭い。この臭いを匂いと書かないのは決して快適な香りではないからである。ヒノキは風呂に使われるぐらいであるから、よい香りなのであるが、ベイマツの場合は古雑巾のような臭いが立ち込める。これにワックスの匂いが混じると堪らない。

それが数日続く。

もっとも子供たちは気にならないようである。なるほど彼らはここで生まれ育ったのであるから当然である。懐かしいわが家の匂いなのである。いわば肥の匂いを懐かしいと思う農家の子供のようなもので、古雑巾の匂いが彼らの思い出の香りになってしまった。


戦いはまだまだ続く

そうこうするうちに、今度は猛烈に床が汚れはじめた。

それが汚れを通り越して真っ黒になる。柾目も板目もあったものではない。まるで焼肉屋の床である。

原因は子供たちだと判明した。子供たちは園庭で裸足を推奨する保育園に通っていた。よって、帰る時に靴は履いていても、足はサバンナに暮らす勇者と同じで、外も中もあったものではない。勇ましく逞しい足裏に砂を大量に引き連れてくる。これがヤニと結合してアンコのような物質に練りあがっている。それがみるみるうちに満遍なく広がりはじめた。もはや手の施しようがなくなり、遂に降参。黒練りの脂が床全域を制圧してしまった。

この家に引っ越して12年。ケルヒャー社のスチームクリーナーなるものを見つけた。高温の蒸気を吹き付けて脂を溶かす装置で、YouTubeの広告映像を見ると換気扇の汚れもどんどん落ちている。見るからに頼もしい。これならということで購入した。結果は取れる取れる。1㎡でちりとりにかき集めるほどに垢が取れてくる。垢というのは、その汚れが取れる様が垢すりで取れる皮脂とそっくりだからで、ポロポロとクズのように取れてくる。実に汚いところに住んでいたものである。すると、9歳の息子が手伝うという。実に嬉しい。そもそもこの汚れは彼の脂を多分に含んでいるのである。ところがすぐ飽きてしまう。結局掃除しているのは私だけ。毎週末2㎡ずつやってると、終わったところが汚れ始める。手塚由比は業者を頼んだらという。冗談ではない。ここまでやって負けてなるものか。私の戦いはまだ続くのである。


できの悪い子ほど可愛い

わが家の床下にはオンドル式空調が入っている。12年前のプロトタイプである。

当時われわれは、オンドル式の含みが分かっていなかった。空気で床を暖めたり冷やしたりすれば気持ちがよいのではないかという、実に漠然とした勘に基づいて設計した。

結論からいえば失敗である。冬は実に快適であるが、夏は足元がスースーするばかりで、頭は暑い。ちなみにその後施工した他の物件には、ちゃんと冷房用のダクトが供えてあって、冷気は床を通さず上に吹き出す工夫がされている。わが家のオンドルは失敗である。空気は暑いのに、床だけがどんどん氷のように冷たくなっていく。暑い空気の中で冷たい小川に足をつっこんでいるような物だと思えば聞こえはよいが、四六時中足を冷やしているのは健康的ではない。

ところが、ふと子供たちを見ると床に這いつくばっている。なるほど這いつくばれば実に快適である。ということで暑い夏の手塚家は、一家4人身を低くして時には犬のように床に這いつくばって避暑をするという実に不可思議な光景が生まれることになったのである。


はたしてこの床は失敗であったのか。明らかにこの床は商品として失敗である。

しかしこの聞き分けのない床は、今やわが家のキャラクターの一部となっている。できの悪い子ほど可愛いというではないか。今や張り替えるなどもってのほかである。



執筆者

てづか・たかはる

1964年東京都生まれ/1987年武蔵工業大学卒業/1990年ペンシルバニア大学大学院修了/1990~94年リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン/1994年手塚建築研究所を手塚由比と共同設立/1996~2003年武蔵工業大学専任講師/2003年~武蔵工業大学准教授/現在、東京都市大学教授

手塚貴晴+手塚由比/手塚建築研究所



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新建築社

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