『新建築』8月号を評する─『新建築』2018年8月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!(本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです)


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評者:深尾精一
目次
●HYPERMIX 超混在都市単位|北山恒+工藤徹 / architecture WORKSHOP
●富富話合|平田晃久建築設計事務所 昌瑜建築師事務所
●いわきCLT復興公営住宅|ふくしまCLT木造建築研究会|木あみ+青島啓太
●ミナガワビレッジ|神本豊秋+再生建築研究所
●パークコート青山ザ タワー|大林組
─パークコート赤坂檜町ザ タワー|日建設計 隈研吾建築都市設計事務所(デザイン監修:外装,共用部内装,外構)
●千駄ヶ谷の集合住宅[ZOOM神宮前]|谷内田章夫/エアリアル
●ニシオギソウ|伊藤博之建築設計事務所+ウエハラノイエ|伊藤博之建築設計事務所
●アイテラスガーデンズ目白|早草睦惠/セルスペース
●大阪府住宅供給公社茶山台団地・香里三井C団地 ニコイチプロジェクト|ハプティック+新宅工務店(茶山台団地タイプA・B) KINO architects(茶山台団地 タイプC・D・E) PERSIMMON HILLS architects(香里三井C団地 タイプA・B・C)
●アンソレイユ氷川台(旧早宮サンハイツ) パークティアラ北馬込(旧林マンション)|青木茂建築工房



8月号は集合住宅特集である.
ところで,日本の集合住宅への建築家の関わりは,ごく初期の前川國男などによる意欲的な設計は例外として,低調であったと言わざるを得ない.茨城県営水戸六番池団地(『新建築』1976年7月号)などに端を発する,公営住宅の設計に建築家が関与するようになって,そここそが建築家の舞台であるかのような潮流になってしまったことが,その一因であると評者は考えている.

公営住宅は,供給側の姿勢にしても,入居者の行動にしても,設計へのフィードバックが乏しい仕組みであり,健全な市場が形成されているとは言いがたい.一方で,市場の典型であるデベロッパーによるマンション供給には,参画する建築家が限られていた.

住宅と市場との関係は,冒頭の建築論壇:住居への退却,まちの再生で,遙かに広い観点から述べられていて,一読をお薦めしたい.
しかし,その内容とこの特集で紹介されている集合住宅がどのように結び付くのか,評者には難しすぎる課題である.やはり,わが国の住宅は,グローバルに見てもあまりに特殊なのであろうか.


HYPERMIX 超混在都市単位|北山恒+工藤徹 / architecture WORKSHOP

建築論壇「再び集合へ 都市は柔らかい共同体をつくれるか」北山恒,公開中!

HYPERMIXは,その運営方式の特異性によって,さまざまなフィードバックが期待される建築である.評者が関わってきた大阪ガス実験集合住宅NEXT21(『新建築』2015年2月号)などとも通じる部分があるが,NEXT21に欠けている市場との関わりに関するレポートに期待したい.




富富話合|平田晃久建築設計事務所 昌瑜建築師事務所

富富話合は,軽快な広々としたテラスが魅力的である.軽快に見せているのがテラスの床ではなく,傾斜を持つ屋根なのであるが,セットバックを巧みに使った設計の上手さなのであろう(写真が上手いのかもしれない).
台北の分譲住宅であるので,その所有形態のルールがどのようなものであるのか,想像するしかないが,室内化は許されているのであろうか.この集合住宅を台湾らしく変貌させる,入居者の今後の振る舞いを見てみたい.




いわきCLT復興公営住宅|ふくしまCLT木造建築研究会|木あみ+青島啓太

いわきCLT復興公営住宅は,国内最大規模のCLTによる3階建て集合住宅である.CLTの活用もここまできたか,と感慨を新たにした.しかし,その用い方は,半世紀前に壁式コンクリート造中層集合住宅をプレキャストコンクリート化したのと同じ図式であり,CLTという新しい素材だからこその設計とは感じられなかった.
特に,住戸内のCLT表面の現し方が疑問である.また,具体的な接合方法などについても,もう少し情報がほしかった.この記事では,伊藤明子前住宅局長へのインタビューを組んだ編集部には拍手を送りたい.




ミナガワビレッジ|神本豊秋+再生建築研究所

ミナガワビレッジは興味深いプロジェクトであるが,この作品を集合住宅として評することは,評者には荷が重すぎる.



パークコート青山ザ タワー|大林組
パークコート赤坂檜町ザ タワー|日建設計 隈研吾建築都市設計事務所(デザイン監修:外装,共用部内装,外構)

パークコート青山ザ タワーを見ると,このような集合住宅が日本にも建設されるようになったのかと,認識を新たにした.
PCa化された矩計も興味深いが,住戸平面図の記載のない集合住宅の紹介というものもあるのだと,不思議な気持ちになった.これは,パークコート赤坂檜町ザ タワーについても同様であった.



千駄ヶ谷の集合住宅[ZOOM神宮前]|谷内田章夫/エアリアル

千駄ヶ谷の集合住宅[ZOOM神宮前]は,谷内田章夫さんらしい集合住宅である.冒頭に述べた日本の集合住宅設計のスキームに対し,谷内田さんの永年にわたるマーケットの中での取り組みは高く評価したい.

評者は,4半世紀前に1.5層住宅を提唱したひとりであるが,1.5層住宅を実践されてきた積み重ねが活かされた住宅である.このプロジェクトでは,1.5層住居の展開は限定的であるが,立地条件などから導き出された解なのであろう.
バルコニーが打ち放しで,外壁面はガルバリウム鋼板のクラディングというのも,遮熱性とコストからみて,現時点での最適解と思われる.




ニシオギソウ|伊藤博之建築設計事務所+ウエハラノイエ|伊藤博之建築設計事務所

ニシオギソウは,5×5の9尺グリッドにパズルのように住戸をはめ込んだ,見たことのない木賃アパートである.
5寸角の燃え代設計というところが,今の時代を象徴しているのかもしれない.3尺幅の光庭で環境が担保できるのかどうかは,四季を経てみないと分からないであろうが,意欲的な設計であることは間違いない.柱と耐力壁の納まりや遮音性への工夫など,ディテール情報がほしい作品であった.

一方,同じ設計者によるウエハラノイエは,まったく異なるパズルの解き方である.スタディの結果として敷地分割線が決まり,その結果として高度斜線が決まってくるとは,基準法も想定外であろう.法規制のあり方を考える際の教材になりそうな建築である.




アイテラスガーデンズ目白|早草睦惠/セルスペース

アイテラスガーデンズ目白は,限られた設計期間の中で,都心部における木造のあり方にチャレンジした力作である.
集成材の燃え代設計で,準耐火1時間とすることにより,通りに面して列柱を並べているが,梁成を抑えることにより,従来の柱梁木造とはひと味違う,軽快なエレベーションとなっている.
梁の断面プロポーションを柱のそれに近付けることは,木造復権のひとつの方向に違いない.
フロンテージの大きなゆったりとした住戸プランを3階に配していることも,上手いのであろう.本特集の他の作品にも通じることであるが,敷地における空地の設け方にも,優れた小規模集合住宅の鍵がありそうである.




大阪府住宅供給公社茶山台団地・香里三井C団地 ニコイチプロジェクト
|ハプティック+新宅工務店(茶山台団地タイプA・B) 
KINO architects(茶山台団地 タイプC・D・E) PERSIMMON HILLS architects(香里三井C団地 タイプA・B・C)

大阪府住宅供給公社茶山台団地・香里三井C団地ニコイチプロジェクトは,階段室型中層集合住宅の典型的なリノベーション手法であった「二戸一化」が,若手の設計者の手によって,多彩に展開されている.誌面を眺めていても,楽しい企画である.ただ,公共集合住宅のあり余るストックに対し,これらの試みが事業性を持つかどうかについては,予断を許さない.プロジェクトのネーミングも含め,さらに大胆なトライアルが必要であろう.




アンソレイユ氷川台(旧早宮サンハイツ)
パークティアラ北馬込(旧林マンション)
|青木茂建築工房

アンソレイユ氷川台パークティアラ北馬込は,青木茂建築工房としては,手慣れたリファイニングの事例となってきている.
重要なのは,そのハードなリノベーション手法ではなく,末尾に書かれた青木茂による業務の進め方に関する記述であり,マーケットの中で既存住宅ストックをどのように捉えるべきかと,いうことである.
公共集合住宅のリノベーションが難しいのも,そこに大胆なスキームの展開が不可欠だということの理解が進んでいないためであり,それは冒頭に述べたわが国における集合住宅設計の課題とも共通するものである.





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