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純度の高い建築を/プレコンでつくった銀座ショッピングセンター

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再刷決定を記念しまして、『丹下健三』執筆のベースとなった『新建築』掲載の藤森照信氏によるインタビューシリーズ「戦後モダニズム建築の軌跡」を再録します。

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純度の高い建築を

─先生が森博士の家から始まる一連の木造の非常にさわやかなモダンデザインをやっておられる頃,丹下さんの自邸にしてもそうですが,他の人たちも似たようなデザインをやっていた.
ところが,そうした中で清家さんの場合は違っていて,何がどう違うか私はうまくいえないんですが,先生ご自身は,同時代の人たちのほとんどが木造のモダンデザインをやる中で,ご自身のデザインとの差を意識しておられましたか.

清家 特に意識はしていませんでした.

─清家先生ご自身はほかの方との差を意識されなかったということですが,たとえば丹下さんの自邸も木造ですが,清家先生の作品とは明らかに違う.その差は何でしょう.

清家 丹下邸のほうが立派な御殿ですよ.私の場合は木造の平屋ですからね.

─平屋というのは,たしかにひとつありますね.グロピウスが着目したのは,まさにその辺の違いだったのではないでしょうか.当時は木造の住宅がいっぱいあったにもかかわらず清家先生の作品に注目したわけですから.清家先生の作品は天井も床も完全に平らにするとか,余分なものを外に出さないといったように,木造を相当無理をしても純化していると思います.

清家 なるべく空間をホモジニアスにしたほうがよいものができます.目障りなものはなくしたほうがよいのです.

─おそらく,そういう点で清家先生の作品がもっとも純度が高くて,細かい部分の精度が非常に高いし,技術的に高度なディテールでおさめておられる.そこのところが,やはりミース的ですね.先生にとってはミースの仕事とグロピウスの仕事の差は何ですか.

清家 ミースもグロピウスも形の美しさがありますが,好き嫌いはありますが,その差をそれほど意識しませんでした.それはまたちょうど丹下さんと村野さんの違いでもありますね.亡くなられた方を悪くいうのは気がひけますが,村野先生のは,そこに目障りなものが多すぎますね.

─ミースのほうが高い材料を使ったり,ちょっと無理なことまでしています.それに比較してグロピウスはそこまで無理なことはしないですね.

清家 TACに行ったときにリフトスラブということがあり,なぜここまでしなければいけないのかと疑問に思いましたね.私の作品でもティルトアップを考えたものがありましたが,やはり現場打ちのほうが安いので現場打ちにしましたが,原型的にはティルトアップの構造になっているのがあります.

─それもやはりグロピウスなどから影響されたことのひとつなんでしょうね.

清家 そういう施工の段階で,施工する側の人との協力関係が非常に大事になってきています.
帝国海軍の話になりますが,かつてコンクリートの船をつくるということがあり,そのときに船体のプレキャスト版をつくるのに非常に苦労したという話がありますが,そのときは船なんて一度にそれほど多く同じものをつくるわけではありませんから,結局,現場でコンクリートの型枠をつくったと思います.そうしたことの手伝いを海軍時代にしたことがいまに役立っています.皆さん兵隊に行ったことを無駄のようにいわれることが多いのですが,私の場合は結構後々に役立っています.山形では格納庫を29棟建てましたが,29棟というと中身はなくとも面積だけはものすごい規模になります.ということで私はたいへんな実績があるというので1級建築士に無試験でなれたというおまけまでついています.私の作品には海軍でのW工法という木造のシェルのようなものの応用もあります.だから「清家の作品はワンルームの格納庫に建具のデザインだけ」と嶺岸泰夫さんにいわれたことがあります.




プレコンでつくった銀座ショッピングセンター

─銀座のショッピングセンターの仕事では,清家先生も丹下さんもやっておられますが,正確には銀座のどの辺のことでしょうか.それから,これはそもそもどういうことから始まったものですか.

清家 マッカーサーの命令です.当時たくさん出ていた闇市の露店を吸収するためのものだったわけです.岸田日出刀先生のご裁量だったのですが,計画が各大学に割り当てられました.東工大に割り当てられたのは銀座と新宿でした.京橋の川から八重洲までの間の露店をすべて集めて入れるものを三十間堀川の埋め立てたところにつくりました.丹下さんのは,もう少し中央寄りだったと思います.

─東工大が銀座と新宿で,東大は銀座とどこですか.ほかにはどんな大学が参加したんでしょうか.

清家 それほどくわしくは覚えていませんが,たしか早稲田が浅草をやったと思います.日大も参加していましたね.

─どこもだいたい同じようなコンクリートのショッピングセンターですか.

清家 不燃が条件でしたから,不燃でなくちゃいけなかったんです.

─当時の日本の経済水準からすれば,こういう施設をコンクリートでつくるというのは破格ですね.

清家 そうです.私たちの「銀一ストア」はプレキャストコンクリートでやって昭和25年に完成しています.当時は日本鋼管とトヨタの2社のJVでないとこれだけのプレコンができませんでした.すべてプレコンで設計しましたが,実は真ん中のつなぎの部分だけは現場打ちのコンクリートになりました.ところが,敷地は堀の上を瓦礫で埋めただけの土地で地盤が悪く,細長い建物は将来的に不同沈下することは明らかでした.だから建物のプランを凸凹にしておけば,少々不同沈下してもわからないだろうということで,冗談じゃなくて本当にそうしたデザインをしたんです.ところが,予測通りの不同沈下を起こしました.実は揺れやいろいろ考慮してブレースをたくさん入れていたんですが,構造を担当してくださった東工大の後藤一雄先生がクライアントである露天商のおじさんに飲まされて,はずしてもいいよというんで,ずいぶん抜いてしまいました.

─深川や銀座,新宿を対象とした復興コンペがありましたが,あれとの関係はありますか.

清家 それはショッピングセンターの前にありました.私は復興コンペでは浅草をやりました.一応入選はして,設計料だか何だかを少しだけもらって,それでおしまいだったと思います.

─ショッピングセンターの内部はどうなっていたんですか.

清家 私のところは最初からパチンコ屋が多く,全店パチンコ屋になった時期もありますが,最後のほうはサウナが多くなりましたね.元々は露店ですから「3寸」の角材でテントを張ります.京橋から八重洲までの間の露店を集めて,「3寸」はやめて,プレコンで何とかそこに店構えをつくりました「3寸」というのは,寅さんが旅に持って行く露店の建材です.

─そういう状態でも客はきたんでしょうか.

清家 もちろん客はきました.経済的には成立しました.

─新宿では結局建物としては実現できなかったんですか.

清家 つくりました.私がつくったのは伊勢丹の後ろの部分の,現在は新館になっているところです.新宿や銀座の計画には林雅子,当時はまだ山田雅子,彼女や番匠谷尭二,佐藤正己などが担当してくれました.特に番匠谷君は左利きだったので,狭い事務所でT定規を動かすスペースを確保するのに苦労したことを覚えています.

─銀一ストアに続いて丹下さんのショッピングセンターが建ちますが,この建物は基本的には打放しコンクリートですか.

清家 あまりくわしく覚えていませんが,丹下さんのはえらく立派なものでした .銀一ストアのプレハブのいかにもすぐ壊れそうなプレコンとは大違いでした.

─丹下さんの建物はいつまで建っていましたか.

清家 わりと早くになくなってしまいましたね.銀一のほうは補助金の範囲内でできるような安普請でしたが,店先3寸の露店に比べれば,それでも立派に見えました.だから丹下さんのは,たしか打放しに上野の西洋美術館的な石を張ってありましたから,それは立派でしたね.

─清家先生にとっては,はじめてのコンクリート建築でもあったわけですね.マッカーサーがまだいるという戦後すぐの早い時期ですからね.

清家 そうですね.まだまだ世の中に建つのは木造ばかりでしたね.

─丹下研究室では誰もコンクリートの経験がなくて前川事務所から人に来てもらっています.清家さんの場合は,その辺の問題はありませんでしたか.

清家 これも海軍のおかげなんですが,コンクリートのシェルターをつくっていましたから,すでに経験していました.木造もさきほどいいました格納庫で経験済みで,私の卒業論文は「空爆されても壊れない木造の仕口の研究」がテーマでした.要するに兵舎なら任せといて,ということでしょうか.

─当時としては珍しくコンクリート建築を実際につくっておられたわけですね.

清家 そうです.ラッキーなことですね.これほど細長いものはやったことはありませんでしたが,コンクリートやプレキャストということは,経験済みのことでした.
(『新建築』1998年9月号掲載)



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