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注目のエクソソーム  新見正則

僕のイグノーベル賞のテーマ

2013年に僕は「脳と免疫」の論文でイグノーベル医学賞を頂きました。環境によって、免疫力は影響されるという実臨床医なら誰もが感じている体感をマウスの心臓移植モデルで傍証したのです。

音刺激ではオペラ椿姫が一番効果的で、エンヤの曲や、津軽海峡冬景色、地下鉄の騒音、小林克也の英語の授業、単一周波数の音は無効でした。他にも、匂いや運動、そして他のマウスとの飼育環境などでも影響されることは論文にしています。

当時の本物のノーベル賞はエクソソーム

その1ヵ月後に本物のノーベル賞の発表があり、2013年のノーベル医学・生理学賞は「細胞内で生成されたタンパク質を細胞核などの目的の場所まで運ぶ仕組み(小胞輸送)の解明」に対して授与されました。免疫学が専門の僕には、当時は細胞内小胞の重要性があまり理解できていませんでした。

エクソソームって何でしょう

細胞内小胞は細胞内にある小さな細胞膜で囲まれた小器官です。また、細胞外にその小胞が送り出されたものが細胞外小胞で、日本語ではエクソソームとカタカナ表記されています。このエクソソームは、細胞間のシグナルを伝えていると考えられています。

身体を調整するのは神経とホルモン、そして免疫

体を調整しているシステムは、神経とホルモンと免疫だと僕は語ってきました。神経は電気信号で電線のイメージです。ホルモンは生理活性物質で血液や体液を通して情報を与えています。ホルモンのイメージは血液内を流れる葉書で、そこに命令文が記載されています。そして免疫は神経やホルモンに比べると遙かに複雑なシステムで体を異物(非自己)から守っています。

注目のエクソソームの役割は

この免疫、ホルモンそして神経は体の情報システムですが、そこにエクソソームが最近は重要と思われています。エクソソームは細胞が分泌する細胞膜で囲まれた小器官です。30〜150nm(ナノメーター)の大きさでドーナツのような形をしています。細胞の平均的な大きさは20μm(マイクロメーター)ですから、エクソソームは細胞のザックリと1/100以下ということになります。

エクソソームは細胞膜に囲まれていて、タンパク質、RNA、DNAなどのたくさんの情報を含んでいます。ホルモンが血液中を流れる葉書だったのに対し、エクソソームは血液内を流れる宅配便で、その段ボールの中にはいろいろなものが入っているイメージです。これから、どんどんとエクソソームの重要な役割が解明されていきます。

がんの転移とエクソソーム

最近は特にがんに興味がある僕ですが、エクソソームはなんと、がんが転移する前に、がん細胞からがん細胞由来のエクソソームが体中にばら撒かれ、そしてそのエクソソームが転移をしやすい素地を作っていることが判明しました。

アンチエイジングにエクソソーム

一方でエクソソームにはアンチエイジングの作用があるとして美容クリニックなどでも使用さています。細胞を培養した上清液にエクソソームが多量に含まれているので、上清液を含んだクリームなどが販売されています。細胞培養の上清液なので、再生医療法の制約を受けないので野放し状態になっています。そして、最近はその上清液を静脈内注射して死亡者が出たとの報告もみられます。

超危険な方法なのに、なぜ

基礎実験をしたことがあれば、細胞培養は基礎的な手技です。そして培養後の上清液は処分して、新しい培養液に変えて、また培養を続けます。培養液には細胞の増殖に必要な栄養素(ウシのアルブミンなど)や抗生物質などを含んでいます。その上清液を人に注射すれば重篤なことが起こることは簡単に推測可能です。

新しいことは、ビジネスではブルーオーシャンと言われます。医療で一攫千金を狙う時にはくれぐれも安全性には留意してください。


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