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ジストニア経験者視点で見る「カムカムエヴリバディ」ジョーの苦難

NHK 朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」
今週もなかなかキツい展開でしたね。

色恋沙汰も物申したいところはそれなりにあるものの、音楽関係者からするとジョーの不調がスルーできない事態だったので、せっかくだからと記事にまとめることにしました。

身に覚えがある内容なので、わりとリアルに書けると思います。
読んでいただけると嬉しいです。

■ジョーが抱える不調の原因

大阪で開催されたジャズのコンテストで優勝したジョーは、晴れて東京でメジャーデビュー…のはずが、移動先の東京でいつものようにトランペットが吹けなくなり、当初予定されていたライブもレコードも全て白紙に戻ってしまうという異常事態に陥ってしまいました。

不調の内容は、「吹こうとするけれど音が出ない」というもの。やる気はあるし、実際にその通り体も動かしているのに、なぜかそれが正しく機能しない、といった状態です。

実はこれ、稀に見るものではありません。
今回のような「やろうとしているのにできない」状態のことは
「ジストニア」と呼ばれ、演奏家が陥るスランプの一種として認知されています。
少し硬い表現にすると「不随意運動」。つまり、体が自らの意志とは違う動きをしてしまうということなのです。ジョーはおそらく、このジストニアに悩まされている状況なのだと思われます。

トランペットは、マウスピースに唇を当てて、息を吹きながら唇を振動させることで音が鳴ります。現在のジョーは、頬の筋肉や唇そのものが硬直することでその振動を阻害し、「息を吹き入れているのに唇が震えない」状態になったため、音を鳴らすことができなくなってしまったのでしょう。

■経験者視点で語る

実は、私もジストニアの経験があります。それもサックスとピアノの二本立て。サックスは口、ピアノは指が、思った通りに動かせなくなってしまいました。

初めてジストニアを経験したのは高校2年生の冬。音大受験を控えていたので、毎日家でサックスの練習をしていたのですが、ある日突然、音が鳴らせなくなってしまったのです。

通常、サックスは吹くための口の形を作ってマウスピースを咥え、その状態で息を吹き込むことで音が鳴ります。しかし、それをしようとすると下顎が勝手にせり上がり、マウスピースを押し潰そうとするのです。

本来振動するはずのものに圧を加えることになるため、当然音は鳴りません。
おかしい、おかしいと思ってさらに吹こうとすると、それに合わせて顎がしゃくれていくように持ち上がっていき、パーツに唇が押し付けられることによる激痛に耐えられなくなって口を離さざるを得なくなります。何度繰り返しても結果は同じで、私は突然「楽器が吹けない人」になったことに気付いたのでした。

更に、同じ受験期にピアノも様子がおかしくなりました。
Cメジャーの音階を弾く際、指の「返し」をするときに人差し指があらぬ方向にピンと伸びて硬直し、それ以上手が動かせなくなってしまうのです。

騙し騙しの技術で音大には入学したものの、大した実績を残せず演奏家の道を断念。
今でも、普通の奏者なら当たり前にできる技法がなぜかできず、「楽器ができる人」とは名乗りづらい心境が続いています。

こんな経験をした私の視点で見ると、今のジョーはかなり辛いと思います。
私はまだプロになる前に起きたのでそこまで影響はありませんでしたが、
彼は音楽で食っていく立場の人間です。その音楽を奪われてしまっては、普通の精神状態でいられないのもおかしくはないでしょう。

ジストニアは人によって症状が異なるため、明確な解決策がありません。自分で糸口を見つけて奇跡的な回復をしなければ、永遠に抱え続ける可能性も多いにあります。かといって、改善のための真面目な努力をし続けると、変な癖が増強されてむしろ状態が悪化してしまうこともあり得ます。ジョーが本当にジストニアだった場合、「今後二度と楽器が吹けない」なんてことを考えるのも、大袈裟ではありません。

■今後の予想

そんなジストニアに有効、と思われる解決策が一つあります。

それが「楽器から完全に離れる」ということ。
音楽は努力を怠ると技術や感覚が抜けていくと言われますが、
それをあえて行うことで良くも悪くも初期の状態まで戻すという方法です。
ただ、これも治る可能性があるだけで確実な策とまでは言えません。

ジョーは るいを捨てることに決めました。二人の思い出でもある楽器も、当分触らないでしょう。それはつまり、楽器のセンスやテクニックが体から抜け落ちていくということであり、場合によってはジストニアの改善が見られる、かもしれない、と考えられるのです。

長い月日を経たある日、ダメもとでやってみるか…と吹いてみたら、
あれ…吹ける…となる、そんな展開があったりはしないでしょうか。
次週予告を見ると、それより何より人間関係が大忙しな雰囲気なので、
トランペットのことがそこまで描かれるか微妙ですが…
ちょこっとだけ希望的予想を立てて、来週を楽しみにするとします。

Shino









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