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イケメン考。

【イケメン】日本語で美男子を指す俗語。広辞苑第6版では「いけ面」という表記もある。一般的に美形で、顔が格好いい男性のことである。Wikipedia「イケメン」の項より

我々が日常よく使っている流行り言葉の中に、「イケメン」がある。上記のリンクによればすでに広辞苑に登録されており、「イケメン」はもはや流行語にとどまらない普遍性を獲得した。たまゆらではない、立派な日本語としての認知を得たという事だ。

私がこの言葉を面白いと思うのは、「イケメン」という言葉自体の持つ響きの不可思議さだ。要するに変なのである。絶対、変だ。ある種の美しいものを指す形容の言葉でありながら、「イケメン」という言葉はなんとへなちょこであろうか。しかしてそのへなちょこさが、流行語に過ぎなかったはずのこの言葉を、息の長いものにしてしまったと思う。

例えば誰か見目麗しい男性を指して呼ぶ時に、字面から何からキレイな言葉、そう「美麗男子」としよう。「あの人、美麗男子だよね」などという言葉は決して流行るまい。それはひとえに美麗男子という言葉が「面白くも何ともない」からである。フツーにキレイな単語を並べただけの言葉では、新しく、流行りに乗って言ってみようという気にはならないものなのだ。その点「イケメン」は絶妙だ。あからさまに諸手を挙げて礼賛するのではなく、どこか小馬鹿にしたようなニュアンスをも内包している。懐の広い言葉なのである。そしてその含有されたるへなちょこニュアンスが、日本人特有の「照れ」を中和する働きを生むのである。つまり、言いやすいのだ。

「イケメン」とはもともとゲイ用語の隠語であったらしい。言い出しっぺ、否、公に紹介したのは雑誌「egg」編集者の矢野智子。1999年に「イケてるメンズ」の略として使用したのが最初と言われる(「イケてる」という形容自体、ちょっと足が早そうだが)。では1999年より前、ゲイ以外の世界において、「イケメン」は何と呼ばれていたのだろうか。

「男前」という言葉がある。今で言う「イケメン」に最も近いような気がするが、また少し違う意味がある。おそらく皆の共通認識的にそうだと思うが、「男前」はもっとメンタル込みの部分を指す言葉のような気がする。それは心意気とか、さっぱりした性格とか、そういうことだ。昭和的な香りのする言葉だと思う。「男前」と「イケメン」では、なんか「プロ野球」と「Jリーグ」くらい違う。「豆腐」と「プリン」くらい違う。さらに思うのは、「男前」という言葉はきっと、「イケメン」の定着とともに、意味が変容していった部分もあるのではないかと思うのだ。つまり「男のかっこ良さ」をあらわす言葉として「(ちゃらちゃらしてても)見た目カッコいい男性=イケメン」と、「芯の強くて誠実な性格のカッコいい男性=男前」という住み分けである。

というわけで「イケメン」という言葉は、いっときの男性礼賛ワードとしての流行りではなく、あるジャンルの男性を指す言葉としてのポジションに収まってしまった。でもいまだに違和感あるけどね、「イケメン」っていう言い方。

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というエントリを、2009年、つまり10年ほど前に書いた。いまだに「イケメン」という言葉が生きていて驚く。やっぱり息の長い言葉だったのだ。きっと、へなちょこなのが良かったんだろう。

やぶさかではありません!