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テレフォン人生相談

ニッポン放送のラジオ番組に「テレフォン人生相談」がある。朝11時からの20分(正確には19分間らしい)、一般の人の電話相談に日替わりでパーソナリティ(聞き手)と回答者の先生が答える。まずパーソナリティがヒアリングして、その後で回答者にバトンタッチする。その際、「今日はスタジオに○○先生がいらしていますので、ちょっと伺ってみましょう」などと言うのがフォーマットになっている。番組自体は20分ほどでも実際の相談はもっと長くて(それはそうですよね)、それを上手く編集している。

2019年2月時点でのパーソナリティは以下である。

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加藤諦三 先生 

テレフォン人生相談の代表的人物。著書・訳書多数。後でわかったのだが、僕も20代の頃にこの人の本を1冊買っていた。81歳という年齢のわりに思考がシャープで明晰である。相談者が自分の問題を素直に認めるかどうかに非常に力点を置いている人。また、自身の経験からか親子の相談というケースについては熱が入りがち。どこかで明らかにしていたが、加藤先生自身、父との相当根深い確執を経てきているらしい。ベラン・ウルフやデヴィッド・シーベリーなどの言葉を引用することがある。「敵意」「ナルシスト」「親子の役割逆転」などがよく出てくるキーワード。ちなみに「アメリカインディアンの教え」シリーズは加藤諦三の著書として有名だが、掲載されている詩はインディアンではないアメリカの教育者ドロシー・ロー・ノルトの創作したものであり、インディアンとは無関係らしい。第一声が「はじめに年齢を教えてください」なのと、最後に格言のような一言を添えるのが諦三スタイル。


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今井道子 先生 

医学博士ということで医療の領域について具体的なアドバイスをする。なお、登山家としての顔も持ち、女性初のアルプス三大北壁登攀に成功しているということで、かなりガチのクライマーである。発する声から感じられる性格は明るく、非常に懐の深い軽やかさがある印象。感情型の回答者が突っ走った場合でも、今井先生はあくまでもニュートラルなポジションから安心感を与えるトークをしてくれる。そういう意味で三石先生とは相性が良さそう。今はパーソナリティーを努めているが、以前は回答者だった。口癖は「おわかりいただけましたか?」。


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ドリアン助川 先生 

「叫ぶ詩人の会」の印象が強い。同じ男性パーソナリティ枠として正直今ひとつだったと言わなければならない勝野洋とほぼ入れ違いに近いタイミングで加入し、その知性と経験から来る(?)抜群の安定感で定着した。もう56歳。それでもメンバー全体の中では若い方に入る。番組内では「ドリアン先生」と呼ばれている。


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柴田理恵 先生 

WAHAHA本舗出身のお笑いタレントとしてすでに有名。この番組の中では自らをあくまで「若輩」と捉えている感じで、出すぎない態度や物腰を心がけているように見える。謙虚さを持ちつつ、言うときは言う。バランスがいい。ひどい目に遭っているという相談の時は一緒になって怒ってみたり、相談者の目線に近いキャラクターとして貴重な人材。


そして回答者の先生はこちら。

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大原敬子 先生 

幼児教育研究の大原先生。回答者の中でもっとも激情的でもっとも涙もろく、もっとも鋭い洞察力を見せる。ハマった時の凄みは他の追随を許さず、ある種のカリスマ的な回答者という風情の人。しかし最近は、最後まで回答者の心に寄り添えなかったり、自分語りに終始してしまうケースもある。だが、加藤諦三と大原敬子の2人はやはり当番組の最強コンビと言わなければならない。また、加藤先生がもっとも強い、絶大と言ってもいい信頼を寄せているのもこの大原先生である。「今日はこの相談の回答においてはこの人の右に出るものはいない…」「今日はあなたにとって素晴らしい出会いの日になる…」といった紹介の仕方をするあたり、加藤先生がどれほど惚れ込んでいるかが窺い知れる。自ら語るところによると祖母っ子だったらしく、話によく祖母が出てくる。相談者の語る事実の部分から本人も気づいていない心理の矛盾を看破するスタイル。なお、頻出アイテムとして「おにぎり」がある。口癖は「〜と私は思ってるんです」「キツくて申し訳ないんですけれども」「アータ」。また、回答があまり上手くいかなかった時には「心から心から願っています」と言ってまとめてしまうことがある。


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三石由紀子 先生 

三石メソード主宰で、作家で翻訳家。今井道子とのコンビが多い。そういえば加藤諦三と三石由紀子のコンビの回というのは記憶にない。相性が良くないのか、徹底してスケジュールが合わないのか、そこのところはよくわからない。「がんばれがんばれ!」が口癖。畳み掛ける毒舌キャラという感じ。時々ガチギレしたかのように怒る。長年聞いているので、激おこキャラの奥にある優しさがときおり垣間見える気がするが、これはストックホルム症候群の一種かもしれない。少し情けないタイプの男性相談者にもっとも真価を発揮する印象がある。一喝するというか圧倒するというか、ケツを叩くのである。あるいは一刀両断する。それにしても三石メソードって何だろう。


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マドモアゼル・愛 先生 

「心についてのエッセイストとしておなじみのマドモアゼル愛先生」と紹介されるが、一部では有名なのだろうか。本名は伊藤一夫。占星術の専門家らしい。加藤先生には一時期「たいへん独創的な視点をお持ちの…」と紹介されていて、これはいったい褒め言葉だろうか何だろうかと思っていた。若い頃にノイローゼで苦しみ、加藤先生の本で救われた経験があるらしい。それが今は共演者である。「それで」を「そいで」と言うのが口癖。Wikipediaを読むと「千葉県の山の中の館(ザ・ヒルズ スター&ウッド)を拠点とし年中行事や妖精パーティーなどをしていた」とあるが、妖精パーティーって何だろうか。名前と声でソフトな物腰かと思いきや、相談については意外に怒りを露わにすることが少なくない。が、もちろんその名の通り「愛」のある怒りである。しかしマドモアゼル・愛というネーミングセンスはすごい。番組内では「マドモアゼル先生」ではなく「愛先生」と呼ばれる。


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坂井眞 先生 

弁護士。煮ても焼いても食えない…失礼、個性豊かな面々の中にあって、一服の清涼剤のように常識的な印象の人。回答もいたって現実的であり、語り口はソフトかつ実直で、静かな説得力がある。マインドよりも実務派という感じ。なのだが、さすがこの名物番組のレギュラーを長く務めるだけあって、心理的な部分への踏み込みもなかなかである。


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中川潤 先生 

坂井氏と同様、弁護士である。なのだが、まったくタイプが違う。ものすごく踏み込んでくる。その失礼とも取れる踏み込みのキツさを、非常に独特の口調とリズム感が絶妙に中和する。「こんにちは、中川ですう〜」などと伸ばす語尾が特徴的。失礼ながら「えっ、変な人…?」という印象なのだが、終わってみるとちゃんと頼りになるのだからさすがである。


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大迫恵美子 先生 

最初の印象はそうでもなかったが、聞けば聞くほどファンになってしまった。やはり弁護士。声質が非常にクールで理知的だが、それだけでこの番組の回答者が務まるわけもない。クールさの陰に熱さとユーモアを秘めていて、それが時折顔を出す。「非常に難しいご相談ですね」「〜のような気がします」などが口癖。「気がします」というのは確信がないのでなく、断定することで相手に不快感を抱かせてしまうことを避ける彼女一流の話術である。不倫案件など、男女関係について語る時には一段ギアが上がる。例えば浮気された妻が夫を責めて、そのせいで関係が悪くなってしまったというケースなどにおいては、「非常に理不尽なことではありますが、関係を続けようと思ったら責めてはいけないんです」と答える。その説得力の背景には、この社会において、女性として生き抜くことの大変さを知り尽くした経験と実感の積み重ねがあるのだろう。


他にも数人いるのだが、紹介したいのはこんなところだ。

僕自身、なかなか熱心なリスナーで、アーカイブを空き時間に聞いたり、作業用BGM代わりにしたりしている。何年も前からなのでトータルで何百本聞いたかわからない。世の中には本当にいろんな悩みや苦しみがあり、中には「長男が本当にクズでもう殺すしかない」といった物騒なものから、「近所のネコちゃんの世話を引き継いだもののそろそろ無理」まで多岐にわたり、しみじみする。他にも家族を非難する構えで電話してきた相談者が逆に自分自身が元凶だったことに気づかされるケースや、子どもが憎くてしょうがないのだが本当に憎かったのは別れた夫だったというケースや、娘夫婦の問題に姑が関わろうとして「絶対にやめなさい、放っておきなさい」と一蹴されるケースなど、実にさまざま。それらの回答を相談者が素直に聞くことができればいいのだが、自分を否定するような回答が許せなくてガチャ切りするというケースも稀にだがある。

長寿番組でありファンも多く、視聴者はかなりの数になると思われる。そこに匿名とはいえ、かなり踏み込んだ自己を晒すというのはなかなか勇気がいるだろう。詳細な状況と声で、周りの人にはその人とわかってしまうこともあるはずだ。実際、相談してることがDV夫にバレると怖いというので状況をほとんど話さない人や、鼻をつまんで声を変えて話す人もいた。気持ちはわかる。だが、そんなにまでして相談したいという魔力が、この番組にはあるのだ。もちろん一聴の価値がある。それは間違いないが、精神的に弱っているときはテレフォン人生相談はオススメできない…というのも正直なところなのである。

やぶさかではありません!