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「あたし おかあさんだから」の炎上が残した焼け焦げについてかんがえた。

わたしの視界には歌詞の内容を肯定する人と批判する人の両方がいて、同時期に両者の意見を目にすることができたのは幸いでした。

肯定する人は、これまでにその歌詞に怒りを覚えるほど嫌な思いをすることがなかったか、または現在の幸せに至るまでの苦労をあってあたりまえのものと難なく受け入れることができた人なのでしょう。どちらもとても幸せなことだとおもいます(嫌味ではなく)。

一方で「女のくせに」「母親のくせに」と事あるごとに周囲から非難めいた心無い言葉を投げかけられ、砂を噛むような思いで生きている人たちがいるのも事実で、そんな社会の中で、子どもをもつことをきっかけにして、好きなことやキャリアを諦めざるを得なかった人もいるし、必死になって好きなことをつらぬいたり、キャリアを築いてきた人もいます。

わたしは母親にはなれませんでしたが、属性は後者にあたります。いままで、あきらめずに握りしめてきたものも、あきらめて手放してしまったものもあります。

そしてわたしからみれば、どちらも立派でどちらもすばらしいおかあさんたちで、なにがあっても胸を張っていてほしいと願っています。


渡辺由佳里さんによるcakesの記事、「 あなた おかあさんではないから」他人の苦悩を想像で代弁すると〝傲慢〟になる(2018年2月8日公開)には「あなた おかあさんではないから」という言葉がありました。

40代目前まで子宝に恵まれなかったのを機に妊娠出産を断念したわたしも、ことあるごとに「あなた おかあさんではない」と言われるクチで、それで絶縁に至ったケースもありますが、渡辺さんのこの言葉に異論はありません。

「寄り添ったつもり」で作られた作品が、すり減るような思いをしながら懸命にお子さんを育てている・育ててきた多くの当事者たちの感情を逆撫でしてしまったのは、当事者でないものが当事者を慮る上で必要不可欠ななにかが欠けていたからでしょう。

しかし「当事者でなければ作品は作れない?」とは思いません。

「あたし おかあさんだから」はなにが問題だったのか(2018年2月16日公開)の中で著者のサンドラ・ヘフェリンさんが危惧されているように、それでは世の中があまりにも不自由になってしまいます。「おまえは当事者でないのだから」と表現を切り捨てていくと、ペンペン草も生えない世の中になってしまいます。自分が経験しえないことは想像で補うしかないし、「とうてい当事者になりえない」ことを補うために、芸術があり、表現物があり、わたしたちに想像力が備わっているのではないでしょうか。


そして、そもそも作品とは、多くの支持者をあつめることはできても、万人に好かれるものではないし、多かれ少なかれ批判にさらされるものです。

制作過程での想像が安易であったり、想像に至る動機が不純であることが明るみにでても当然批判されます。ファンクラブなどのクローズドのコミュニティ内で発表するならともかく、不特定多数に向けて発表するなら、制作サイドは批判も覚悟の上ではなかったのでしょうか。

この騒動の俎上にはあまりのりませんが、批判が起こったからといってすぐに作品の配信を中止してしまったHuluの対応にも問題があるとわたしは考えます。

制作過程がどうあれ、大勢の人々が関わりそれなりの費用をかけて世に出した作品が配信会社の都合で中止されてしまうなんて、制作サイドは「嫌われて当然の相手」に謝罪してる暇があるならHuluに抗議したほうがよいのではないのかと気を揉んでいましたが、なぜか歌詞の制作にかかわっていないであろう歌手までが謝罪する顛末で、「この人たちはなにがしたかったんだか」と思うしかありません。


ちなみに年明けから批判がおこった年末特番内のダウンタウン浜田雅功氏によるブラックフェイスについて(配信期間はすでに終了)、批判の最中に配信を継続しているHuluの見解が知りたいとカスタマーサポートに問い合わせたときは次のような回答がとどきました。


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「配信中の作品内で不適切な表現があり、ご不快な思いをお招きしてしまいましたことを心より深くお詫び申し上げます。
誠に恐れ入りますが、コンテンツパートナー様から素材をお借りし配信している立場として、弊社の見解を申し上げることはできかねます。
しかし、Huluではすべてのお客様にお楽しみ頂けるコンテンツを提供し続けることが使命だと感じております。
実際に作品内でご不快な思いをお招きするような表現があったとのことですので、頂いたご意見は弊社コンテンツ担当に報告させて頂き、今後より良いサービスを提供できますよう努めて参ります。
またお気づきの点やご不明な点等ございましたら、ご連絡頂けると幸いでございます。
今後とも、Huluをよろしくお願い致します。
Huluカスタマーサポート」


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「当事者に寄り添ったつもり」でつくられた作品が当事者を感情を逆撫でしたのは、作家が当事者でなかったせいなのでしょうか。

炎上で知名度を上げる作家の作品が炎上するのは、批判する人のせいなのでしょうか。

作品が取り下げられてしまったのは、批判が起こったせいなのでしょうか。

あちこちに大きな焼け焦げをつくって鎮火しつつあるけれど、この騒動はあらためて身の回りにあるいろんな事象について考えるきっかけをつくってくれたと思っています。

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