新しい売り方の話

子ども用に中古の自転車を探しに行った。

家の近所に中古の自転車屋さんがあるのは前から知っていた。店に入る道の角にある公園にペイントされた中古の自転車が、一応看板のような感じで置いてあり、そこに電話番号と店の名前というか店主の名前らしきものが書いてあった。なにより近所だから何度も前を通ったことがある。そのたびに雑然と置かれた自転車が気になってはいたのだ。

店の前にはいつも中古の自転車が10台くらい雑においてある。自転車には手のひらサイズのコピー用紙の切れはしみたいなのに、€60とか読みにくい字(※大抵のイタリア人の手書きの字は読みにくい。というか字をきれいに書くという概念が無いっぽい。)で書いてあるのがぺたりと貼ってある。あと、店の窓の柵には子ども用の小さな自転車が柵にささるように展示というか、くくりつけてある。これも多分売り物だんだろうけど。すべて決してピカピカではない。ペイントにペイントを重ねた上で黒になったみたいなのや、色あせてるのとかが雑に置いてある。

余談。イタリアでは自転車は一瞬で盗まれる。どんな太いチェーンの鍵をつけても、2個鍵をつけても間違いなく盗まれる。高級自転車だろうが廉価品だろうが、アパートの中庭にある住民以外は入れないはずの駐輪スペースに停めていようと、自転車は必ず盗まれる。自転車が盗まれたく無いなら、その自転車から絶対に降りてはいけない。(こうやって例を続けるとなんか村上春樹っぽいですね。)何回か盗まれた結果、普段乗りの自転車にはお金をかけないという人は多い。

閑話休題

その店の前に置いてるある自転車の1台がちょうど探している自転車のサイズに見えた。白っぽいMTB。大人用の自転車に変わる前の最後の子どもサイズ。探してたサイズの自転車だった。娘の反応もそんなに悪くなかった。ま、娘の本音を聞けば、量販店でみかけたピカピカの新品が欲しかったとは思うけど。

ということで、もっとよく見せてもらおうと店の人を探し、店のドアを開けた。ちょうど私たちが着いた時に別の女性がほぼ三輪車サイズの小さな自転車を持って入ったところで、対応が終わるまで少し待った。夏日の外から入ったので、店の中はちょっと薄暗かった。至る所からタイヤがぶら下がって、壁にも修理中らしい自転車が所狭しとかけてあった。一言で言えば雑然としていた。

店主は多分40代後半か50代くらいのメガネに坊主頭の細身の男性だった。グレーのTシャツに紺色の短パン。短パンから出ている膝は床に膝をつく作業の人らしく黒く汚れていて、指先も油のようなもので黒く汚れていた。目の色が薄い感じの人。

自転車を置いて女性が帰って私たちの番になったので「店の前にある自転車をこの子にちょうどいいかどうか見せて欲しいのだけど」というと、「試しに乗ってみてよう」ということになった。よく見るとその雑に置かれた自転車は複数のチェーンやら鍵やらで複雑に繋がれていた。店主は一度店の中に戻ったと思ったら蓋のない箱にいっぱいに入った鍵を持って出てきた。そして複雑につながった自転車の鍵を外した。

娘は自転車に乗ろうとした。だけど、サドルの位置が高すぎた。そこで店主はまた中に戻り工具を持っきて、サドルを下げ始めた。そこに一人の女性が自転車やってきた。デカスロン(たくさんあるスポーツの量販店)の真新しい自転車に乗っていて、後ろに小さな子どもが乗っていた。

女性「ちょっと教えて欲しいんだけど」
店主「今他のことをしてるから」
女性「質問に答えて欲しいだけなんだけど」
店主「今他のことをしてるから」
女性「この店で自転車のカゴが売ってるかどうか知りたいだけなんだけど」
店主「�・・・・」
女性(ムッとしながら)「はい、か いいえ、かで答えてくれるだけでいいんだけど」
店主「・・・」
女性(キレ気味に)「ああ、もうじゃあいいわよ。なんて親切なんでしょう!」
店主「俺親切じゃないし」
女性「わかってるわよ!(怒)」

こんな感じのやりとりの後、女性は怒って帰って行ってしまった。このやりとり怖っ!店主こえぇと思いながら見守る私。頑固親父系の人らしい。知らんけど。とは言え、言われた方も気に入らないと言い返すのがイタリアだから。こういうちょっとした口論というかやりとりはよくある。思ったことがだだ漏れ国だから。

その後もサドルを上げる作業は続く。今度は店主の携帯電話が鳴り始めた。店主は携帯の呼び出しをすぐ切ると作業に戻った。「ああ、この人作業を中断されるのが死ぬほど嫌いなんだな」と伝わってきたので、何か言ったら怖そうだなと黙ってみていた。

サドルの調整が終わったので娘は自転車に乗ってみた。大きさはちょうど良さそう。だけど、初めてが苦手な娘は怖そうにしていた。
店主は娘に言った。「君に勇気があるならその辺をぐるっと乗ってみてごらん」と言われたので、恐る恐る乗る娘。ハンドルがまっすぐになっているタイプの自転車は初めてなので、ヨロヨロしていて見ていて危うい。

買うか買わないかちょっと迷った。というか買ってもいいんだけど、娘がビビってるから、持って帰っても乗るってなるまで時間かかるかなと思っていた。娘もちょっと躊躇しているのが見える。と、店主が言った。

「2−3日、持って帰って乗ってみたらいいよ。」
「?」

すぐに飲み込めずにいると、店主が続けた。「サイズはちょうどいいと思うから、2−3日乗って気に入ったら君のもの。お金を払いにきて。気に入らなかったらお店に戻してくれたらいいよ。」

まじか。この売り方。しかも名前も電話番号も聞かれず。そのまま自転車をあずけられてしまった。ということで、今ウチに新しくない新しい自転車がある。多分というか絶対買うだろう。タイヤ交換もその人に頼むだろうし、下の子の自転車もこの店に探しにいくだろう。

で、こういうのが一番いい中古品の売り方なのかもしれない。と思った。中古品だからサイズの合うもの、欲しいものが必ずお店にあるとは限らない。だから、ちょうど欲しいものがあったお客さんに商品を預けてしまうという方法。セレンティビティーってこういうの?預けられた方は合わなかったら返せばいいかと気楽だし。お店に対して悪い感情をもたない。

あと、合わないお客さん(この場合は待てなかった女性)は相手にしないというのもありなんだなと思った。チェーン店なら話は全く違うけど、嫌なら対応しないというのは全然ありだ。カゴのことを聞いた女性はおそらくカゴがあっても買わない。もっと安いカゴをさがして他の店に行くだろう。頑固親父系のラーメン屋とかそんな感じなのかな。大商いを狙うのでなければ、コアなファンがいればやっていけるんだろうし。

おわり

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コメント4件

少しでも高く売ろうとする中国では100%考えられない、そんな売り方が出来るのはスバラシイなぁ。
Meguru Ishida さん しかし、後輪がパンクしているというイタリアらしいずっこけた展開になったのでした。笑
せっかく感心したのにー(^o^;)
sanmata さん。「タイヤの交換は必要ないよ!」とはっきり言ってたのに笑。イタリアらしい適当さというオチがつくんですよ
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