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唯一無二体験・奈良の窯

「おとなの遠足」に行ってきました。
とある縁から入会させてもらった、日本酒と文化をこよなく愛するひとたちの会で、毎月幹事が変わり、「文化的体験+宴会」の例会が実施されます。

大阪の開業前の民間ミュージアムの案内だったり、かなりの価値のあるコレクションを所蔵する図書館の見学+そこのものを主に印刷する印刷会社見学もありましたし、酒蔵見学もありました。2か月前の例会は、修復中の薬師寺東塔見学と加藤朝胤(ちょういん)執事長の講話などでした。

1,2か月前に日時と内容、予算が発表され、興味を持ち、都合がつくならば参加という形。月会費など一切なし。「講師へのお礼/プログラムの参加費+宴会費用」という例会ごとの参加費のみ。
いろんな業種の方がおられ、その分野ではすごい地位や実力、経歴を持った方もおられたりしますが、その会ではみな平等に、わきあいあいとたのしみます。話の流れから、メンバーの携わっている事業やプロジェクトの紹介が例会になったり、メンバーの知り合いで講師になってくださった方がメンバーになったり。

今回は、その業種界隈ではかなりの人脈をもつMさんが幹事で、奈良の赤膚山という場所にある窯の見学、絵付け体験です。

焼き物、陶磁器は好きなのですが、格別な知識があるわけでもない。
ほかの美術・芸術品同様、見た目や手触りに惚れるか感性に訴えてくるか否か(真のスグレモノは、知識がなくても「すごい」と思わせるものだと思っています)。昨年6月は、今回とは別の幹事さんの案内で常滑の窯元と、INAXライブミュージアム内の「世界のタイル博物館」に行ってこれもたのしかったです。

今回、とても楽しみにしていたのですが、前日の金曜日に夫のロシアのお父さんが亡くなったという報がはいり、絵付け、宴会の予約もされているし、幹事さんに迷惑かけるだろうが、とキャンセルすることをよほど迷ったのですが、「楽しめるんだったら、行ったがいいよ」と夫も言うし、最初、喪に服すべきなのにたのしく土曜日を過ごすことにうしろめたさがありましたが、家にいても鬱々としているよりかは、と思って結局行くことにしましたが、結果、とても楽しく充実して、行ってほんとによかったと思いました。一方、夫もたまたま、学会で京都にやってきたロシア人の友達に夕方から合流してたのしい時間を過ごしたようです。

さて当日は13:50に近鉄「学園前」駅に集合です。
自宅を出るには、微妙に昼食にははやい時間のように思われ、せっかくだから現地でお昼ご飯食べてみよう…とネットでランチでおすすめ情報をみてある中華料理店に狙いを定め、はやめに出発。
バスで京都駅までいき、そこから近鉄電車に乗り換えようと、バスを降りる際にPiTaPaで精算しようとしたら「ピー!」と赤い光。もう一度押し付けてもおなじ。バスの運転手さんから
「使えないので、現金いれてください」
と言われて「?」が飛び交いながらも慌ててお財布をだし、10円玉が足りないので50円玉を両替する。邪魔にならないように、できるだけ脇によって作業するも、降りるひとにぶつかったりされながら必死になってるわたしを可哀想に思ってくれたのか、運転手さんが気の毒そうに
「出場記録がついてないんで、リセットしないと使えないんですよ」
と教えてくれました。
教えてもらえて、よかった。
イジワルな運転手で(京都市バスだったらあり得る)、ぶっきらぼうに「使えないから、現金いれて」だけ言われてたら、その場は切り抜けられても、なぜ使えないのか、バスを降りても混乱したまま取り残されてしまうところでした。

パニクりながら、記憶をたどってみるとそういえば最後につかった先週の日曜日。下の娘と河原町まで行き、ちょこっとだけ買物して戻ってきたとき、出場ゲートで「ピー」とか鳴ってましたが、それは切符を使って通った前にいた女の子が、じぶんの不具合かな?みたいな動作をしていたのでそうだと思ってそのまま帰ってきたのですが、それはわたしの不具合だったのかもしれません。
しかし、それから使う機会がなかったため、不具合にきづかず一週間もたってしまった。最低料金くらいの区間なのだけれど、嘘言ってると思われて、証拠がないから…と一番遠い区間の料金請求されたら?阪急電車だったので、やはり阪急の駅に行かなければならないだろうか?お昼ご飯を現地で食べるつもりで早めに出てきて時間に余裕があるから、いまから地下鉄で烏丸駅に行こうか?PiTaPaで交通費支払うつもりだったから、現金あまり持ってきていないし。などと、いろいろな考えが頭をぐーるぐる。

短時間のうちに考えを巡らせて「よけいなものを買わなければ、いま持っている現金で交通費はまかなえる。いま阪急の駅に行っても、時間とよけいな交通費がかかるだけ。京都に帰ってきてから、きょうの夜あるいは明日、阪急に行って問題解決すればよい」という結論に達し、近鉄の駅に着きましたが「念のために」と駅員さんに事情を説明したら、確認してくれて
「やはり、阪急での出構記録がありませんでした。申し訳ありませんが、阪急に行ってもらわないといけません」
と教えてくれました。それであきらめがついて、現金で切符を購入して急行に乗り、学園前へ。

Mさんからの連絡では、「改札で集合」だけだったので、改札口はひとつかと思っていたら、北と南があります。めあての中華料理店は「駅前ビル」というところにあるらしかったので、なんとなく出てきた「南改札」で駅員さに「駅ビルに行くには、どちらの改札口からでたらいいですか」と訊くと、「反対側です」と言われたので、構内をうねうねと通って北口に行ったのですが、あとから、一旦南改札を出て、すぐそこにある階段通路をとおれば構内を通っていくよりよほど早く北口側に行けることがわかり、ずいぶん不親切だなあと思いました。

最初、駅そのものの上にある駅前ビルがわからず(駅むかいにあるんだろうと思ってた)すこしうろうろして、「原点に戻ろう、駅に戻って地図を探そう」と駅に戻るとなんのことはない、駅上にめあての中華料理店がありました。上品なつくりで、お年寄りのお客さんが多かったです。家を出るときは担々麺の気分だったのですが、なんだか気分が変わって海鮮揚げそばにしました。上品で、なかなかに美味しかったです。

お昼の時間帯で入店するのにすこし待ったのもあり、食べ終わると割といい感じの時間になったので「集合は北、南どちらだろう?」と思いつつ北口前に行くと、同じようにさ迷っているメンバー数人発見。結局、南口だったことが判明。古都の空気でどこか鷹揚なMさんいわく
「数回しか来たことがなく、出口ひとつと思ってました」

バスの時間を確認して、ひとり、やってこないけれど電話でもメールでも連絡のつかないひとがいたけれど、18時から学会があるから宴会参加せずに絵付け体験だけ、とのことだったので車で直接窯元に行くのかもしれないね、という話になり「ま、大人なんだし」と置いていくことにしてぞろぞろバスに乗車。10分ほどして到着した終点「赤膚山」から徒歩数分で窯元に到着。

いやあ、奈良はいいですねえ。「京都はいまも都、奈良はいにしえの都」といわれるように、古代な雰囲気がそこここに残っているし、空が広い。
玄関前までむかえに来てくださった、御主人にあちこち移動しながら、材料のこと、ここの土のこと、陶器炻器土器の違いなどを教えてもらい、展示室にて販売されている作品を見て(一連の案内中、自分の絵付けのアイデアを膨らませといてくださいね!と言われ)絵付けをして、買いたいものをご購入、という流れでした。

まずは屋内の成型の仕事場を見せてもらいます。土を配合して整えても、作陶する状態になるまでに数年かかるとのことで、何年後かの為の土を作って寝かせておくのだそう。さて土が準備できても、一気に作ってしまうと形が崩れてしまうので、「きょうはここまでにしよう」と見極めて、数日にわけて焼く前の形を作るのだとか。

それから、外に出て屋外に置いてあるたくさんの袋から土を出して説明。
「釉薬を使う一番の理由は、水漏れを起こさないようにするためです。備前焼などは、材料であるその土に、焼いたら水漏れをしない釉的な物質が出るため、釉を塗る必要がないんです。ここの土は、ほかの土と配合する必要もあるし、そのままだと水漏れを起こすので釉薬を塗る必要があります」

その後、ここ2年ほど使っていないという登り窯へ案内してもらい、その背後にある崖の土をすこし掘り返して、「赤膚」という名の由来の赤土をみせてもらいました。

その後、その向こう側にある、窯の燃料の松の丸太、そして薪の置き場所に案内されました。

「松はすぐに火がつきます。それには、高いカロリーが必要なので、ジンのある、生きた松を切ってくる必要があります。このようにぶつ切りにして、4年ほど置いて、それから、薪にしてさらに2年ほど置いて、ようやく燃料として使えるようになります」

「うちで修行したい、と言ってきたひとは、そうですねえ、半年くらい、薪を切ってもらいます。これにも熟練が必要ですし、まずは材料を知ることが必要だからです」

「釉薬には、天然の藁灰を使っています。費用がかかるので、多くのところは人口藁灰を使うけれど、うちは天然の藁灰を使います。ただ、畳を燃やしても『天然藁灰』と呼べるので、自分で藁灰を調達します。知己のある、酒米を栽培している農家さんに協力してもらって、そこの藁をもらい、焼いてこのようにストックしています」

さて出だしのとことに戻ってきて、屋外にある袋にはいった土を見せてもらいました。
「薬師寺の東塔が、修復しましたよね。その基壇の土、このたびの修復で鉄骨に変更になりました。不要になった土は1300年の歴史のあるものなのですが、お上からすると『産業廃棄物として処理すべし』。なので、縁のある30ほどの、全国にある窯に分けていただきました。これがそれです。いろんな種類の土、なかには瓦もあったりして、とても面白いです」
「近代化」でいろいろな歴史、味わいのあるものが捨てられていくのは残念なことですが、こうして生かされていってもいるのですね。

もうどこをどう移動したのかわからないほど、あちこちの平屋建ての建物を移動しましたが、そのうちのひとつの入り口でさいきん孵化したという綺麗な蛾を

別の建物入り口ではモリアオガエルのオタマジャクシを見せてもらいました。

そのあと、展示即売を行っている「展示室」で作品を見せてもらい、お茶をいただきながら説明を受ける。茶碗はもちろん、そこの窯のものです。受ける茶托は、普通の仕事は受けない、「いい仕事しかしない」、おもに寺社仏閣の仕事を請け負っている漆売り職人の手によるものなのだとか。

そのあと、また別の建物に移動して絵付け。
絵付け完了したころに、集合場所にやってこなかったひとりとようやく連絡がつき、「きょうの予定を忘れていた」とのこと。天然なひととは思っていましたが、さすがです。ほか、「二日酔いで~」と当日ドタキャンしたメンバーもおり、迷惑をかけては、とキャンセルの可能性を考えて悩んでたわたしはなんだったんだ、て話ですが、まあ、参加してほんとによかった、と思ったのでよしとしよう。

また展示室に戻ってきて、買いたいひとは作品を購入。わたしは可愛い平皿を購入。
そのあと、隣接した、特別な客人用の間にも案内してもらい、その贅沢なしつらえ、工夫に満ちたつくり、縁があっての方々の書や絵や、美術品が嫌味なく、美しく飾られるその間に感激して(すみません、そこの写真は非公開)また展示室に戻り、話を続けていると、さきほどの薬師寺東塔基壇の土を使ったぐい飲みの話になり、別室においてあるそれを持ってきてもらいました。

なにせ、酒好きな上に1300年の歴史を持つ薬師寺東塔の基壇土、ひとつひとつが違う表情で唯一無二。みな餓鬼のように群がって、むさぼるように選って買いましたとも。

幹事のMさんはさすが悠久の奈良の方で、今日の集合場所にしてもそうしてのんびりしたものでしたが、きょうの流れについても、たぶん、わたしを含め多くの人が、「絵付けをして、それから焼きあがるまでにこの展示室で話をしている」と思っていたと思います。が、「じゃ、そろそろ宴会場に移動しましょうか」ということになり、
「え、後日Mさんとこにまとめて送付されるわけ?」
「Mさんの職場で、展示してね~」
「販売しときます」
とか冗談で言い合ってるけれど、結局絵付けしたものがどのような方法で手に入るのかわからぬまま、宴席へ。
案内してくださった方も参加で、さらにいろいろ、お話がきけました。

ぐい飲みを買ったひとは、さっそく「マイぐい飲み」で乾杯です。

フレンチのお店で、いろいろ美味しかったのですが、食べるのに夢中になって、多くの写真を撮り忘れ。

最初に出てきた、洋風茶碗蒸し。

次に出てきたカツオ。

いくつか飛ばして、最後のお皿、ズッキーニなどをはさんだポーク。

超お腹いっぱいになって退散。

さすが奈良、どこでも鹿と大仏がいます。
近鉄学園駅まで戻り、一旦解散。二次会に流れた人々もいましたが、わたしはPiTaPaのことも気になり、京都へまっしぐら。
京都駅からバスに乗り、家の前のバス停をやりすごして阪急の駅にいき、駅員さんに事情説明。
「6月1日に河原町で乗られた記録があります。河原町で乗られて、ここで降りられたのですね」
「はい」
「では、150円ください」
「?」
「河原町での入構をキャンセルしましたので、その時の運賃をください」
「あ、なるほど、そういうことですか」
と運賃を支払うと
「では、これで普通に使っていただけます」
とにっこり返されて一安心、帰宅してきょうの冒険について娘に語ります。

今日の得物です。平皿と、薬師寺の土を使ったぐい飲みふたつ。

この会に参加できるようになり、ほんとうによかったなあと思います。いろいろ意欲的にチャレンジして「俺わたしできるしやれるしイケてるし」って集まりは苦手ですが、あれこれを経験してきた挙句のこなれた方々、たのしみ方を知っていて、節度があり、相手に敬意と配慮をもって接することのできる、愉快なひとびとでそして、お金では得ることのできない貴重なコネクションを使っての例会はほんとうに得難く、有り難いものです。

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