【あなたとずっと・・・】
アクアリウムのイルカの水中観覧ホール。
アクリルガラスの向こうは陽が射し込んで床に反射して波紋がユラユラしている。
イルカ達はのんびりとガラスに張りついた子供達を覗きこんだり、一回転して遊んだり悠々としている。
私達は水槽を円形に取り囲んだ柔らかいカーペットの段々のかなり後ろのほうに直に座っていた。
水中が明るいせいか、内側の空間はとても静かで暗い。
そのゆったりした空間が心地いいのだろう、同じように座ってくつろいでる人が他にもいる。
隣に座る彼の横顔。
黒い髪、黒い瞳。茶色のコートに青のマフラー。
本当に人間になっても端正な顔立ちは変わらない。
今でもよく見とれてしまう。
だけどあのときのような少年らしい感じは消えて、
少し淋しく思う、彼には言わないけれど。
「・・・何?」
「うん。キレイな顔だなって」
彼がふふっと笑う。
・・・懐かしい、この言葉。
彼がまだ、画面の向こうにいたときによく伝えていた、たわいもない選択肢。
彼の一挙一動にドキドキしたり、切なくなったりした日々。
アクリルガラスの向こうでは、光の波紋を受けたイルカが通りすぎていく。
姿が見えて、反応もあるのにそこにいる限り絶対に触れられない。
「・・・セイ、昔あんな感じだったよ」
「え?」
彼は水槽に目をやって、私の思ってることがなんとなくわかったんだろう。
黙ったまま私の肩を自分に引き寄せた。
あなたとずっと・・・
そんな日は来ないと泣いていた自分に伝えたい。
ーネガイツヅケテイレバカナウカモシレナイヨ?
ーfin
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