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駅の構内でアールと叫ぶ

私は決まった場所にしか行かない日常を送っている。

ここのスーパーにはよく行くから電子マネーも作るしポイントも付くし、そうなると他のスーパーは行き慣れていなければ電子マネーもなくポイントも付かないので行かない。

のような事の連続。

ポイントはさて置き、私は未開の地に足を踏み入れて気力体力が削られることを無意識に避けているんだ。

疲れている時は特に。



先週末に取材に出かけた時、大きな駅構内にあるカフェチェーン店が目に留まった。

現場最寄駅に着いたらどこかで飲み物を調達しようとは思っていたが、こんな有名チェーン店に私は入ったことがないので遠慮しようと反射的に脳が判断した。

しかしその日は真夏日、周りも皆ダラダラ歩いているくらいだ。

私も非常に喉が渇いている。

とりあえず、店に入ってメニュー表だけでも見てみる。

当然ながら店員さんが声を掛けてくる。

素早く読み込んだメニューに、自分が頼めそうな物が常識的な価格で提示されていることを確認したので注文をしようとする。

「あの、あの、外に人がたくさん並んでる?んですけど」

私は店の外に沢山の人が立って何かを待っているようだったのが非常に気掛かりだった。

「私、横入りとかしてないですよね?」

店のシステムを理解していないと、こんな所から確認事項が始まり、スムーズに注文を始められない。

店の外にいる人たちは、佇んではいるものの、「列」をなしている感じはなく、店に入る私を横入りとばかりに睨むわけでもないからこそ、余計に私を混乱させていた。

ここはまだ駅構内、というか改札の近くなので、どうやら彼らはただの待ち合わせの人たちのようだが、そんなの壁沿いでも良くないか?なぜカフェチェーン店前にこんなゾロゾロと。

そうか、みんな「カフェ前で待ち合わせ」をしているのか。

後に店を出て周りを見ると、改札を出てすぐの位置から普通程度の視力で見つけられる店舗のうち、有名チェーン店はここだけだ。

「最近海外から日本初出店したばかりのナンチャラカンチャラってお店の前で待ち合わせ」では店舗外観のイメージも湧かないし、字面も見慣れていない。

だからみんな安パイなここの店の外に集まってしまうのか。

私はてっきり10人以上のテイクアウト客が、店の外で出来上がり待ちをしているのかと本気で勘違いをしていた。

超有名チェーン店が効率の悪い仕事で客を10人以上も待たせることはないよな、よく考えれば。


私はメニュー表を指差し店員さんに伝える。

「ええと、ティーのアールください」

店員さんは、当然「え、何でしょか?」という顔をしている。

しかしメニュー表には、ティー(お茶)と書いてあり、サイズはLとRがある。

値段を見る限りRの方が安く、私の胃はがぶ飲みも許容できないほど小さいので、ティーのアールを注文した。

店員さんは、ティーのレギュラーですね、と答えた。

ああ、アールってレギュラーと呼ぶのか。

ふとメニュー表のティーの下を見たら、「アイスティー」と書いてある。

おやおや、私が注文したティーと言うのはホットティーなのか。

今日は真夏日、いくら変わり者の私でも今はアイスティーが飲みたい。

「すいません、えっと、アイスティーのレギュラーください」

店員さんは、ティーのレギュラーとアイスティーのレギュラー1つずつの注文でよろしいですか、と言ってきた。

いや違うんです、一人でホットティーとアイスティーの飲み比べはしません、いくら私が変わり者と言ったって。

私が先程店の外を気にして何度も振り返ったせいなのか、私は外に連れを待たせている人、のように思わせてしまったようだ。

店員さんもチラリと外を覗いながら私と話しているのでほぼ確定だ。

私は真夏日にホットティーとアイスティーの飲み比べをする変人ではなく、一人で2人分買いに来た勇敢な代表客だと思われている。そこはなんだか安心した。

・・・2人でこの街に訪れていて、1人はホットティー、もう1人はアイスティー?

季節が何とも言えない日ではなく、酷暑に迫る真夏日に?

慣れない店での混乱は極みきったので、ここからは冷静に、もう一度最初から、

「すみません、私は1人で来ていて、注文は一つで、ホットをキャンセルして、アイスのみ、アイスティーのレギュラー1つでお願いします」

お願いします、それはもはや「懇願」に近かった。

もう勘弁してください、助けてください、私はただ一杯のアイスティーをテイクアウトしたいだけなんです。

私の意志はなんとか伝わり、注文に手間取ってしまったことを店員さんが謝ってくれたが、もちろん店員さんに非はない。

慣れない場所に戸惑い、さらに暑さで私の視野が狭まっていたのと、マスク越しでコミュニケーションに多少の弊害が生じたのが原因だ。

私は今も年中マスク生活を続けているが、複雑な注文の際には耳ヒモ部分を持って少し浮かせて言葉や表情を分かりやすくしないと、このように慣れない場所で盛大にズッコケることになるんだなと少し反省した。

私はマスクをつけて配慮しているんだと誇りを持っていても、これだけ店員さんに時間を取らせるならマイナスだ。

不慣れな場所があるのは仕方がない、それならせめてコミュニケーションが取りやすい方法を一つ生み出すべきだったが、暑さで頭が回らなかった。

これはもう、仕方がない。



アイスティーのレギュラーは今の時代にお手頃価格だと思ったが、私の想定より大容量で、家に持ち帰って冷蔵庫に入れつつ、深夜にようやく飲み切るほどだった。

満足度が高かったのでまた利用させていただきます。

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