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ピアジェの5つの式 (1)

 ピアジェが「知能の心理学」に示した5つの式は、それぞれ何を意味するのだろうか。ピアジェは式とその名称を書き残したが、それぞれの条件が何の役に立つのかについては述べていない。概念を群として操作するにあたって、これらの式をどう使うかについての、僕の考えを以下に記す。気軽に試してもらいたい。

 

合成性:全体をきちんときれいに二つにわける

  概念化は、そうであるものと、そうでないものに、全体をきちんと二分する必要がある。あまりも重複もない2つに分割する。ていねいにくり返し考えることで、合成性を確認する。例外や限界事例が出てきたら、いったん議論を止めて、概念の整理を行う。これがあらゆる概念化、概念操作の出発点である。漏れや重複があると正しい議論や解析は生まれない。

 全体は、ある概念と、そうでないもので、すっぱりと二分されているか。重複はないか。ピアジェはそれを確かめるために、 x * x1 =0 (x であると同時に x1 であるものは存在しない)の式も持ち出す。

 デカルトは『方法序説』で「動物たちの理性が人間よりも少ないということだけではなく,動物たちには理性が無いことを示している」と述べた。しかし人間も動物であり、動物と人間の二分は排中律を構成しないため、デカルトの議論は混乱と歪みを生みだしている。

 

可逆性: 逆算した結果が正しくなければならない

 (I)の確かめ算。常に逆操作が正しいと保証されていれば、三段論法の詭弁を排除できる。段階的に複雑化・簡素化が行えるので、どのようなむずかしい概念であっても、きちんと定義して段階的に簡素化もできれば、複雑化もできる。

 定義とは、ある概念を論理式(方程式)化することだ。はじめから精密に定義しようとせず、とりあえず暫定的に定義する。それから分析や比較の結果を反映させて、精度を上げ、あるいは連立させて、必要十分な定義をするとよい。
 
 例えば、「動物」の定義を、植物に対する一群で、自由に移動することができて有機物を栄養として摂取する生物とする。それから、動物と植物で全体を成すか、動物にも植物にも属さない生物はいるかなどを考えてみる。都度、丁寧に考え、概念の定義の精度を高めていく。

 

 似ているが微妙に意味の異なる概念を比較するとき、別の上位概念を基準にして差を示すと、比較が可能になる。異なる意味内容を持つ二つの異なる概念(同じ名前で定義が違う場合も)を比較して、不透明なところを確かめることができる。

 

 2013年の国際言語学者会議で、文法といいつつシンタックス(語順)だけ論ずる学者がいた。時制や単複や性や格変化は一切論じないのだ。どうしてそれら普通の文法のことを話さないのだろうかと疑問がつのった。そこで議論を成り立たせるために、僕は「私は文法を『意味の変調や接続を指示する、主として単音節の音表象性の高い付加または変化であり、獲得すると無意識に意味の変調・復調ができる』と定義していますが、この定義にはシンタックスが含まれません。あなたはシンタックスを文法といいますが、シンタックスと伝統的な文法の両方を含む定義をお持ちですか?」と質問した。講師が「もう一度言ってくれ」というので、同じ質問を繰り返した。しかし、彼女は「私は理論的なことは苦手なの」と言った。それから僕は、この学会では手を上げても当ててもらえなくなった。危険人物に指定されたのだろうか。

 今思い出したが、この質問をしたのは、ピアジェの家の庭に行った直後だった。

 


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