失敗を楽しむから失敗しなくなる

おねしょを直す方法として、面白いアプローチを聞いたことがある。寝る前に水分たっぷりとって、「ジャンジャンおねしょしよう!」と伝えることだという。すると、病気が原因などは違うだろうが、程なくしておねしょしなくなるという。この話は人間心理を考える上で興味深い。

私達は失敗したとき、「失敗しちゃいけない」と考えがち。失敗を禁止事項として伝えれば失敗せずに済む、と考えがち。だから子どもや部下に「失敗しちゃダメだろう!」と叱り飛ばしたりする。しかしそうすればそうするほど頭が真っ白になり、できていたこともできなくなるパニックに陥る。

「失敗してはいけない」と言われた場合、私達はどうも失敗を観察することができなくなり、現実から目をそらすことになりやすいらしい。失敗よりも、自分に失敗を禁じた人の「目」が怖くなり、いかにしてその恐怖の目から逃れるかということに必死になる。でもジッと自分を見てる。で、パニックになる。

失敗とはどんなものか、一体何が起きたのか、きっかけは何なのか、ということを冷静に観察することができず、ただ「失敗しちゃいけない」という思いが空回りして、失敗を観察できなくなる。このために原因を突き止められず、自分の行動を制御することすらできず、失敗を繰り返すことになる。

水分たっぷりとってバンバンおねしょしよう!という呼びかけの興味深いのは、失敗して構わないというメッセージと、知らず知らずのうちにおねしょという現象を「観察」できるようになること。水分を多くとることで尿意が増幅され、膀胱にたまっていく体内感覚を観察しやすくなる。

おねしょしよう!と言われているから遠慮なくおねしょできる。すると、おねしょしそうな直前の体内感覚も観察でき、「あ、この感覚のとき、おねしょという現象が起きるのだな」というのもわかるようになる。冷静に体内感覚を観察できるようになるから「じゃあ、この感覚を覚えた時にトイレに行こう」というふうに、工夫が可能になる。失敗を冷静に観察できる余裕、ゆとりを確保できるから、失敗を回避するための工夫がいろいろ可能になってくる。
しかし頭ごなしに「失敗するな!」だけ言われると、「失敗したらまた叱られる」という恐怖だけを見つめて、体内感覚を観察するゆとりを失う。

だから私は、失敗を繰り返してほしくないなら、だからこそ失敗を楽しむくらいの気構えでいた方がよいと思う。危険な失敗は繰り返せないが、危険性が低いなら、あえて失敗を楽しみ、楽しむことで観察眼を磨き、工夫(遊び)する心のゆとりを取り戻した方がよいと思う。

失敗は避けようとすれば避けられる、というのは、大きな思い間違いのように思う。避けようとすればするほど失敗を観察できなくなり、その結果、失敗を繰り返すことになるように思う。キッチリした上司や親の元だと、部下や子どもがオタオタする不器用ぶりをしばしば発揮するのは、これが原因かも。

むしろ進んで失敗しに行く。そのくらいの気構えの方が失敗をよく観察し、メカニズムの理解も深まり、工夫する余地がたくさん生まれる。失敗を回避するのではなく、危険がないなら進んで失敗しに行く。そのくらいの方が、むしろ失敗は減るのではないか。

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