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シンボルは馬と温泉!340年つづく温泉地の今(信州つなぐラボ第3期 テーマ紹介「文化」)

緑が多く情緒溢れる望月地区(旧望月町、現佐久市)。その中でも町の南西部に位置する春日温泉は特に文化資源が豊富なエリアです。

泉質がよく遠方からもお客さんが訪れる温泉に、気軽に馬と触れ合える馬事公苑。春日温泉には望月地区が誇る文化が詰まっています。

第3期信州つなぐラボでは、「文化」を1つのテーマとして取り扱い、都市と地方が交じることによる、これからの文化の受け継ぎ方を考えます。

今回は、春日温泉エリア開発の経緯と現状抱える課題について、旧望月町役場に勤め、合併後の2005年から佐久市の職員となり、振興に携わってきた比田井正弘さんにお話を伺いました。

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話し手:元佐久市経済部長・比田井正弘さん 聞き手:藤原 正賢<信州つなぐラボ事務局>)

340年の歴史を持つ春日温泉

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約340年前に開湯し、古くより湯治場として親しまれてきた由緒ある春日温泉。

ある日、村の猟師が枕元に現れた菩薩のお告げに従って、山中を進んだところ、柳の下に一匹の鹿がいたのだそう。鹿の足元から湧き出していた湯が春日温泉の由来だと伝えられています。

比田井さん「春日温泉エリアは、鹿と猟師にまつわる伝説から「御鹿(みか)の里」と呼ばれていました。このエリアでは、他にも五穀豊穣を願って舞う『式三番叟』(しきさんばそう)や、市の無形民俗文化財に指定されている『道祖神祭り』など江戸から続く文化を大切にしているんです」

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源泉かけ流しの「玉肌の湯」が人気のもちづき荘

現在、春日温泉は5つの温泉宿泊施設を有し、計400名が宿泊できます。

比田井さん「町の振興計画を策定するにあたり、町民にアンケートを実施しました。町の施設やエリアで注力すべき箇所を尋ねた所、多く名前があがったのが、ここ春日温泉です。泉質が良く、ロケーションも素晴らしい春日温泉は、町民にとって誇れる資源ですからね」

望月を象徴する馬事公苑

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温泉と共に、望月地区で大切にされてきたのが馬との関わりです。

平安時代より望月地区は、朝廷へ差し出す名馬の産地として知られてきました。毎年11月3日に開催される「駒の里草競馬大会」は、県内外から50頭近くの競走馬が集まる、望月の秋の風物詩。戦後、農耕馬を飼っていた地元の農家が閑散期の娯楽として楽しむようになったのが始まりです。

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比田井さん「かつては農業に必要だった馬ですが、近代化に伴い農家との関わりは希薄になってしまいました。名馬の産地だった歴史的背景も踏まえ、草競馬大会が始まりました。また、馬と関われるシンボル的な施設としてこの望月馬事公苑(以下、馬事公苑)が開設されました」

馬事公苑は平成4年に開設し、平成15年に旧望月町の合併に伴い民営化。本格的な乗馬から気軽な引馬まで体験できる施設として運営をしています。現在は18頭の馬が飼育されています。

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馬事公苑に併設されているクラブハウスは、週末はチーズバル「BOSQUESO UMA BAR(ボスケソ・ウマバル)」としてオープン。近くの人気チーズ工房「BOSQUESO(ボスケソ)」が運営しています。

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「もっと気軽に立ち寄れたら」と馬事公苑開設の翌年平成5年にオープンしたジリの木広場。広い敷地に遊具が並び、市内の親子連れや小学校の遠足で賑わいます。

農村交流の拠点としての役割

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望月地区で大切にされてきた「温泉」と「馬」。ハード面に力を入れてきた春日温泉エリアをより盛り上げるため、様々な催しが行われてきました。

その一つが農村体験ツアーです。

1993年、農産物の輸入自由化に伴い、日本全国で中山間地域の農地活用の必要性が叫ばれました。そこで旧望月町では、春日温泉エリアを拠点に農業を体験できるプログラムを提案することに。

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素材提供:佐久市

比田井さん「都市住民の農村体験ツアーの受け入れを積極的に行いました。地元住民と共に味噌づくりを行い、交流を深めました。味噌づくりは、材料となる大豆の種まきから始まり、収穫、仕込みと2年に渡り、計4回足を運んでもらいました」

ツアーの最終回では、完成した味噌と近くの山から採ってきたきのこを使ってほうとうをつくりました。

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ツアーの実行にあたり、都市交流の拠点としてつくられたのが「交流促進センター ゆざわ荘(以下、ゆざわ荘)」です。農作業で汗を流したら、春日温泉で体を休めて一日の疲れを癒やしてもらう。宿泊を伴うツアーを充実させることで、地元にお金を落としてもらえたらという思いもありました。

比田井さん「自分のまいた種がどれだけ生長したか気になって、ツアー外に遊びに来てくださった人もいらっしゃいました。単発イベントで終わらず何度も足を運んでもらったからこそ、この地域のよさをより分かってもらえたのでしょう。また、ツアーをきっかけに参加者から3家族が望月に移住してくださいました」

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ツアーの実行で新たな交流が生まれた春日温泉。一方で比田井さんは今後の行方を危惧しています。

比田井さん「設備投資を行い施設が整い、ツアーの実施により春日温泉の魅力は増しました。しかし、交流センターとして生まれたゆざわ荘も、現在は温泉旅館としての機能しかなく、利用者も減少傾向にあります。今ある施設と資源を活かせるような、イベントなどのソフト事業を増やしていきたいですね」

おわりに

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「まだまだここは良くなっていくよ!」
案内の中で、どんどん春日温泉の魅力を伝えてくださった比田井さん。
長年町に住み、アクションを起こし続けた方だからこそ、文化資源を大切にしようと思う気持ちが溢れていました。

信州つなぐラボでは、比田井さんと一緒に「地域内外の人がまじり、拠点を活用した地域の文化の伝え方・受け継ぎ方」について考え、新たな取組みをつくります。

「都市と地方」の二項対立ではない、都市と望月がつながることで生まれる、これからの「文化」を一緒につくりませんか?

信州つなぐラボのプログラムに関する詳細はHPをご覧ください。

執筆:ナカノヒトミ
撮影:小林直博

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