カレンダーで「何 其」?

経理課の壁には、大きな月めくりのカレンダーが貼ってあって、平日のそれぞれのマスには、太い油性マジックで「村 金」とか「大 植」とかみたいに、漢字が左右にひとつずつ書き込まれている。コレはその日の職場の“当番”を示しているもので、例えば「村 金」って書いてある日だったら、“村山さんと金田さんが当番”ってコトだ。苗字の1文字目を抜き出して書いている。

ちなみに左側に書かれている人は“お茶当番”で、その日は業務の合間に給湯室のコーヒーサーバーを準備したり、ポットにお湯を沸かしておいたりしなければならない。そして右側は“電話当番”で、お昼休みの時間にオフィスに残って、電話番をしなければならない。それで皆が戻ってきてから、入れ替わりでお昼休みに入れる、ってルール。

経理課には会計係と用度係があるから、1ヶ月交代で「今月は会計係がお茶当番で用度係が電話当番」、みたいに決めて、それぞれの係でローテーションしているらしい。ただし会計係は係長を除くと全部で3人、用度係は5人だから、用度係から1人は会計係のローテーションに加わって、4組のペアで交替している。

僕のデスクは経理課の隣の総務課にあって、このカレンダーがよく見える。顔を上げると見えるのだ。些細なコトなのだが、ぼんやり考え事をしていると、視界にフッと入るカレンダーの漢字2文字が、時々意味を成している事に気付いて楽しくなるコトがある。

先週なんかは大森さんと金田さんで「大 金」とか。
コレには経理課長も気付いたようで、
「お、今日は大金の日か!帰りにパチンコ寄って帰るかなァ…!」
みたいな、コッテコテのジョークを飛ばす材料にもなっている。
かくいう僕も先日、生野さんと中川さんの「生 中」の日に、無性に生ビールを飲みたくなって、同僚と飲みに行ったコトがある。

とは言っても、所詮はただのカレンダーの書き込みなワケだから、当番を知らせる以上の役割はなくて、こないだみたいに時々経理課長が声に出してイジるコトはあったとしても、それ以外には誰も気に留めない、話題にすることもない些細なコトだった。

ところが昨日発表された人事異動に、僕はドキドキが止まらなくなった。

会計係の村山さんと用度係の生野さんが他の課に異動になって、代わりに会計係に毛塚さんと玉垣さん、用度係に麻生さんが入ってくる。会計係を増員して、ひとりひとりの負担を軽くするようだ。

…?

ソレがどうしたって…?

コレで会計係は4人、用度係は5人になった。用度係から会計係のローテーションに1名借り出されるシステムは終わる。
課ごとのカレンダーの当番の表は少しずつペアの組み合わせがズレていくコトになる…。

まだ分からない…?

だから、いつかこういう当番の組み合わせになっちゃう日が来るってコトだ。

お当番が会計係の大森さん、電話当番が用度係の麻生さん。

この日のカレンダーの表記は

「大 麻」

だ。職場のカレンダーにマリファナ⁉︎

お茶当番が用度係の金田さん、電話当番が会計係の玉垣さんって可能性もある。
誰が書くんだよ、「金 玉」って!さすがに気付くだろ!

毛塚さんをこのローテーションに加えた人事には悪意すら感じる。
毛塚さんが電話当番の日は「○ 毛」とカレンダーに記入される。もうこの時点で悪い予感しかしないじゃないか。
それなのに、ペアを組む用度係のラインナップは、麻生さん以外はよりによって

金田さん
脇坂さん
増井さん
植村さん

の4人なのだ。

「金毛」はブロンドのコトか?
「脇毛」も意味を成してしまうし、
「増毛」「植毛」に至っては戦慄すら覚える。

どうなるこの当番システム…‼︎
どう収める気だ経理課…!


…と思ってたら翌月からメンバーひとりひとりに番号振って、数字で書かれるようになりましたとさ。

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