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スパイス・プロレス -ペヤング獄激辛はプロレスだ

息子のクラスで、わたしのYouTube動画が密かにバズってるらしい。

ペヤング獄激辛の、レギュラーとカレーのハーフ&ハーフを顔色ひとつ変えずに完食するってだけの動画。

息子のクラスメイトの女の子が偶然見つけて、「ねぇねぇ、もしかして◯◯君のお父さんYouTubeやってない⁇」って息子に尋ねてるのを周りが聞きつけて、「エッ、マジでマジで⁉︎」ってなったそうな。

わたしは自他ともに認める辛い食べ物好きで、辛さにめっぽう強い。

辛いものに目覚めたきっかけは高専の寮生時代、スリランカの留学生に

「トゥルイっ、トゥルイっ、今日はチキンのカレーを作った。一緒に食べよう」

と誘われたことだった。ちなみにわたしは学生時代にスリランカの留学生からは「トゥルイ」、社会人時代にフィリピンの同僚からは「チュルイさ〜ん」と呼ばれていた。

実はこの時、スリランカの留学生はわたしにドッキリを仕掛けているつもりだった。

スリランカ人が日頃食べているカレーは、日本人には辛すぎるので、彼らは

「ヒェッッ…‼︎かッッ…辛いィィィ〜ッ‼︎助けて〜ッッッッ‼︎‼︎‼︎」

と泣き叫ぶわたしを見て笑い転げてやろうという魂胆だったのだ。

ところがわたしはそのカレーを、彼らに教わったとおりに右手でこねるやいなや、指に載せて口に運び、次々とこねては食べ、こねては食べ、「美味い美味い」とたいらげてしまった。

これにはインド人もビックリならぬ、インドのお隣りスリランカ人もビックリ。

「トゥルイ、オマエはスリランカで、どこのレストランでも食べられる」

と逆ドッキリの形になって大いに盛り上がり、わたしは彼らに気に入られた。彼らが長期休暇でスリランカに帰省した時には、お土産に「サルン」という、筒のような形のシンプルな民族衣装を買ってきてくれたこともあった。

それ以来わたしは「スリランカ人もビックリの辛いモノ好き」を自称するようになり、このチキンカレーのエピソードはこれまで100回くらい人に話してきた。

そしてレストランに辛いメニューがあればMAXの辛さに挑み、自分で作る料理にも唐辛子やチリソースをドバドバかけ、激辛アレンジを加えるようになった。

そんなわたしがペヤングの「獄激辛」シリーズに出会うのは当然の流れであった。

2020年、雨の降る中、昼休みに軽トラの中から元祖ペヤング獄激辛の実食Twitter生配信したことは、昨日のことのように覚えている。

それから「ペヤング獄激辛」でYouTube検索し、悶絶するユーチューバーたちを見て、「勝った…」と人知れず喜んだ黒歴史も。

日本のペヤング獄激辛を制したら、次はアジアに打って出て、韓国でも激辛として有名だという、「核」の意味を持つ ヘクブルダックポックンミョン にも無表情で挑む。

ペヤングのマルカ食品は「遊び心」がブッ飛んだ会社なので、獄激辛にも次々と新商品をブッ込んでくる。
先の動画の「カレー獄激辛」や「にんにく獄激辛」--ブルダックポックンミョン からの にんにく獄激辛-- わたしも毎回ドキドキしながらも楽しんでいる。

この「受けの美学」は厄介だ。
一度受けてしまうと、もう逃げ出すことはできない。
逃げることは「敗北」を意味するからだ。

ツイートにもあるように、ペヤングが繰り出してくる「新商品」という技を全て「受け切る」。
わたしに勝利はない。わたしがペヤング獄激辛を負かすことはできない。
しかしわたしが負けてしまうわけにもいかないのだ。

どんどん過激になっていくペヤング獄激辛の技を受け続けるのは大変な激痛を伴うし、「もう2度と受けたくない…‼️」と、焼け千切れそうなノドからヒューヒューと呼吸をし、水すら激痛を煽るのでなす術なく口からヨダレを垂れ流しながら毎回思う。
だが、コンビニやドンキで新しい「獄激辛」を見かけると、ライバルに再開したさすらいのプロレスラーのごとく、不敵な笑みを浮かべてしばらく見つめた後、ガッとつかんでカゴに放り込んでしまうのだ。

そう、そして今回もまた、ペヤング獄激辛が、強烈な技を繰り出してきた。
思えば「ファイナル」なる獄激辛も発売されてたけど、一向に終わる気配がないのがいかにもペヤングらしくて面白いし怖い。

辛さを数値的に表現する単位として「スコヴィル辛味単位 (Scoville heat units, SHU) 」が知られている。これは辛味成分 カプサイシン の割合を示す値だそうで、オリジナルのペヤング獄激辛は 455,000SHU なのだという。

いきなりフリーザの戦闘力みたいな数値が出てきてビックリするが、一般的なレストランに置いてあるタバスコが 600〜1,200SHU だというからまさにケタ違いで、あながちフリーザ様というのも的外れではない喩えだったりする。なお、獄激辛ファイナルは脅威の、というか驚愕の 916,380SHU。獄激辛の2倍辛い というコピーに偽りナシだ。ちなみに、カレー、坦々、にんにく、麻婆 の歴代獄激辛シリーズは全てオリジナルと同じ 455,000SHU だったそうな。

しかし今回の 獄激辛一味プラスは 515,380SHU。ただでさえ辛い獄激辛ソースに加え、鷹の爪の輪切りや、絶対食卓にあるのとは違う種類の唐辛子を使っている一味パウダーをかけるのだからファイナル以外の獄激辛とは一線を画している。

どうもこの「追い一味」がわたしに激しい攻撃を見舞ったのではないかという気がしている。

「速汗」と書かれているわりに、スッスッと楽しくすすって食べ、いよいよ完食!というあたりで急に、プロレスでいうならガクンとマットに片ヒザをついてしまうような衝撃が走った。

辛いとはいえ、続けざまに焼きそばを口に運んでいる間は大丈夫なのだが、完食して手を止めた途端、これまでに口腔内や喉に感じたことのない突き刺す痛みに、辛さによる発汗なのか、生命の危機に近い状態で出る冷や汗なのか分からないが、とにかく大量の汗が吹き出し、「完全に汗腺がバカになった」と感じた。

激辛チャレンジの解説でよく言われるが、本当に辛い時は、水を飲むのも逆効果で、火が上った天ぷら鍋に水をぶっかけた時のように被害が拡大する。
冷蔵庫を開けて、甘いドライマンゴーをかじってみるが、固形物ではどうにもならない。
パンケーキにかけるチョコレートシロップを舐めてみるが、さすがに口中に行き渡らせるほどの量を舐めることはできない。

万事休す…

と思った瞬間に、小さなボトルに入った 飲むヨーグルト が目に入った。
コレだ!と蓋を開け、量が少ないので少しずつ口に含むように飲むと、ウソのように痛みが収まった。

「コレ最強…!飲むヨーグルトあったら怖いものナシじゃね。」

と妻に余裕を見せたのも束の間、飲むヨーグルトの最後の一口を飲み終わると、また痛みが復活した。飲むヨーグルトの切れ目が命の切れ目。

飲むヨーグルトを使うのも反則っぽい気がするのに、2本目に頼るわけにはいかない。
異常な汗をかきながら、暑いのか寒いのか分からない状態で、だんだんと去っていく痛みと闘い、ついに今回も ペヤング獄激辛 の攻撃を受け切った。

なお、「有吉ゼミ」というTV番組で激辛メニューにチャレンジする時によく出てくる、ギネス認定の世界一辛い唐辛子 キャロライナ・リーパー のスコヴィル値は 1,569,300〜2,230,000 SHU だそうな。これはさらにケタ違い… 単純に今食べたヤツの3〜4倍辛いなんて想像もつかない。そんなギネスレベルの唐辛子を、子どもの悪ふざけみたいにドサドサ入れた料理を完食している挑戦者はすごいな…と身をもって痛感できた。

ちなみにこの後、お口直しに業務スーパーで買ったミーゴレンを作って、ペヤング獄激辛 の空き容器に盛り付けて食べた。

辛さで頭がおかしくなってたんだと思う。

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