【短編小説】聞こえますか?

Introduction

8th MAY 酒本信太による、短編小説。
”あなた”というだれかに向かって語りかけるように、筆は進んでいく。わたしは、突然の祖母の死から、いくつかの夏を経て、この文をしたためた。
この小さな手紙のような便りは、わたしが命の不思議を正面から見つめた眼差しの記録である。

Preface

2016年に、詩を書き始めてから、小さな文章を書いたり、日記を書いたりと、少しずつ文章を書くことへ向かっていきました。今も、文章を日々書いております。いつのまにか好きなことの一つとなりました。

僕は、それまで、小説というものを書いたことはありませんでした。
けれど、何かを書きたい、それを小説という形に昇華してみたい。そうした気持ちがどこからか湧いてくるのを、抑えきれず、幾度も試みては、放り出してきました。

その中で、一つ形をなした、と思えた最初の作品がこの短編小説です。

原稿用紙にしたら17枚くらいでしょうか。とても短く小さな作品ではありますが、その時の書きたいという気持ちに自分なりに応えることができたと感じました。

この作品は、2017年の夏の終わりに書きました。
この年の夏は、妙に涼しく、8月に雨の日がやたらと続いたことを思い出します。

8th MAY 酒本信太

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NOVEL

 聞こえますか?
 あなたには聴こえるはずです。
 あなたが、赤ん坊になる前、胎児として子宮に宿る前、精子として父から、卵子として母から、生み出される前。
 あなたは何だったのでしょうか。
 わたしにはわかりそうもありません。
 けれども、この謎について、わたしが、小さいながらも思いを馳せることで、丹田のあたりから、ジワリと力が湧いてくることもまた確かであって、それは、どうにも抗いようのない、原理、のように感じられるのです。
 あなたにとって、それは、あまりに自明な、当然なことなのかもしれませんが、やはり、一介の人間なるわたしには、不可思議そのもの、あらゆる景色、まどろみ、狂気の、底に漂う、姿なき、混沌と考えるにほかがありません。

 捉えようがないのです。

 いまこうして、あなたに、語りかけているには、わけがあります。もちろんわけと申しましても、それはあなたにとっては、わけというものは、はかない思いつきに過ぎないと思われることでしょうが、やはりわたしにはそれをわけと呼ぶしか無いようです。
 先日、わたしの祖母がなくなりました。それは、突然のことのようにわたしには思えます。今、こうしてこの文をかきながら、天井からカナブンが落ちてきました。わたしはびっくりして、筆をとめました。
 そういう唐突さを、わたしは祖母の死に、感じております。
 あなたにとってみればそれは仕方のない、一連の、宇宙の流れにのっとった、とるに足らぬ、万のうちの一コマ、それ以下に感じられるのかもしれません。
 いえ、そんなことはないですね。あなたはきっと、全てをひとつとして、一つをすべてとして感じられるわけでしょうから、きっと、このわたくしの突然も同じように、突然な、ただひとつの、出来ごととして体験なすったことだろうと思います。
 そう、思えばこそ、この筆が、止まることは無いのです。

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【短編小説】聞こえますか?

8th MAY / 酒本信太 -8th MAY Records

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【POETRY&NOVEL】I'm writing!

8th MAY Records -8th MAY 酒本信太が音楽制作の傍ら書き続けてきた文章、主に詩と小説を公開していきます。
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