みかん

先日、私のケータイに母から電話がありました。母は軽い認知症を患っており、時折記憶が錯綜することがあります。

私はいま54ですが、54年間ひとりっ子でやらしてもらってます。いとこはいっぱいいますが、兄弟姉妹は一人もいません。

その電話は本当に我が家の一家団欒と呼ぶに相応しい、娘と妻と私の3人が食卓を囲んでいる、夕飯時に掛かってきました。

導入は、母の得意技なんですけど、ちょっと暗いトーンで話し始めるんです。「ちょっといい?」と。

勿体ぶった言い方で、大概大したこと話さないんですけど、まあこっちも特段やることがある訳でもないから「どうしたの?」と聞きますわな。そしたら「いま電話が掛かってきたんだけど、男の声で『金が必要だ』って言うんだよ」って言うんです。

もう絶対アレじゃないですか!アレアレですよ。オレオレのアレアレです。

でその後、母曰く、「私が『誰ですか?』ってその男に訊いたら、『イヤだな、息子の名前も忘れたのかよ』なんて言うんだよ。だから『ごめんね、もうばあさんだから忘れちゃったんだよ。お願いだから教えて』って言ってやったんだ」と。

ここまではすごくないですか?完璧な詐欺対策ですよね?

「へえ、大したもんだね」って私言ったんです。 実際ちょっと感動しました。

ただ、様子がおかしくなってきたのはここからなんです。

「あんた分かる?」って訊くんです、私に。

「何が?」と私。

「だから名前だよ」

「誰の?」

「息子のだよ」

「息子って?」

「電話をよこしたその男のだよ」

「ちょっと待って。僕は誰だか分かってる?」

「分かってるよ」

「誰?」

「大豆でしょうよ」

「うん。僕は息子だよね」

「そうだよ」

「じゃあ、電話してきたっていうのは?」

「息子だよ」

「ちょっと待って。息子ってもう一人いるの?」

「いるよ」

「えーーー!!!」

どうやらそれが生き別れた弟らしいんですね。「今度ミカンでも送るよ」と、弟はそう言って電話を切ったらしい。

「ミカンが届けば名前も住所も分かるよね」って言うんです。母が。私に。

そういう宅配のシステムとかはちゃんと理解してるんですよね。なのに、親族の記憶がゴッチャになっちゃってる。

何て答えたらいい?何て答えるのが正解?

隣で聞いてた娘は大爆笑wwwもちろん俺も笑いましたけどね。笑うしかないじゃないですか。

その後、ミカンが届いたっていう報せは受けてないですけどね。

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